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子供の楽園

作者:
掲載日:2026/04/12

こんな経験しなきゃ良かった。

そう思うのもそれを経験したから。

あの時の私に言ってあげたい

その優しい愛を忘れることは無いよ。

体の一部となって、血になってる。

部屋の整理をしていたら、彼から預かっていたとあるコンビニのポイントカードが出てきた。裏面に書いてある名前を指でなぞって、彼の姿を思い浮かべた。私と同じくらい華奢な体で、背も特別高かったわけじゃなかった。香水の香りは私の好きな匂いじゃなかったけど、柔軟剤の匂いは大好きだった。


当時の彼は、私の知らない世の中のあれやこれやを知っていて、経験もしていて、同い年なのに年上のような人だった。

彼は「バイト先だしとりあえずカード作ったけど、使わんから預かっとってや。」と言ってそのカードを私に預けた。彼はそういう人だった。ポイントを貯めることとか、安い物を探すこととかはあまりしてるような人じゃない。一言で言うと、堅実的ではない人だった。それがまた、私には格好よく見えた。

2人で深夜に家を出て、彼のバイト先であるコンビニに足を運ぶのは私たちの日課だった。彼は必ずサッポロの黒ラベルを2つ手に取ってかごに入れる。「瓶のが美味しいのに。」私がそう言うと、「ビール飲まないだろ」っていつも怒られた。私はビールよりもハイボールが好きだったから、その一本をもらっても飲みきれず、毎度彼に飲んでもらっていた。それでも彼は、必ず2本カゴに入れるのでそれはそれでよかったのかもしれないと、いつも心の中で微笑んでいた。お酒の他に、おつまみをカゴに入れると「じじいっぽい」と笑われた。そんな彼も似たようなものを手に取るから、お互いに笑い合って結局これが1番うまいよねって肩にぱんちしたりして、レジに向かう。いつもの外国人の店員さんに今日も仲良しだね。なんて言われることが少し恥ずかしくて、私たちしかいない店内を足早にでた。

外に出ると彼のタバコを一本もらってお互いにビールの缶を開ける。やっぱり黒ラベルは全部飲めずに彼にあげることになった。彼のタバコのタールはきつくて正直おいしくない。そんな私をみて彼は、ちゃん付けで名前を呼びながら私の口からタバコを取った。それを自分の口に運び、まだ早いよって頭を撫でるから、扇状的なその光景を毎度植え付けてくる彼に心臓がうるさくなった。悔しかったけど、自分の持っているブルーベリー味の方が私にはあっていた。これもまた彼に教えてもらった味だから、まあいいかって思ってしまった。

タバコを吸い終わって、歩きながら私の家に帰っていく。徒歩1分くらいの距離なのに、彼は必ずビールを持っていない方の手で私の手を握ってくれた。「オートロックの番号、押せない」といいながら、私もやぶさかではなかった。

部屋に入ると、適当に靴を脱ぎ、当たり前のように2人で手を洗ってうがいをする。付けっ放しでいったテレビが眩しいけど、芸人さんの声をこの時間に聞くのは悪くなかった。電気はつけないままテレビだけの明かりを頼りに、さっき買ったお酒とおつまみを並べて、いつもの晩酌がはじまる。彼が、私に膝枕を要求してきたら大人しく彼の頭を撫でる。彼が突然お風呂に入ると言ったら、少し可愛い下着をつけるために私も続けてお風呂に入った。私が彼に頭を預けた時は、彼が私の頭を撫でてくれて、私からキスをした時は、普段よりも激しいセックスをした。


それでよかった。


これが、よかった。


なのに、どこで間違えてしまったんだろう。あれからどんなに考えても、全く答えが出てこない。

私が彼を好きになった時、彼が私を好きになることはないと知りこの関係でいいと割り切った。それからの関係は良好だったし、彼への気持ちをどこかへしまい込んで取り出せないようにしてしまえば、彼とずっと一緒にいられる。そう思った。

なのに、彼から好意を向けられた瞬間、私の中の全てが崩壊してしまった。

私が抑えてきた感情は行き場を失って、もうどこを探しても出てこないし、私の感情はずっと迷子になってしまったままだった。

私がこの気持ちに答えられていたら、彼がもう少し早く私に気持ちを伝えてくれていたらと、叶いもしないタラレバを繰り広げて泣いた。

それからと言うもの、そのことについて彼は何も言わなかった。私も、何も言えなかった。

好きってなんだっけ。

セックスって、なんだっけ。

なんで今、こんなに苦しんだっけ。

なんで、こんなに涙が出てくるんだっけ。

わからない。

タバコを吸ってお酒を飲んでも、大人になれたわけじゃなかった。

好きをどこかに放って、彼とセックスをしても、私達が結ばれることはなかった。

あの日常が、私の全てだったのに。

所詮は子供同士の遊びにすぎなかったのに、

それを楽園だと思い込むほどに、その時間を好きになっていたらしい。

私は、急所を刺されたように床に倒れ込んだ。

こんなことになるなら、私はもう一生恋愛なんてしなくていい、そう思った。



机に広がるたくさんのカードを見て、私は現実に引き戻される。

彼は今、元気だろうか。

お酒は飲みすぎていないだろうか。

タバコのタールは上がっていないだろうか。

一緒に買ったゲームソフトは攻略したのだろうか。


幸せには、なれているのだろうか。


私はタバコをやめた。

好きな酒はビールになって、やっぱり瓶ビールのが美味しいねと言い合える人も隣にいる。

変わっていった。当たり前だ、5年も前の話なんだから。

そんな5年前の話を美化して、今も変わらず醜い私は、幸せになってね。なんて、そんな綺麗事、今も私はあなたに言えないみたいだ。

大学生なんてこんなもん。

そう思ってはいても、黒く染めたいあの頃の記憶。

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