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第3話 “それぞれの心情”

この物語には多数のパロディで構成されています

とあるストーリー、とあるセリフ、とある場面などにおいてよく知られているものが使われていることがあることをご了承の上でお読みください


 ふと思えば日が落ちて少々経ったのか、かなり暗くなっていた。


「………やれやれ、結局時間をくったか」


 俺はそう言って溜息をつくと、目の前に視線を向ける。

 ―――仰向けに倒れ、荒い息を繰り返している芹川へと―――


「ハァハァ、くそ……がぁ………」


 倒れたままそう吐き捨てるのを上から見下ろす。

 特に外傷があるわけではない。超能力の酷使による疲労だろう。

 まあ、俺の方からは一切攻撃を加えていないから当然なのだが……

 かく言う俺にもすり傷や火傷どころか服に焦げ目一つついていない。

 それとは打って変わって、海人の前方―――俺の周りでは数多く火が上がっている。

 先ほどの不良との戦いとは比べ物にならないほど、地は抉れ、穴を開けていた。

 特に俺と芹川の間がひどく、俺の後ろに進むたびにその数は少なくなっていた。

 しかし、火の勢いはもうそんなに強くない。

 芹川の能力が限界を迎えているため、維持しきれていないのだ。

 あと数分もしたら完全に鎮火して、照明のないこの橋に暗闇が覆うだろう。

 それだけのことを確認して、俺は自分のカバンを取りに戻ろうとして―――


「あーあ、今日はまた一段と激しかったね」


 ―――後ろから卯杖がヒョコッと顔を出してきた。

 いつの間にか近づいて来ていた卯杖は、楽しそうな声音でそう言ってくる。

 今までただ黙って俺の後方にいたはずだが、彼女にもこの戦いの影響は一切ない。

 芹川は多少流れ弾を気にしていたようだが、それでも逸れた火球は発生していた。

 俺は芹川の心情を利用し、攻撃しづらい卯杖と芹川の対角線上にいたわけだが。

 当然、向かってきた火球を避けると卯杖へと飛んでいくが、俺は全く気にしない。

 そもそも俺が卯杖を助けるなどということをするはずがないにも関わらず、だ。

 よく見ると先刻と同じように蒼い光が卯杖の体に纏っていることに気づいた。

 大方、自分の能力を使用して防いだんだろう。

 卯杖を観察しながらそう判断する俺に卯杖はジト目を向けた。


「ところで、俊、わざと私の前に立ってたでしょ」

「さて、何のことだ? 芹川の攻撃を避けるのに精一杯でよく分からないな」

「嘘だ!!」

「少しは自重しろ。だいたい何を根拠に……」

「じゃあどうして海人の炎があたしの方に飛んでくるのかな、かな?」

「だから自重しろよ。そしてカバンを鉈のように持って振りかぶるのを止めろ。

 だいたい芹川がコントロールを誤った可能性もあるだろう。

 それに芹川の力による攻撃だ。文句なら芹川に言え」

「海人なら絶対に力の制御誤ったりしないわよ!」

「その信頼を少しは俺の方にも欲しいところだな」


 まあ確かに、芹川が力の制御に失敗するなど余程のことが起きない限りない。

 強力な能力を制御できるからこそのトップレベルだ。

 とはいえどうしても流れ弾をゼロにすることはできない。

 確かに、俺もいくらかの原因ではある。

 しかし、芹川の原因の比重のほうが大きいはずだ。

 はっきり言って俺だけに怒りを向けていることに納得がいかない。

 俺はそんなことを考えながら溜息をついた。

 すると、なにやら先ほどまで怒っていた卯杖が急に慌て始める。


「えっ!? い、いや、別に俊を信用していないわけじゃなくて………っ」


 手をブンブンと大きく振りながら、よく分からないことを口走る卯杖。

 最後の方は小声でゴニョゴニョ言っていたのでよく聞き取れなかった。

 ………まあどうでもいい。今はカバンが先決か。 

 とりあえずそう判断して、そんな状態の卯杖は無視してカバンを取りに行く。

 地面はかなり多くの穴が空いていて、非常に歩きづらい。

 ……それにしてもこの橋、いったい誰が修理するんだ?

 最早ほとんど誰も使わないとはいえ、公共物をここまで破壊していいのだろうか?

 被害を見てそんなことを考え、できるだけ被害の少ない端っこの方を歩いて行く。

 一番被害の大きい橋の中心部を超えると、徐々に歩きやすくなる。

 そして、とあるところからプッツリと戦いによる被害が途切れていた。

 

 ―――即ち、先ほどまで卯杖がいたはずであろう場所である。

 

 橋を二等分するかのようにきれいに穴だらけかそうでないかで分かれていた。

 そして、そのラインの付近に小さな小壜が一つ砕けた跡がある。

 俺はそれを一瞥すると、そのままカバンの方へと向かった。

 それは、置いたときとまったく変わらない状態でそこにあった。

 一応柱の影に置いていたがその必要もなかったかもしれない。

 とにかくそれを拾ってしっかりと持つと再び戻り始めた。

 その途中で最初に殴りかかってきた不良が倒れているのを見る。

 芹川の後ろに倒れていた他の連中とは違い、こいつは戦闘圏内だった。

 芹川は卯杖のことはともかくこちらはかなり気にしていなかった。

 そのことは明らかにそいつの周辺が荒れているのではっきりしている。

 しかし、それでもその男は無傷で先ほどと変わらず気絶している。

 正確にいえば、その男の半径1mほどの円形の範囲を含めて。


「……やれやれ、まめなことだ」


 俺はそう呟いて、この状況を作り出したお人よしの方を見た。

 自分だけでなく、わざわざ襲いかかってきた相手まで守った女の子。

 彼女はどうやら芹川の容体を確認しているようだった。

 まったく、自分の力を好き勝手発揮しすぎなんだよ………

 俺は小さく一つ溜息をついて、もと来たルートを戻っていった。





「ねぇ、海人。いい加減諦めたら? もうずっと負け続けじゃん」


 戻ってきた俺が最初に聞いたのは卯杖のそんな言葉だった。

 卯杖は芹川の傍に座って、諭すような口調で語りかけていた。

 対して芹川は未だ倒れたままとはいえ、すでに荒くなった呼吸を整えている。

 しかし、疲労がひどいのか起き上がることなく、ただ闘志籠った目線をしていた。

 

「オレもまだ一発ももらってねぇつうの! 負けたわけじゃねえ!!」


 芹川はその言葉に吼えるかのように返事を返す。

 ――――――確かにその通り、事実ではあった。

 今回を含め、このいざこざは何回かあったが、彼は一度も俺に攻撃をさせてない。

 これは俺が攻撃しようとしていなかったわけではない状態での結果だ。

 純粋に芹川が炎をうまく利用して、俺を近づけさせなかったことが理由だった。

 近づけば近づくほど過激になる芹川の攻撃に俺は引かざるをえなかった。

 なので、全ての勝負は芹川の体力が尽きるか俺が適当にまくかして決着していた。

 今回は俺が逃げずに少しばかり積極的に近づいたので芹川の限界がすぐにきたが…

 まあ芹川もいつも以上に攻撃を激しくしていたからそれが原因でもある。

 とりあえず、これだけ叫べる元気があるなら大丈夫だろうと判断した。

 俺は今日何回目か最早分からなくなった溜息をつく。


「俺はもう帰るぞ。いい加減迷惑だ。ここは通らせてもらう」

「ちょっと俊、待ってよ!」


 そう言って、芹川の横を通り過ぎ、そのまま向こう側へと歩いていこうとする。

 卯杖が何やら引きとめようと声をかけて来るがまるっと無視。

 目の前に転がっている不良たちは未だに起きる気配はないようだ。

 少しばかり警戒して、そのことを確認してから通り過ぎようとした所で―――


「待てよ、まだ俺は負けてねえって言ってるだろうが!」

「海人っ、まだ寝てないとダメだったら!!」


 ―――そのような声が背後から聞こえてくる。

 まったくあのバカは……

 そう思いながら、後ろがどのような状態であるのか確信した。

 顔だけ振り返ると、上半身だけ起こした芹川が俺に掌を向けていた。

 そこには最初とは比べ物にならないほど小さいが、火球が発生している。

 それを卯杖が必死に止めようとしていた。

 そんな予想通りの状況をバカらしく思いながら眺め、俺は芹川に言ってやる。


「やれやれ、もうまともに身体も動かせないくせによく言う。

 お前が能力を使って俺を倒しきれなかった時点でお前の負けだ。

 もうじきお前のところの仲間の応援が来るんだろう?

 そいつらにでも助けてもらうんだな」


 俺は再び顔を橋の向こう側に向けるとそちらへと足を運びなおす。

 小さいながらも火球という攻撃方法をもつ芹川も関係ない。

 芹川に背中を堂々と見せながら、歩を進めていく。


「て、てめぇ……くそっ、いいか次はぜってぇ一発いれてやるからな!!」


 芹川のそんな負け犬的発言にも振り返ることはもはやない。

 ……まあ正直、もう面倒なので勘弁してほしいが。

 そんなことを思いながら、俺は不良たちの横側を通り過ぎていく。


「ちょ、俊!? ご、ごめん海人、あたし行くから! 俊待ちなさい!!」

 

 卯杖が慌てた様子で芹川のそばを離れ、俺を追いかけてきた。

 こいつも芹川のところにいればいいものを……

 そう思うが口に出すと間違いなく言い争いになるだろう。

 これ以上時間を潰されたくないので、しかたなく黙認。

 そして、俺はようやく鉄橋をあとにできたのだった。






 〈 芹川 海人 Side 〉


 俊と真由の姿が見えなくなって、すぐにオレは再び倒れた。

 同時に半ば無理やり発生させていた炎がパッと消える。

 火の粉が鮮やかかつ儚げに散っていくのが見えた。

 自分の調子を確認すると少しでも身体を動かすと気だるく感じ、思わず舌打ちする。


「やっぱ、もう動けねぇな……」


 オレは大の字にして身体を休めながら、そう呟く。

 実際、最後に上半身を起こせたのは完全に気力によるものだった。

 どんなトップレベルの超能力者(サイキッカー)でも強い力を使い続けるのには限度がある。

 そして当然、それに見合った疲労もする。

 超能力(サイキック)といっても人間の能力の一つであることには変わりない。

 その辺はスポーツと同じだ。

 普通ならある程度休憩を取ったり、加減をしたりすることでそれを防ぐ。

 しかし今回、限界を超えて能力を使い続け、今や力がまったく入らないほどだ。


 


 そこまでしたのに、俊にはオレの力は全く通用しなかった。




「たくっ、オレも相当強いはずなんだがよ……」


 思わず悪態を漏らしてしまう。

 生徒執行連盟(ガーディアンズ)に入って約一年、厳しい訓練をずっと続けてきた。

 あまりの厳しさに同僚が何人も辞めていく中、オレは一日も欠かさず続けた。

 それによって能力は初めのころより遥かに強力になった。

 体力もついたし、今回は無視したが自分の能力の使い方も分かっている。

 実戦による経験も積んだし、手柄も立てていることがそれを証明している。

 そんなオレにとって、この能力、この力は自分の努力の証だ。

 自分の強さの、生徒執行連盟(ガーディアンズ)てして働けることの誇りでもある。

 しかし、あいつ―――俊はそんなオレを軽くあしらう。

 一年間正式な訓練をしてきたオレをただの一般高校生のはずのやつが、だ。

 だからこそ、オレはあいつを認められない。

 それは自分の努力を、力を、強さを否定してしまうことになるからだ。

 才能と言うくだらない(とオレは思っている)ものに負けたくないから。

 そんなことを考えていると、ふと昔のことを思い出してしまった。


 

 

 そもそもあいつは出会った時から大概だった。

 細かい内容は省き、簡潔に説明すると、その日オレに一本の通話があった。

 一人の学生が複数の男たちに裏路地に連れて行かれたと通報があったらしい。

 そして、偶然近くにいたオレにその現場に行けというものだった。

 その頃、ようやく能力が実戦でも使えるようになったオレはすぐに向かった。

 しかし、その現場につくとすでに全てが終わっていた。

 狭い裏路地で複数の不良たちが折り重なって地に倒れている。

 その中でオレと同じ学校の制服を着た一人の男子高校生が立っていた。

 オレは驚いた。

 そいつらがそこそこ強い超能力者(サイキッカー)の集まりとして有名なやつらだったこと。

 そしてそんなやつらをオレと同じ学校のやつが一人で片づけたことに。


「やれやれ、やっと来たか」


 その学生は溜息をついた後、こちらを向いてそう呟いた。

 その顔を見た途端、オレはそいつが誰だか分かった。

 大神 俊――――――クラスは違うが同級生であり、頭の良さで有名なやつ。

 学校始まって以来の天才であり、その上で問題児ともされている男。

 そんな男がその状況を生み出したことにオレは茫然となり、言葉を失う。


「まったく、なんで被害者が解決しないといけないんだ?

 普通お前ら、生徒執行連盟(ガーディアンズ)がその前に何とかする問題だろ。

 サボってないでしっかり働けよ、芹川海人」


 しかし、その言葉を聞いた瞬間、我に返ると同時に怒りが湧きあがる。

 『どうして名前を知っているのか』という疑問すら思い浮かばなかった。


「あぁん、今なんつったよ?」

「聞こえなかったのか? 耳が悪いわけでもあるまいし」

「……謝るなら今のうちだぜ?」

「残念だが謝る理由が見つからないんでな」


 オレはその言葉を聞いて、無言でゆっくりと通信機を取り出した。

 電源を入れ、すぐに連絡を入れてきた本部の方に繋ぐ。


「あー、こちら芹川、先ほど現場に着きました」

『こちら本部、状況を説明しろ』

「不良たちは鎮圧。輸送車を一台送ってきてください。

 ……加えて、被害者が少々怪我をしたので救急車も一台お願いします」

「ちょっと待て、俺は怪我なんて―――」

『なに、状態は?』

「奴らの中に発火能力者(パイロキネシスト)がいたらしく、火傷が多数見られます」

「おいコラ、ちょっといろいろとツッコませろ」

『分かった。すぐにそちらに手配する』

「よろしくお願いします。通信終わり」

「ちょっとは話を聞け」


 オレはそう言って通信機の電源を切ると、仕舞い直す。

 そして何とも言えない苦い顔をする俊に爽やかに笑顔を向けてやった。

 

「これでよし。よかったな、これで怪我をしても大丈夫だぜ」

「怪我をする予定はないから余計なお世話なんだが」

「そんなことねえだろう? これからたっぷり火傷するんだからな」

「それはこれからの犯行予告と取っていいのか?」


 飄々とした様子でそう嘯く俊の姿を見て、怒りの感情が能力として発現する。

 怒りは炎として現れ、それは火球という形に変わり、弾丸として撃ち抜く。


「その生意気な口、二度と聞けないようにしてやらぁああ!!!」


 そこからオレは容赦なしで俊に火球を撃ち放った。

 



 とまあこんな感じの出会いだった。

 思い返してみても随分ひどいものだと思う

 ……謝る気もやり直したいと思う気もサラサラないが。

 あの後、結局裏路地を好き勝手に逃げ始めた俊に撒かれてしまった。

 傍から見ると一人の犯罪青年を生徒執行連盟(ガーディアンズ)が追っているように見えただろう。

 実際は被害者を守る側の人間が攻撃している図だったが。

 それからオレは勝手にやつをライバルだと考えるようにした。

 あいつを一回でも負かさない限り、オレは前に進めないと思ったからだ。

 そして今現在に至るまで何回も勝負を吹っ掛けていった。

 回数は数えたわけではないのではっきりとしないが、数十回は超えている。

 しかし、その全てが俊が無傷であしらうという形だった。

 手を抜いているわけではない。

 確かにあまりに重症になるような攻撃は自重しているが、本気ではある。

 加えて、こちらが全力で殺すつもりで戦ったとしても効かないのではないか?

 そう思わせてしまうようなものが俊にはあった。

 結局のところ、今のままでは勝てる気がしないのだ。


「おーい海人ぉ、大丈夫かぁ?」


 そんな思考に耽っていると遠くの方からオレを呼ぶ声が聞こえてきた。

 それが生徒執行連盟(ガーディアンズ)の仲間のものであることがすぐに分かり、安心する。

 その途端、急に眠気が襲ってきて、オレはそのまま目を閉じた。

 ゆっくりと意識が薄れていく中、途切れる寸前にある疑問が浮かぶ。


 『はたして大神俊の力とは一体何なのか?』


 〈 芹川 海人 Side Out 〉


 


 いつもと同じ帰り道だが、少し時間が遅くなっただけで雰囲気が全然違う。

 いつもはついていない照明が心細げながら辺りを照らしている。

 しかし、それによって闇の部分はさらに暗さが増しているように感じる。

 そんな中を俺と卯杖は無言で歩いて行く。

 卯杖も前とは打って変わって、何も話しかけてこずに俺の後ろをついてきた。

 そのまましばらく歩き続けると、二手に分かれる分かれ道が見えてきた。

 ここで俺は右、卯杖は左に別れることになる。

 そもそも卯杖は最短コースは別の道なのだが、なぜか遠回りしている。

 しかし、この道を逃すともと来た道を戻らないと絶対に帰れない。

 実質、これがラストリミット、最後の道だ。

 

「……じゃあ、あたしはこっちだから」


 卯杖はそう言って、軽く走って俺の前へと出てくる。

 そのまま帰ればいいのに、何故か俺に背を向けたまま立ち止った。

 無言のまま立ち止る卯杖を特に気にせず、俺は右の道に進もうとして―――


「ねぇ俊、どうしてそんなに人を避けるのよ?」


 ―――突然の卯杖の言葉に足が止まり、そちらに顔を向けた。

 卯杖はいつの間にかこちらを下から覗き込むような形で振り向いていた。

 そして、軽い口調はまるで変わらないまま、表情だけ真剣なものにしている。


「俊っていつも一人で生きていこうとしているじゃん。

 でもさぁ、人を人として見ないのはどうかと思うんだけど?」

「黙れ」


 続けて出る卯杖の言葉に対して、思わずただ一言だけの言葉が口から出る。

 静かに、しかし絶対の否定。

 だが、卯杖は顔色、口調一つ変えないまま言葉を続ける。


「そういえば、俊の力も気になるところなんだよねぇ。

 あたしもちょっといろいろ調べてみたけどさっぱり分からないし。

 おそらく海人もそうなんじゃないのかなぁ?」

「黙れと言っている」


 俺の中で激しい激情が暴れ始める。

 ―――全テヲ、存在スル全テヲ、オ前ガ望マナイ全テヲ―――

 そんな言葉が俺の頭の中に響き始める。

 やめろ、俺はもうこれ以上誰も―――――っ!


「ひょっとして関係があるのって―――」

「黙れっ!!」


 卯杖の言葉を遮り、俺の怒鳴り声が夜の空へと響き渡った。

 はたしてどちらにそう言ったのか、それとも両方なのか、俺にも分からない。

 ただ激情のまま叫んだ言葉は自分でも信じられないほど激しいものだった。

 おそらく卯杖を睨みつけているだろうが、彼女の顔を見つめた。

 卯杖はそれに対してすら、まったく表情を変えることなくこちらを見ている。

 そして、再び戻ってくる沈黙という名の静けさ。

 ただ自分の乱れた呼吸音だけがやけに荒々しく聞こえた。

 しばらくそんな状況が続いた後、俺は卯杖から顔を逸らした。


「………ごめん」


 同時に顔を俯けた卯杖がそう呟くのが聞こえてきた。

 その言葉は先ほどまでと違い、小さく、そして悲しみの感情が宿っている。

 そんな卯杖のほうに俺は顔を向けることなく、ただ感情を抑えようとした。

 

「……卯杖、もうこれ以上俺に関わるな。いつか後悔する時が来るぞ。

 ………………………お互いにな」


 最後に付け加えたように言った言葉は聞こえたのかどうかは分からない。

 しかし、卯杖が俯けていた顔を上げ、こちらに視線を向けるのを感じた。

 俺はそのことに気付きながらも無視して、止めていた足を再び動かす。

 徐々に近づくお互いの距離に対して、その間に決して届かないものがあった。

 卯杖の隣、ちょっと手を伸ばせば、少し声を出せば、すぐに届くはずの場所。

 その場所を通り過ぎる時、時間が僅かだけ引き延ばされたような気がした。

 俺が進めていた歩調を乱すはずがないのに。

 結局、俺も、卯杖も、何も言わず、何もしなかった。

 ただその場所を俺は通り過ぎ、右の道、自分の家への帰り道へと進む。

 卯杖はただ分かれ道の前に立ったまま動こうとせず、じっとしていた。

 俺がそのことを気にかけることも、まして訊ねることもない。

 ……そうだ、これでいい。これでいいんだ。

 消えた激情と頭の中に響く声を確認して、俺はそう思った。

 そのまま、俺は一人、孤独となって家へ向かって闇の中を帰って行った。




 


 < 卯杖 真由 Side > 


 あたしはただ、彼―――――俊の後ろ姿を見つめていた。

 その姿はゆっくりと離れていき、暗闇の中へと紛れていく。

 

「………あたしでも、ダメなの……?」


 あたしのそんな呟きは、誰に聞かれることもなくただ宙に消えていく。

 俊の姿が完全に見えなくなるまで、あたしは動くことができなかった。

 一人となって、自らを包もうとする闇がより深くなったように感じた。


 < 卯杖 真由 Side Out >






 ようやく家に帰りついた時にはすでに夜としか言えないほど暗くなっていた。

 もう自らの身体を確認することすら難しいレベルだ。

 そんな時間でも自分の家に明かりがついていることはない。

 俺はそのことを確認して、ただ無言でドアを開けた。

 そこには誰もいない真っ暗な空間が広がっている。

 電気をつけながら、何も言うことなく、靴を脱いで家へと上がった。

 その後は日常と同じで何を考えるわけでもなく、流れるように行動する。

 いつものように自分で夜食を作り、いつものように一人で静かに食べる。

 いつものように自分だけの家事を行い、いつものように風呂に入る。

 何年間も続けてきた変わることのないそんな生活。

 全ての作業を終え、俺はリビングのテーブルについて一息いれた。

 いつもの習慣なのか、ふとある物に視線を向ける。

 テーブルの中央に置かれているのは、一つの写真立て。

 そこでは、一人の男の子が一組の男女に挟まれて嬉しそうに笑っていた。

 代えの存在しないたった一枚の家族写真。

 それに掛けられているのは、首飾りである一つの水晶(クリスタル)

 その輝きは預かった当時から衰えることなく、光を鮮やかに反射している。

 最早二つしか存在しない、家族間の繋がりだった。

 俺はそれらをじっと見つめていると、少しばかり眠気を感じた。

 今日はかなりいろいろあったので少し疲れたのかもしれない。

 俺は軽く休憩しようとテーブルにうつ伏せてゆっくりと目を閉じた。

 思いのほか、あっさりと眠気に従って意識が薄れていく。

 俺は水晶(クリスタル)の優しき輝きを感じながら、意識を手放した。




 ―――だから、俺は気付かなかった。

 ―――――――その輝きがゆっくりと増していくことに―――――――

すみやせんしたぁあああ!!!(土下座+体育会系)

1週間休んでおきながら更新が遅れるとは……

違うんです! 書かなかったわけじゃないんです。

まず文章の長さ。付け加えていったらいつの間にかこんなに。

そして、現実の忙しさ。次から次にやることが降ってくる。

こっちもがんばって生きてるんだ。

休みをくれ! そして書かせろ!!

そんなことを叫びたい今日この頃です。


さて、大変言いにくいことが一つ。

………今週も更新できないかもしれません。

はい、言いたいことは分かります。物を投げないでください。

理由は二つ。一つはもうあと五日ほどしかないということ。

もう一つはテスト期間に入るということです。

小説優先といきたいですが、多少は勉強しないといけないので。

一応次回はそこまで長くならないので大丈夫かもしれませんが。

………はい、信用できませんよね~

ですので念のためそのように予告しておきます。

本当にすみやせんしたぁぁあああ!!!


というわけで次回でもよろしくお願いします。

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