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陸妃(仮)  作者: 新田 船
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7 菖歌視点

 王妃様とのお茶会をした次の日、菖歌は珍しい客人を迎えていた。

 後宮を取り仕切る女官でも最古参であり、王の乳母である典女官と彼女の傍に控える同年代の少女である李女官だ。基本後宮でも乳母という立場で王に直接仕えている為、その影響力は高い。そんな彼女がわざわざ訪ねてきていることに驚きつつも、菖歌は彼女達を部屋に招き入れた。

 二人は入室をするとともに菖歌の前にひざまずき、こう言った。


「先日の件につきまして正拳のせいで、菖歌姫の侍女を怪我させた事大変申し訳ございません。彼女の怪我が治るまで数日間だけですが、この李女官が誠心誠意をこめてお世話させていただきます」


 それを聞いて、菖歌は笑顔のままこう思った。


(あらあら、また燈蛍がぷんぷんしてしまうわ)



 

 木雪鈴。

 菖歌の彼女に関する印象は「どこにでもいる人」。これに尽きた。

 大人達の政治的事情とやらで、後宮に行くことになったと知った時、菖歌はいい暇つぶしができると喜んだ。

 仙女の血を継ぎ、仙人を輩出する名門月家。その血筋ゆえか、容姿に恵まれ長寿な者が多く、月家の血を取り入れようと胎内に宿った時点で求婚の手紙が山の様に届く。

 直系の娘である菖歌も、親の決めた婚約者が5人ほどいる。

 月家は、仙人の資質を持つものが多く、基本無欲で闊達ないわゆる世間離れしたいわゆるつけこみやすい人間の集まりである。その反対に資質に恵まれない者たちは、自己の欲望に忠実な俗人としての面を強く持つものがいる。

 そんな彼らの努力によって数多くの陰謀を潜り抜け、長い歴史と独自の地位を築いてきた。

 菖歌はもちろん後者に分類される人間であり、彼女の価値基準は全てにおいて「面白いか否か」であっあた。


 そんな彼女にとって、神仙界から派遣された新米仙女という名目で現れた少女もはじめは「面白い存在」かと期待していたのだ。しかし、雪鈴は見たままの存在だった。

 パッと見、どこにでもいる平凡な少女。顔は人並み、背は高くもなく低くもない。年頃にしては痩せてはいるが、健康的でよく手入れされている肌。不器用だけれど一所懸命な所は好感が持てるが、特出した部分というわけではない。 

 ある程度の貴族的な礼儀作法を身につけていることから、大切に育てられたことが伺える。多分仙人になる前は貴族とはいわなくともそこそこ裕福な家の出であったのだろう。

 人を疑うことなどないような、のほほんとした性格に癒しを感じるものもいるだろう。だが、もちろんそういった人間を苦手に思う人間もいる。

 

(そこが、燈蛍に引っかかっちゃているのよね)


 燈蛍は月家に古くから仕える越家の人間で、菖歌にとって最も信頼できる幼馴染であり、親友である

。越家は五能―千里眼、読心術、遠耳、宿命智、俊足―と呼ばれる異能をもつ者が稀に生まれる家系で、その血筋故に権力者に囲われ飼い殺しされていた。

 それを助けたのが何代も前の月家の者で、それ故に越家は月家に忠誠を誓っている。

 だが、十五年前のある戦のどさくさに越家の者数人が誘拐され、燈蛍もその中に含まれていた。月家の者は総力を尽くして彼らを誘拐した人間を捕まえて、燈蛍は救い出された。

 越家に生まれたが、力を持たず、まだ自我もあいまいな幼い燈蛍が誘拐先で何を見たのか菖歌は知らない。

 だが、戻ってきてからの燈蛍は、何かに追い立てられるように、ありとあらゆる知識、武術を学び始めた。

 鬼気迫る勢いで頑張る彼女が無茶をして倒れるたびに、幼い菖歌は介抱をした。

 そんな経緯を持っているせいか、燈蛍なんの苦労もしていない人間があまり好きではなかった。

 

 そんな彼女にとって雪鈴はいろんな意味で頭の痛い存在だった。

 大事な主が陰謀うずまく後宮に行くだけでも不安なのに、その主達の一家を振り回す陸帝の派遣した仙女は、侍女としてあまり役に立たない。

 もともと、侍女として連れてきたわけではないので期待する方がおかしい、とは燈蛍も思っているのだが主の事で神経がはりつめている時に余計な気を回させる雪鈴についいらいらしてしまう。

 雪鈴もそれをわかっているのか、燈蛍とはお互いに少しずつ距離を図っている。

 昨日頼んだ花は、燈蛍なりのお近づきの証拠だった。結局、犬の掘った穴に引っかかって怪我をしたせいで台無しになったわけだが。

 

 そして、今回そのせいで新しい女官いぶんしを入れることになったのだ。

 菖歌は雪鈴を嫌いではないので、できれば二人が仲良くなってくれればいいと思っている。ただ、主である自分が介入するのは逆に自体の混乱を招きかねない。

 新しい女官の存在は、もしかすれば二人の仲をよくするかもしれないし、悪くするかもしれない。また逆に何一つかわらないかもしれない。


(でも、面白そうだからいいか)


 結局の所、菖歌にとっての基準は面白いかどうかなのだ。

 にっこりと、菖歌は新しく仕えることになった李女官に微笑みかけた。




多少修正加えました。


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