新生活④
夜、部屋の明かりはつけてない。
ソファの上で、詩は毛布にくるまっている。
そこまで悪いわけじゃないけど、
なんとなく今日は重い日。
部屋が静かすぎて、なんとなくテレビをつける。
なんとなく。
ちょうどスポーツニュースの時間だった。
画面の中に、昂汰が出てくる。
スーツ姿。
インタビュー。
いつも通りの落ち着いた声。
「チームとしては、いい形で来れていると思います」
カメラのフラッシュ。
詩はぼんやり見ている。
(あ、ちゃんとしてる)
当たり前のことなのに、
妙に遠く感じる。
次の瞬間、
画面の端に映る女性アナウンサー。
柔らかい笑顔で、
少し距離を詰めて質問している。
昂汰は普通に答えてる。
詩はそのまま視線を止める。
何かが起きてるわけじゃない。
でも、胸の奥が少しだけ沈む。
(こういうのが、普通なんだよね)
自分は今、ソファの上。
髪も結んでなくて、
もちろん化粧もちゃんとしてなくて
ただ毛布にくるまってるだけ。
なのに、画面の中の昂汰は、
ちゃんと“見られる側”にいる。
比較する意味なんてないのに、
勝手に比べてしまう。
(そりゃ、あっちの方が似合うよね)
そんな考えが一瞬よぎって、
すぐ打ち消そうとする。
でも今日はうまくいかない。
スマホが小さく振動する。
グループの通知。
球団の公式アカウント。
「本日の勝利インタビュー」みたいな投稿。
サムネに、笑ってる昂汰。
詩はそれを見て、
一度だけ息を吐く。
(仕事、だもんね)
分かってる。
分かってるのに。
テレビの中の“ちゃんとした昂汰”と、
今の自分が、急に遠くなる。
その瞬間。
玄関の鍵が開く音がする。
「ただいま」
いつもの声。
昂汰が入ってくる。
詩は少しだけ体を起こす。
「おかえりなさい」
リビングのドアを開けた、その
一瞬で空気を読む。
テレビに映ってる自分と、
ソファの詩。
それだけで十分だった。
「見てたん?」
軽く聞く。
詩は曖昧にうなずく。
昂汰はそれ以上は聞かない。
ただ、近づいてくる。
ソファの横に立って、
そのまま少しだけ詩を見る。
“大丈夫か?”
“大丈夫”
こうなる。きっと。
「…疲れた」
ドサっと詩の隣に座り込むと
「充電させて」
毛布のまま詩を抱え込む
“あー落ち着くわ”
腕の中、少しずつ力が抜けていくのがわかる
小さく息を吐いた、それを確認する
「…昂汰さん、ご飯は?」
「んー…試合前に」
「用意できてるよ」
だから先に
“シャワー浴びてきて”
昂汰はそれを聞いて、短く笑う。
「はいはい」
“でももうちょっとだけ”
腕に力を込める
いつのまにか癒されてるのは自分の方で。
「…詩は?食べたん?」
「…うん」
「んー…じゃ動くか」
ポンポン、と背中を叩いて解放する。
「飯、頼んでいい?」
一緒に立ち上がる詩に。
“詩の分もな”
そういうと、
少し気まずそうに顔を背けながら
頷いた。
遅めの夕食を一緒にとって
ソファに戻る
試合の動画を見直していると
隣でうとうととしている姿に
顔が綻ぶ
「うた…?先に寝とき」
何度そう言っても一向に動こうとしない
今日は好きにさせてやろうと
放置すれば
心細いのか
ほんの少しだけ擦り寄ってくるのが
可笑しくて
意地っ張りも
スッピンも
不安も
不調も
全部が厄介で愛おしいと
どうしたら伝わるだろうか




