第14話 外伝 麗しの呼び声
素敵な御伽話
ハーレム野郎は皆を公平に愛しているのか
嗚呼貴方は今何処にいるの
早くあたしと遊びましょう
でないとあたしは・・・
「始君?始くーん?」
「・・・んあ?彩希子、どうしたよ」
「まーたボーッとしてたよ、大丈夫?」
「うーん」
「うーんて」
「なんだろうな」
「・・・?」
私の名前は富永彩希子。私立湯海高校の三年生で生徒会副会長。
こっちは中森始君。同じく湯海高三年生で生徒会会長サマ。あたし達は随分前からお付き合いをさせて頂いてる所謂カップルってやつなんだけど・・・。
最近この始君がよくポヤポヤしている。春先どころかもう六月、初夏なんだけど・・・だからか?確かに今年はなんちゃら現象でいつもより暑苦しいのだが。
「迷わず行けよっつったってな・・・」
「だーかーら!何なのよ!最近おかしいよ?絶対大丈夫じゃない!!」
「行けば分かるんかな・・・」
「ムキーッッ!!」
「思えば色々あったよな・・・」
「き、急にどうしたの」
「入学したかと思ったら生徒会は無くなって学校は滅茶苦茶になってるわ、学校を立て直す為に俺らで生徒会を作り直して」
「う、うん・・・?」
「余計な奴らが邪魔しに来てその対策に追われたり」
「そんな中で始君は春高で一回戦負けして」
「立て直し一年目で全国行けたんだからスゲーだろ、俺もバレー初めて一年目だったしな」
「後輩の喧嘩の仲裁に入ったらあれよあれよと日本を巻き込む大騒動に発展!」
「車も手に入れたし免許も取れたし昔の因縁にケリもつけられたし」
「大学合格も本決まりだし」
「・・・疲れたなぁ」
「燃え尽き症候群かい?それとも只の疲れかな?」
「なんなんだろうなぁ・・・」
実は最近変な声が聴こえる、と始君に相談を受けたのは上記の会話を行ってから3日後の事だった。
「病院行ったら?ついてってあげるよ」
「やっぱり病院か・・・」
ねえ
「?」
「どんな声?」
「・・・あぁ女の子の声で・・・」
「女の子?」
「何処にいるんだーって」
「女の子?女の子?」
「早く私と遊んでくださいなーとか」
「女の子?女の子?女の子?」
「おい」
「女の子?女の子?女の子?女の子?」
「ちょっと」
「女の子?女の子?女の子?女の子?女の子?」
「だから」
「女の子?女の子?女の子?女の子?女の子?女の子?」
「俺はお前一筋だから」
「あ、・・・ごめん」
「一緒に病院行くか?」
ともかく・・・幻聴に悩まされてるらしい。
「遊んでくれ・・・って言ってるの?」
「そうなんだよ、最近学校でも家でもずーっと聴こえるんだ」
「えーっ怖、病院行く?」
「行った。よく休んで心を落ち着けるように、とか言われるんだ。それよりも・・・」
「それよりも?」
「見つけてやろうじゃないの、その女の子とやらを」
見つける、と言ったってヒントは始君の幻聴にしかない。そこでまず何処で聴こえるか、どれくらいの大きさで聴こえるのかを調べてみることにした。
「学校だとどうなの」
「そうだな・・・」
色々校内を歩いてみる。教室、廊下、生徒会室、体育館・・・校門
また・・・一緒に・・・
「ここだっ」
「校門?今聴こえてるの?」
「うん聴こえてる・・・けどあんまり大きくないな、なんと言うか・・・うーん、ここに染み着いてる、声?」
「染み着いてる声」
校門を出てみる。下校の道。いつものように帰ってみる。始君はこの春から買ってもらった車で登下校をしている。フェアレディZだって。とってもカッコいい車。
「駐車場だと聴こえたのに車に乗ると聴こえなくなった」
「どういうこと?」
「うーん」
結局学校での調査はこれでおしまい。
軽くサ店でお茶をする。この店も高校入ってからよく来たっけ。
始君はミルクコーヒー。私はメロンソーダ。
楽しそうな・・・
「・・・聴こえるな」
「どれくらいの大きさ?」
「そこそこ・・・会話には支障が無いくらい」
ここでも声は聴こえるようで、とっとと飲んでお会計。するとマスターが話しかけてくれた。
「珍しいねお二人さん、いつもはもっとゆっくりするのに。美味しくなかった?」
「「それは無いです!」」
「そうかい、なら良いんだけど。また来てね~」
マスターに気を使わせてしまったと引け目を感じながら私の家から近い本屋さんに寄る。
「正直お互い読書家じゃないとここまで長続きしてないと思う」
「同感」
なんて言いつつお店に入る。
また・・・みんなで・・・
「どう?」
「さっきとおんなじくらい」
「直ぐ出よう」
「うん・・・」
調査なのだからもうちょっとじっくり調べた方が良いのは良いのだが段々始君の顔色が悪くなってきた。頑丈性はシャーマン戦車並みの筈なのだがどうにもおかしい。
「大丈夫?運転できる?お義母様呼ぶ?」
「いや、大丈夫。そこまでじゃない」
結構しんどそうなのだけれど、代われるものなら運転を変わってあげたいが生憎私はまだ免許は取れていない。当然ながらまだ私は18になっていないのだから・・・ところが車に乗った途端
「?」
「?どうしたの」
「聴こえなくなった」
「?気分は?」
「マシ」
なんとまぁ摩訶不思議。とにかく車に乗ったら大丈夫みたい。一種のバリアなのかなんなのか。とにかく外に出ると危ない。早めに解決したいのだけれども。
整理しよう。
彼は誰かに見つけて貰うことを望まれている。
遊んでくれと、またみんなで。
誰と?
遊ぶ?何をして?
学校の校門、駐車場。喫茶店、本屋さん。うーん。
そこに私達以外にいた誰か?誰だ?
私達の周りにはいつも誰かがいた。敢えて二人きりにならない限り。遊びに行ったりする時も誰かと一緒だった、デートを除いて。さっき行った本屋さんも、喫茶店も、誰かと行ったことはある。校門の前でお喋りしたり待ち合わせたり。
駐車場?なんで駐車場で聴こえるんだ?
「始君、一回学校に戻らない?」
「?良いよ」
早く・・・一緒に・・・
もう陽は沈もうとしている。学校の駐車場も車はまばらだ。いつも止めさせてもらってる場所にいつも通りバックで入れる。
「出よう」
「あぁ」
次は・・・いつ・・・
「聴こえる?」
「聴こえる」
「いつもどうやって帰ってたっけ」
「なんだ急に、俺のZでだろ」
「じゃなくて」
「段取りだよ」
「段取り?」
「まずお互いが部活動に行っていたとします」
「なんだなんだ」
「二人は部活を終えます」
「はぁ」
「始君は運動部棟の部室で着替えます」
「彩希子は文芸部の部室から出て俺の車の横で待ってる」
「私を待たせていると言う理由で始君は手早く部室を出ます」
「その間彩希子は俺の愛車に話しかけている」
「君のご主人まだ来ないねえって、粗っぽい運転されてない?って」
「二人は合流して家路に着く」
「まずは私を家の前で下ろしてくれる」
「そして自分の家に向かう・・・で?」
「なんで車に乗ると聞こえないんだろうね」
「うーんなんでだろう」
「関係無いからじゃないかな」
「関係無い?」
「Zちゃんは今年の4月から学校に乗ってきてるよね」
「そうだな、だいぶ「楽になった」」
「そうだね「楽になった」ね」
「始君、多分忘れてないだろうけどなんか忘れてない?」
「?うーん・・・」
「君バイクで来てたじゃん」
今度は・・・
そう、彼はバイクで来ていた。本田技研工業AX-1MD21。駐車場の横にある駐輪場に置かせて貰っていた。
バイクを置いていたところに行ってみる。
またみんなで・・・
「・・・走ろうか」
「走ろうよ、また私を乗せて」
中森家に向かう。彼女は待っているのだ、私達を。
「いつ気付いた」
「その声が聴こえる所と聴こえない所の違いを考えてみた。誰かがいて誰かがいない所の違いとは・・・」
「確かに、校舎内では聴こえないハズだ」
「喫茶店と本屋さんはいつも止める所があたし達がいる場所から距離が離れていないから・・・だから聴こえるんじゃないかな・・・と」
「昔始君言ってたじゃん「耳を傾けろ」って、何に対しても」
「なるほど」
そうこうしているうちに中森家に到着する。
お義母様が出迎えてくれた。
「お帰りなさい、あら彩希子ちゃん」
「こんばんは」
「母様、またちょっと出てくる」
「Zで?」
「いや、AX-1で」
「そう、気をつけてね。彩希子ちゃん、始をよろしくね」
「はい!」
クスン
こないだまで一緒にいたのに
新しい子が来たらそっちに行くんだ
あたしだってもっと貴方といたいのに・・・
ガラガラガラ。
車庫の扉が開いた
今日も帰って来た
でも今日もあたしは・・・
あたしは貴方に忘れられている
そんなことないよAX-1!
フェアレディ・・・?
ダーリンは貴女の事、忘れてない!絶対に!
でも・・・
今日くらいは、ダーリンとハニーといってきなさい!
え・・・?
「半年放りっぱなしにして悪かったなAX-1」
「ホントだよ、愛想尽かしてるんじゃない?」
「乗ってみりゃ分かるさ」
バウンッバウンッバウンッ
「大丈夫そうだな」
どうして・・・
「色んなところにお前の思いが残ってたんだAZ-1。俺たちと一緒にいることがそんなに楽しかったとは」
バレてた・・・
フェアレディ!これって・・・
貴女の楽しい楽しいっていう思いをダーリンが感じ取ったのよ。ホント、羨ましいわ。あんなに思い出がいっぱいあるなんて。
そう、そっか。分かってくれたんだ。
ふふ・・・
「行けるか、AX-1」
もちろん、私はいつでも・・・
「行くか」
「うん」
後日聞いた話。中森家に産まれた人間は大人になると愛用しているモノの声を聴くことが出来るようになるのだと言う。それこそが成人した証なのだとか。
だからこそ彼らは今日まで身を立てることが出来たのだと言うことらしい。
それは良いのだけれど
ダーリン最近ずっとAX-1にお熱!言うの我慢してたけどたまにはアタシに乗ってくれないの!!?
「Zが乗れ乗れってうるさいから今日はZで来ました」
「なるほどこういうことが起きるのか」
更に
いや、別にお姉さんは大丈夫なのよ?でもたまにはアタシの事も乗って欲しいなーなーんて。エンジンかけてオイル循環させるだけで、走らないんじゃつまんないし。あんまり我が儘言うのも貴方のお父さんも困らせるだけだし、あ、でも今もキミを困らせてるのか。ごめんね?
「という乗って欲しいアピールがありましたので今日は父様のコスモスポーツです」
「心中お察しします」
中森家、お義父様が結構な車好きでお義母様のも合わせると五台+バイク三台ほどお持ちなので始君はその声を全部聴こえてしまうようになっちゃったからさあ大変。
「整備してたらずーっと八台が話しかけてくるんだ。退屈はしないけど・・・」
「始君の事だから無視しないでちゃんと応対してるんだね」
「付喪神みたいなもんだと思ってる。神様を蔑ろには出来ないよな」
私達のこと神様だと思ってるの?そこまで大層なモノじゃないと思うんだけど・・・
「いや、神様だよ」
「?急にどうした?」
「このコスモに関しては祖父様が買って父様が乗り継いでもう三十年近いんだ。神様くらいにはなってるだろ」
「ずっと大切にされてきたからこそ道具も人を愛し、持ち主もその声が聴こえるようになる、のかな?」
だから、これからも
アタシ達の事
大切にしてくれたら、嬉しい・・・な




