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陸妃(仮)  作者: 新田 船
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 女三人よれば姦しいと言うが、三人以上あつまるとより騒がしく話題が途切れることが無い。

 その部屋にいた休憩中の女官達5人は後宮の話に花を咲かせていた。


「そういえば、ご存知?この前相国の第三王子が月麗王妃様に送った牡丹の簪の件」

「あの大粒の紅玉が付いている物でしょう。私見たけことあるけど、あれもう国宝級の代物よね」

「相国の王子ってあの渋みある美形っでしょ。ほんとうちの王妃様もってもてよねー」

「上はいい感じに年を取った包容力系から、下は可愛い弟系までよりどりみどりだもの。それに、旦那様が国王陛下で養父が陸帝陛下って、格差がありすぎて嫉妬の念すらおきないわ」

「そういえば、ここだけの話だけど、式部の新人で王妃様の事を批判した人がいたらしいんだけど、一週間の謹慎処分にされたらしいのよ」

「えっ、なにそれ。私知らないわよ」

「なんでも、大陸の平和の為にも王妃様は離婚して陸帝に嫁がせるべきだって国王陛下に奏上したんだっって。一応風邪をひいて休んでいるって事になっているらしいけど、上司から頭を冷やせって事で蟄居させられているんですって」

「うわぁ。その新人馬鹿よねぇ、お二人の結婚は陸帝の祝福の元に執り行ったのになんで蒸し返そうとするのかしら」

「でも実際どうなの?うちはここ数年安定してるけど、他国ではまだ恵みがいきわたっていないって聞いてるけど」

「さぁ?でも、昔よりひどいって話は聞かないけどね。雪って言ったかしら、貴方はどう思う?」


「……大丈夫、ではないでしょうか」


 何度も話題が移りながらも、あきもせずに話続ける女官たちに相槌を打ちながら、雪鈴は一体いつ終わるとも知れない彼女たちの話に耳を傾けていた。




 雪鈴の侍女としての仕事は少ない。

 もともと、貴族の令嬢のお世話などしたことがないので何をすればいいのか全くわからない上、燈蛍があまりにも有能だった為にする仕事がないというのが本当の所だ。

 香蘭姫は5人、花淋姫に至っては10人の侍女を連れているのに、菖歌姫が後宮へ連れてきたのは雪鈴と燈蛍の2人だけ。うち一人は戦力外なのに菖歌姫が困ったことなど一度もない。燈蛍が朝の支度から衣装の着替え、就寝前のお茶までありとあらゆることを一人でこなしており、雪鈴はせいぜいお召し物の洗濯位しかすることがないのだ。

 何度か手伝おうとするのだが雪鈴が一つの事動作を終える前に、燈蛍が全ての仕事をを終えてしまうので全く手を出す隙がないのだ。

 更に雪鈴以上に働いているにも関わらず、いつの間にか後宮の女官達にも多く顔見知りを作っており、その行動力といい度胸といいとても17歳とは思えなほどにしっかりしている。

 もともと燈蛍一人でついてくる予定だったので、ある程度身の回りの事をしたら後は自由にしてくれていいと菖歌姫から許可をいただいているものの、ほぼ何もしていない状況に雪鈴は心苦しい思いを抱いていた。

 かといって、無為に時間を過ごすわけにもいかないので好意に甘えて空いた時間で休憩中の女官達に話かけた雪鈴だが、お話好きの女官達は自分たちの話を聞いてくれる存在に飛びついた。

 けして聞き上手というわけではないが、嫌な顔一つせず気の済むまで話に付き合ってくれる雪鈴に彼女たちの口は軽くなる。


(どう後宮内の情報を探ればいいのかと思ったけど、これ位ならなんとかなりそう)


 情報収集や内偵など、難しく考えていたけれど色んな話を聞いてある程度まとめて報告すれば、後は陽賢がどうでるかによって雪鈴も動けばいいだけだ。とはいっても、何ができるわけではないけど。

 そうして、やってきた女官長に注意されて女官達が仕事に戻ったあと、雪鈴は部屋に一旦戻ると備え付けの机に向かう。

 机の上には後宮に来る前に鳴音に渡された飴玉の入った壺と、陽賢から渡された蓋つきの手鏡、巻物が置いてある。

 そのうちの一つである巻物を開くと、先ほどまで聞いていた状況をまとめるために筆を走らせた。

 

 字のわからない名前の人が多いいので、〇や△□などの記号や当て字を使ってはいるが、王宮の人間関係図を表す表は少しずつの修正を加えながらも形づくられていっている。

 まず上中央に国王と王妃様を据える。

 そして右側に王妃様と王様の結婚をよく思っていない貴族や豪族達を□で書き足す。これは陸帝に嫁がせたい派と正直外戚の地位が欲しいゆえに邪魔したい派の二つある。三華姫の一人花淋姫の朱家の様に古い家柄でいわゆる名門と言われる貴族達が主であるが、たたき上げの官吏達の中にも賛同する者が少なからずいるらしい。

 下に立場的中立派は△、大多数の人たちはこの中の属していて自国としては今の所問題ないので様子見として静観しており、菖歌姫の月家はもともと争いやいさかいを避ける傾向があるので中立の立場をとっている。

 最後に左側に王妃様に好意的な一派は〇をつける。こちらは軍関係の人間が多いらしく、香蘭姫の黄家などもこの中に入る。

 一通り書き終えて筆を置いてから、雪鈴は三華姫がそれぞれの勢力から集められている事に気が付いた。


(やっぱり、ある程度周りとの力の均衡を図る為にそれぞれから集められたって事・・・よね)

 

 そこまで思い至りはしても、雪鈴ではそれらの情報をもとにどう動けばいいのかと発想が浮かばない。

 せいぜいできることと言えば、王家を良く思っていない朱家の花淋姫と侍女たちを見張る位だが、それでもそのひとりひとりがどこで何をしているかなどの状況を把握する能力など雪鈴は無いことを知っていた。


(とりあえず、今日の夜に連絡する予定だから分かったことの報告だけしよう)


 墨が乾いたことを確認してから、巻物をしまって片づけると頭を切り替え菖歌姫の部屋へ向かう。

 できる事は限られているかもしれないけれど、できる事があるならしよう。

 そろそろお茶の時間だから、準備する手伝い位ならできるとふんだ雪鈴は丁度菖歌姫の部屋から出てきた燈蛍に声をかけた。




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