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陸妃(仮)  作者: 新田 船
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献華祭編

 幾重にも重ねた衣装に足をとられそうになるのと憂鬱な気持ちに、背が丸まってしまわないように背筋をのばし一歩一歩をゆっくりと歩く。

 献華祭けんかさいのために後宮に集められた色とりどりの華やかな衣装をきた少女達が、期待に目を輝かし軽やかな足どりで後宮への門をくぐりぬける中、雪鈴は自分の少し前をしずしずと歩く姫君を見た。

 ゆるく結い上げた髪を簪で纏め上げ、後ろからでは見えないが大きな翡翠色の瞳を持つ愛らしい少女は、祖先が仙女と婚姻をし、そのせいか仙人になるものが多い月家の姫君で、名前を月菖歌げつしょうかという。正に貴族の姫君と呼ぶのにふさわしく、教養深く、芸事に優れた、嫋やかな方で、雪鈴が今まで見てきた中でも、5指に入るくらいの美しい女性だ。

 そんな美姫の侍女として後宮に入ることとなった雪鈴は、これから自分が行うことで彼女に迷惑をかけるであろう事に対し申し訳なさでいっぱいになった。


「雪鈴様、どうかなさいました?」


 菖歌姫付きの侍女であり、横を歩いていた越燈蛍えつとうけいが転ばないよう慎重に進む雪鈴の姿を見て、声をかけた。


「いえ、その後宮のあまり素晴らしさについ見入ってしまって・・・」


 まさか衣装が動きにくいですとは言いづらく、適当な言葉で誤魔化す。


「確かに素晴らしい庭園ですが。仙界の方でも驚くほど、なのですね」


 同意の言葉の後に、継がれた言葉が一段低くなった事にも気づかず、雪鈴は「はい」と答えた。

 月麗王妃様を見守るために神仙界より派遣された新米仙女、というのが今の雪鈴の肩書きである。

 その役目を果たすため、陸帝が月家当主にお願いをして、後宮に入る月家の姫君の侍女として今回菖歌姫に同行することになったのだ。


 神仙界と縁の深い月家では、陸帝が下界に来るたびに彼が起こした面倒ごとの後始末をしていたため、その程度ならと快く了承してくれた。

 菖歌姫は、いきなり侍女としてつくことになった雪鈴に対しても嫌な顔一つせずに、笑顔でよろしくと頭を下げられ、逆に肩身の狭い思いをしたほどである。


「献華祭になるまでの間、何事も起きなければいいんですけれど・・・」

 

 雪鈴は、ここに来ることになった原因の2か月前の会話を思い出した。


 




 大陸鳳乾では、春の初めに陸帝に花を捧げる献華祭が行われる。

 3代前の陸帝の妻で、農家の娘であった少女が、豊穣を祈願して大切な人に花を贈るという村の習慣のままに、陸帝に花を渡したことが、そもそもの始まりだと言われている。

 それが高貴な女性が陸帝を祀ってある廟に、花を捧げる儀式として下界に伝わり、現在では国でもっとも身分の高い女性-王后、王妃、王女など―が、華姫として国の中から選ばれた13歳~18歳の三人の少女達を引き連れ、祭りを執り行うようになった。


 月麗王妃のいる釆国では、昨年は王太后が祭りを行っていたのだが、今年は王太后の体調が思わしくなく、代わりに王妃が行うこととなったのである。

 本来なら女とはいえ後宮に入れるのは王の妻となる者たちと、その世話をする女官達のみなのだが、今回の献華祭には例外的に後宮の一角にある淑貴宮で、祭事が執り行われる一か月の間生活することが許された。


 人が動けば、すべてが動く、後宮という国の中心に外から人がはいるとなると、それらは陰謀という形をとって、よからぬことを企む者たちには絶好の機会を与えることになる。


「これを機に、月麗によからぬことを企むやつが現れる」


 再度説明を求めた雪鈴に、楊堅は丁寧に概要を説明をした。


「それと私が、後宮に行くのとどう関係があるんですか?」


「それを阻止するために、私の代わりに動いてもらうのだ」


「・・・私が、ですか?」


 さも当たり前といわんばかりの陽賢に思わず確認してしまったのは、当然といえよう。

 孤児出身で、今でこそ側妃として最低限の教養を身につけさせられている最中だが、いまだに字もろくに読めず、剣も持てず、むしろ日常で行う事すら要領が悪いと言われている自分がなにをどうしたら、間諜の様な真似ができるというのか。

 雪鈴のあっけにとられた表情から何を読み取ったのか、陽賢は求めていたこととは違う言葉を口にする。


「あぁ、彼女の立場位私は心得ている。いくら私が彼女の父といえど、一国の王妃に人目のない場所で会えば娘のことを不義密通などと悪い噂を流されること位はな。だからおおっぴらに人のいるところでしか、現れないようにしているんだ」


 昼間に燕の言っていた「王様がいい気分じゃないよな」という台詞と合わせると、全く的外れではあるが、一応楊賢は彼なりに考えてはいたらしい。


「だから、献華祭の間後宮に潜入し、陰ながら怪しい者がいないか私に報告するんだ」


 だからで結論づけられた言葉に納得がいかず、雪鈴はなぜ自分がするのかという疑問を再度告げたが陽賢は当然だろと全く取り合ってくれない。

 陽賢は神のせいか、かなり独特な思考回路を持っている。ただ、唯一わかっているのが娘のためにという彼の気持ちだけだ。

 何を言っても無駄だと悟った雪鈴は仕方なく、この件を了承した。





「でも、情報収集ってどうすればいいのかしら?」


 叔貴宮であてがわれた侍女用の部屋で、雪鈴は途方に暮れていた。

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