はじまり
人間以外のものと会話ができる。柳はそういう男であった。しかし本人いわく、霊感はない。
彼が話せるのは、小説や漫画にあるような、学校の七不思議にまつわるお約束のものたちだけだ。すなわち理科室のアレだったり、音楽室のソレだったり、である。
なぜそのように限定的であるのかは本人すらわからない。占い師や霊能者に会ってみても、彼らは一様に柳をこう評するだけだ。そうとう鈍感な部類、あるいは一生幸せに過ごせる人間だ、と。
なるほどと柳は満足したが、クラスメイトでもある柳の友人は納得しなかった。
話ができるというのは実のところ柳のつくりだした嘘で、彼は、彼の家族すら知らぬ精神的な問題を抱えているのではないか。
友人はそう考えていた。
しかしそれは杞憂だった。柳が青少年にありがちな、揺れ動く心を爆発させておかしくなったという、柳病気説を信じていた友人はようやく安堵したのだが……重要なのはそこではなかった。
やはり、柳は友人に嘘などついていなかったのである。
生物の教師が頼んできた何度目の雑用――理科室掃除を快く請け負う人のよい柳にくっついて、友人は教師へのごますりをもくろみつつ一緒に掃除をしていた。
その回数が片手を超えたとき、友人は、柳の言っていたことを全面的に信じた。なんと友人の前で、人体骨格模型が柳を相手にしゃべりだしたからだ。