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1章―1

第一章 墓守



 ほのかに揺らめくランタンの灯りだけを頼りに、ミリア・エーレンブルクは夜闇をかき分けひた進む。


 肩まで伸びる鮮やかな赤毛が夜風になびき、僧衣(カソック)を模した神学校の制服が颯爽とひるがえる。

 意志の強さをたたえる凛とした碧眼(ひとみ)と固く引き結ばれた薄い唇。鉄芯を通したようなまっすぐな背筋がさながら騎士を思わせる、そんな少女だった。


「まったく、どうしてこのようなことに……」


 口をついた悪態は一体誰に対して吐かれたものか、ミリア自身にも判然としない。

 その毅然とした物腰とは裏腹に、十四歳という若年にそぐわない大人びた麗貌は、今、怖気と不安に蒼く強張っていた。


 雲が流れ、月が顔をのぞかせる。こうこうと降りそそぐ月影が闇の(とばり)を白々と薄め、周囲の景色が夜目に浮かんだ。

 そこは聖都郊外に広がる大霊園の一角。

 なだらかな丘陵地には、十字の墓標が見渡す限り果てしなく続いている。


 両親の眠るこの地には、ミリアも過去に何度となく訪れたことがある。

 だが、こうして夜の墓地に足を踏み入れるのは、これが初めてのことだった。


 まとわりつく夜気はねっとりと生温く、それでいて熱病じみた強烈な悪寒を身体の芯からかきたてた。


 粟立った肌からは嫌な汗がとまらない。

 果ては頭の古傷までもがズキズキと痛みだす始末だ。

 夜の霊園はミリアが覚悟をしていたよりもはるかに薄気味の悪い場所だった。少なくとも、年頃の娘が一人で夜歩きを楽しめるような場所では断じてない。


 絡みつく恐怖を振りきるように、ミリアは石畳の通路を足早に進んでいく。滅多なことでは物怖じしない彼女も、流石にこの状況には心胆を竦めずにはいられなかった。

 それでなくとも、ミリアは暗闇というやつが人一倍苦手なのだ。


「本当に、どうしてこんなことに……」


 泣き出しそうな面持ちで肩を落とす。

 それは言葉通りの疑問であり、現状に対する不平であり、途方に暮れた嘆きであり、己の軽率さへの後悔であり――そしてこの状況を招いたすべての者たちへのいきどおりを込めた、そんな呟きだった。



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