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第4話 外伝 月下美人屋敷狂い

それは狂気か



それとも愛か

1994年8月1日15時15分









「肝試し・・・ねえ」


「そう!行かない?」







我が愛しのマイエンジェル、冨永彩希子にそう誘われたのは中二の夏休みが二週間ほど経ったある日の事だった。


最近この町では不思議な事が増えているという。




曰く「野良の犬猫が異常に増えている」だの


曰く「白装束の男女が小学生を物色している」だの




およそ怪談の類ではなさそうな話が流行っているのだが。




「そういうのじゃないから!もうちょっと怪奇系のやつ!」


「?おばけでも出るのか」


「そうそうそういうやつ!」


























あのね、三丁目の三子山に入っていく道から少し入ったところにある古いお屋敷。


あそこ、昔植物学者の夫婦が住んでたんだって。


でね?その二人の研究テーマがね?










永遠の美、なんだって。




始君、月下美人ってお花知ってる?


そう、夜に咲いて朝になると散る花。




その月下美人に動物性タンパク質を摂取させて、そこから出るエキスを培養してて人体にあたえることで永遠の美しさを得る。。。




何年もの研究の末に実験までこぎつけて、ある日その夫婦は自分たちにそのエキスを注射したの。


そしてその実験は成功したらしいんだって、近所の方々は傍目から見ても別に二人の見た目に変わりはなかったみたいなんだけど、それで成功だーって喜んでたんだって。




でもね、そこから数日するとその夫婦、その家から全く出てこなくなって・・・もう50年くらい経つんだって・・・。













「変な話だな。近所の人は家覗いたりしなかったのか?」




「高い塀にその上にはガラスが埋め込まれてるし、門は分厚い鉄でできてて、越えるのにも一苦労。あそこに侵入するのは結構大変そうだったよ」




「なに、お前見てきたの?駄目だろ!どっか行くときはちゃんと俺に報告しないと!」




「うーゴメンナサイ」






実は彩希子、小学生の頃誘拐の憂き目に合ったことがあり、それからは絶対に私と登校していたのだった。


同じ中学になったのも私が彩希子を心配したがためだった。


基本私がいればなんとかなるし、私が不在の時は家の会社の者が変わりに守ってくれるし守りやすかったからだった。




「分かった、いつも俺の我儘聞いてもらってるんだからな。自由にさせてやれないのは確かに悪いし、付いてってやるよ」




「ホントーっ?じゃあ今から!今から行こう!向こう薄暗いから!今くらいに行けば夜にいくよりかは大丈夫じゃない?」




「わ、分かった分かった、準備するから、ちょっと待ってて」



















「始君。なんだねその装備は。某暗殺宇宙人の基地にでも乗り込むつもりかいな、もしかして・・・おばけ怖い?」




「・・・別に」




侵入の時点で文字通りハードルが高そうだったので縄梯子とか用意したのだが確かに今から思えば過剰な装備だったかもしれない。


コンバットブーツは普段から履いているとはいえ、ハンドガンのエアガンに強力懐中電灯、十徳ナイフ。更に金テコやらハンマーやら。


肝試しにしては過剰かも。






「よし、行くぞ、俺についてこい」




「お、おお・・・」
















15時35分。


件の屋敷は確かに侵入は容易ではなさそうだ。




「取り敢えず、周囲を見てみるか。彩希子が見落としてるだけで、侵入出来るところがあるかもしれない」




「そうだね、始君なら見つけられることもあるかも」




しかしそんなものはなかった。


というか私は更に不審感を抱く。




「厳重過ぎやしないか・・・?」




「だよねっだよねっ、まるで要塞というか・・・刑務所みたい」




敷地をグルリと囲むようにかなり背の高い塀が我々を見下ろす。


そしてその上にはなるほど、確かにガラスの破片の先がチラリと見える。


門の上には鉄条網が張り巡らされ、とてもじゃないが二人での侵入は少し大変そうだ。




「こいつはなかなか。。。面倒だぞ、ていうか正面の鉄条網破って行った方が楽な気がする」




「ど、どうしよっか」




「よし彩希子、飛ぶか」




「?あ、あれか」







ようは忍者がよくやるあれ。


一人の両手に走ってくるもう一人がタイミングよく足をのせ、そのまま持ち上げて思いっきりジャーーーーンプ!!!!!


説明になってるか分からんがそういうやつ。私と彩希子は遊びで良くやってたから楽勝だった。


これで彩希子なら7mくらい飛べる。


そして俺は鉄条網に気をつけながら慎重に門を越える。



























そこには山があった。
















「は、始君、わ、私は大丈夫だから、気にしないでね・・・」








山があった。








「最初に、中の状態を偵察すればよかった・・・ラジコンなら家にあったからそれを使えばよかった・・・」







骨の山があった。





人骨である。








夥しい量の骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨。









「取り敢えず家に救援要請をする、行く前に何処に行くかは言ってるから事情は察してくれる筈だ、怖いか彩希子、引き返しても良いんだぜ」




「怖くない、始君と一緒だから怖くない、行こう中に。中に一体何があるのか」




「良いだろう。背中は任せるぞ」




















中と外は拍子抜けするくらい違っていた。


変に散らかってなどはいなかった。




た、だ、し




「正面廊下クリア」




「後ろは大丈夫」




「次は手前の恐らく応接室、123で開けるから、彩希子言ってくれ」




「了解。1,2,3!」





ガチャッ!







「誰かいる。スミマセンお邪魔しています・・・」




ナルホド確かにそれは人間だった、だった存在のようだ、だったモノだった。







「死んでる?」




「死んでる。死因は・・・なんだ?乾燥・・・急激な乾燥?」








としか言えなかった。


急激に全ての栄養分を抜き取られたかのように皮膚が骨に貼り付いていた。所謂ミイラである。


それに、








「陸軍の軍服だ」




「これ中佐じゃないの?」










右手には官給品であろうサーベルが抜刀状態で持たれており、左手には14年式拳銃が握られている。


残弾はなかった。


部屋には空薬莢が落ちており、今更ながら部屋を見回すと流血のあとが見られた。







「ここで戦闘があった・・・何故?」




「始君、頭に撃たれたあとがある。死因はこれかも」




「なんなんだここは・・・」










更に総計10人分以上の軍服が平屋の屋敷で確認できた。


しかも殆どが刀傷や銃創の跡が見られた。





「大丈夫か?」




「うん大丈夫、始君は?大丈夫?こんなに一日に死を見ることなかったでしょ」




「そうな、それはお前も同じだろ」




「まあね。あたしも始君もちょっとトンでるとこあるからね」




「さあて。これだけの犠牲を出した成果、探してみるか」




「うんっ」













それはあっさり見つかった。


建物の中央に地下室への階段が堂々と大きな口を開けて我々を待っていた。




寒い。


今は8月の筈だ。


温度計があった。


10度で安定していた。


地下室は3つの部屋に別れていた。


一つは恐らく研究室だったのだろう、書類やら硝子の容器、夥しい量のデータが収められていた。


中学レベルの科学知識しか無いが有り難いことに写真付きの書類が多かった。


研究チームの集合写真。


やってることはアサガオの観察日記に見えるが怪奇植物のレポート。


そして種子を植え付けられた死体の経過が書かれたレポートなどなど。


こいつは中学生には刺激が強すぎるぜ・・・






そして、もう二つの部屋。


これが大問題だった。




「この花・・・もしかして」




「月下美人だ、蕾が開いてるけど・・・枯れている」








しかし大きい。


異常に。


どれだけの栄養分をとればここまで大きくなるのか。


これを育てるために、あれだけの死体が必要だったのか・・・なんのために。

























元々は旧日本軍の依頼だったという。












怪我を負った兵士が直ぐに回復し早く前線に行ける研究が走りだった。
















その男は日本から中国に渡り大陸の植物を研究していた元植物学者だった。




そのテーマは「永遠の美」。




ある文献に書かれていたその記述に男は胸が踊った。


大陸の奥深く、月が満ちる夜に一晩だけ花を咲かせる聖なる花。


その蜜を飲めば不老の効果が得られる、と。












十年かけてその男は遂にその花を見つける。





しかし蜜を飲めどその効果はわからない。


かわりに肌が綺麗になった気がする。


あとなんか傷の治りもなんとなく早くなった。














戦争が始まり軍の研究室に身を寄せてからも自分の研究を続けていた。


明確に若くなる成果が欲しかった。


なんとなくではなく明らかに傷の治りが早くなってほしかった。


男はどんどんどんどんのめり込んでいく。













男は取り憑かれてしまった。













そんな折、抗日運動で捕まった中国人捕虜が何人か研究所に連れてこられた。


そのうちの一人の女性に男はあろうことか一目惚れをしてしまう。





本当に美しい。女神とはこういう女の事を言うのか。もはや気品という言葉そのもののようだ。






この女は世界が滅びるまでその美しさを保たなくてはいけない、絶対に。










なんとか結ばれたい男はその女性に取引をもちかける。


捕虜たちを研究の実験台にしたと捏造して逃し、そのかわり自分の助手として側にいて欲しいと。


女はその研究に興味を示した。この人に協力すれば私は永遠に美しくあれるのかもしれない。


女はすっかり篭絡された。


その願いは受け入れられ、二人は愛しあった。

















しかし時勢が彼等を襲う。


ちょうど日本に拠点を移して直ぐの時期だった。


一向に研究が進まないことに業を煮やした担当将校の部下が屋敷(研究所)にやってきた。






話をしているうちに激昂してきたその兵士がサーベルを抜いた。


反射的に、入手していたワルサーPPKでその兵士の眉間に弾丸をぶち込んだ。




よくぞ撃てた。


本物の軍人の抜刀より私なんぞの攻撃が先に当たるとは。


これは神様が私を助けてくださったからに違いない。














はっ。




隠さなければ、二人は考えた。







動物性タンパク質を肥料にすることで蜜の出が良くなるのは分かっていた。


但し使っていたのは犬や猫、モルモット。牛、豚、鳥。




この辺で行き詰まっていた。



















ならばこの次である。









二人は死体の解体を始めた。


どうせ人目にはつかないのだし、なんなら今まで動物も外で解体していたのだからいつもどおり外でやった。


そして地下の研究室の土に埋め、しばらく待った。















3日後、花は2倍の大きさにまで大きくなった。


蜜の効果も強くなった。女は進んで実験を引き受けたから効果は直ぐに出た。


肌も綺麗になった。


今までの人生でついたであろう古傷も全て消えていた。


分泌される汗からは甘い香りがし、髪は一層黒く輝いている。







桃娘(タオニャン)だったか。


桃ばっかり女に食わせ、それを貴族の愛玩用にする…中国の伝説はなんて素晴らしいんだ!


この女はもっと上等だ。




女の体を舐め回せば口いっぱいに甘い味が広がっていく。


全てこれで満ち足りる。




















二人は食事を取らなくなった。












しかし4日後、花は枯れかかっていた。


大変だ、この花は一輪しかないのだ。


種もない。増やしようがない。










この花を大切に育てるしか





























この女を美しく保つことは出来ない。




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私がお前を守ろう。
























その為には

































取り敢えず一人欲しいな。


















次の日、タイミングよく担当将校のもう一人の部下が視察に来た。


一瞬背中を向けたので弾丸を頭にぶち込んだ。


さっそく処理して土に埋める。




花は持ち直した。





蜜も出た。




































遂に沖縄が連合軍の手に堕ちた。本土決戦も秒読みだった。





























男は疲れていた。




何人殺したかもわからない。




覚えてない。




思い出す気力もない。




そんなことを思い出すくらいなら女の事を考える。















まあ、でも、





一度大勢で来られた時は流石に凄んだがタイミングが良かった。


グラマンの銃撃により一個小隊が全滅した。









このごろ花はおかしな進化を遂げる。


花の周囲に死体を置くと勝手に触手が伸びてきて養分を吸い取っていく。






















この時期からか。


妻は動かなくなった。









心音はする。


しかし全く動かない。


肌はまるで作り物のように硬くカチコチになっていた。


筋肉の動きすら見受けられない。


等身大の良くできたマネキンのようになってしまった。


瞬きすらもしない、水分すら摂ろうとしない。


蜜を多量に摂取した副作用なのか。






あはあ、なんてお前は美しいんだ。




えへへ、綺麗だよ。



















えへへ





えへへえへへ





綺麗だよ。














綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。綺麗だよ。
























綺麗だよ。



























ふと







我に返る








果たして「これ」はまだ生きているのか。


























生きてるさ。




生きているとも。




じゃあなぜ愛し合えてるんだ?


死体とは愛し合えない。






私は愛している。妻を、この女性を。


































もうひとつの部屋には棺桶のような金属製のカプセルが安置されていた。




「どうする始君、開けてみる?」




「彩希子はどうしたい、二人の行く末見届けてみるか?」




「始君のアタシへの覚悟がどれほどのものかという覚悟を見てみる、という意味を込めて」




「じゃあ開けよう」





















「こうなりたいか?」




「アタシは、なりたくない。できるなら愛した人と、あい、した、人と。。。」




「行こう」



















今まで私は色々な愛のカタチを見てきた。


落ち着いた愛。


暴走した愛。




様々な愛を。





これもまた一つの愛なのだと尊重したい。




中二という、人生においてとても大きな時期にこの愛を見る事が出来たのは私と彩希子にとって忘れられない出来事となった。



















後日談。




私の母が役所に問い合わせた結果、この屋敷に持ち主はおらず宙ぶらりんの状態だったのだが、今回のこの件で流石に行政による取り壊しが決まり、今では見ることができない。庭先の人骨は個人の判別が不可能ということで無縁仏として葬られ、地下の花は引き抜かれてカプセルと研究データごとそのまま火葬され、町内の墓地に葬られた。






これでこの話はお終いである。


これ以上語ることはない。


















登場人物




中森始…14歳。


谷城中学校二年生。バスケ部キャプテン。

中学入学時点でバスケ未経験ながら驚異の運動神経と運動量、センスにより大注目選手となり、7月から経験者を差し置きキャプテンにも就任している。

同い年の彩希子とは幼稚園からの恋人同士。昔やめた道場の門下生にほぼ毎日襲撃さている。その為彩希子に迷惑がかかると一度は別れたが彼女単体で狙われた為、しっかり守り抜く事を決めてよりを戻したことがある。この事から彩希子に対して過保護だが甘いところがある。

冷静沈着、大胆不敵な性格。理知的に見えるが頭より先に体が動くタイプ。


ついこないだ某国の工作員に拉致されかけた。




富永彩希子…13歳。


谷城中学校二年生。書道部部員。

華道富永流家元の一人娘で芸事や武芸に秀でる。

同い年の始とは幼稚園からの恋人同士で、壮絶な三つ巴の闘いを制し結ばれた。

彩希子も始を襲う門下生に標的にされているためいつも二人一緒にいて二人で戦う。

遊びに行くときもどちらかの家の敷地内の中でしか遊ばない為少し世間知らずなところがある。


明るく、情熱的な性格。曲がったことが嫌いで自分の正義観がある。


一回ガチで誘拐された。







研究者の男…太平洋戦争開戦時37歳。


日本人。東京帝国大学理科大学植物学科出身。

父子家系であり、新興宗教に入信していた父と教祖の影響で永遠の命を欲するようになる。

偶然古本屋で見つけた歴史書(実は江戸時代中期にとある作家が書いた一次創作)に記されていた「大陸にある幻の月下美人」を探すために中国に行く。その研究が藁にもすがりたい軍に目をつけられ研究所を与えられそれに励む。

素直で真面目、我道邁進な性格。但しデリカシーが全く無く、加えて過激な宗教を狂信しているためか人道に反したことを言う事が多い。




実験台の女…太平洋戦争開戦時23歳。


上海生まれ。上海のどこで生まれたかもどうやって育ってきたかも分からない謎、というかなにもない女。

物心ついたときから体を売って生活していおり、一時は歌手デビュー手前まで行く程の美麗な見た目をしている。が、周囲に流されるままに生きてきた為自主性が全く無い。

その為みんながやっているからという理由で抗日運動に参加して逮捕され、巡りめぐって捕虜として日本に送られ、実験台として研究者の男に回される。

そこで男が「女神が私の前に現れた」と勝手に盛り上がり、その美しさを永遠に持続させる研究をするための実験台となる。

男の研究日誌には愛しあったと書かれているが実際は取り引きの後に薬漬けにされ、勝手にされるがまま実験台にされていた。



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