第2話 “溜息多き日”
この物語には多数のパロディで構成されています
とあるストーリー、とあるセリフ、とある場面などにおいてよく知られているものが使われていることがあることをご了承の上でお読みください
近づいてくる不良たちは、いつの間にやら合流した2人を合わせて6人。
何人かは、バットやナイフなど得物を取り出していた。
沈みかけの夕陽に照らされ、赤く輝くそれら。
……今思えば随分と物騒になったな。まあ、不良の定番アイテムか。
そんなことを考えながら、俺も持っていたカバンを置いた。
そんなところに卯杖が少し慌てた様子で近づいてくる。
「ち、ちょっと俊、どうすんのよ!?」
「どうするも何も、とっとと迎え討って帰る」
「いや、なんでやる気!? そしてあたしはどうすんのよ!?」
「もう一度言うぞ。自分の身ぐらい自分で守れ。それにお前の言葉が引き金だろ」
「元はと言えば俊がケンカ売るのがきっかけでしょ!?」
「俺は思ったままを言っただけだが?」
「それをケンカ売るって言うんでしょ!?」
そんな言いあいもしているが、気を抜くことはない。
逆に、一人の不良が拳を握り、走り出してきた。
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
そうだな、とりあえずこいつを不良Aとでもしよう。
俺たちの様子に怒ったのか、怒声を上げて近づいてくる不良A
―――とりあえず、避けてカウンターでボディブローだな。
俺も合わせるために左腕を前、右腕を後ろで体を横に向けた半身になる。
そして、体に隠した右手で拳を作り、相手に合わせて踏み込もうとして―――
―――ボッと、いきなり俺たちと不良たちの間に炎の壁が生まれた。
「なっ―――ぐぁああああ!!」
一番前で走りこんできた不良Aが炎に突っ込み、その身を焼かれる。
着ていた派手な服に見る見るうちに炎が燃え移っていく。
不良Aは飛び出すように炎から抜け出し、地面を転がる。
あの服、かなり高そうだったが、もう使い物にならないな。
必死で地面を転がり、火を消そうとするAを見てそんなことを考える。
……俺?踏み出す前だから止まれましたよ。
「熱っ、なんだぁ!?」
「おい、気をつけろ! そいつ、“発火能力者”だ!!」
他の不良どもの慌てた声が炎の壁の向こう側から聞こえてきた。
………残念だがそれは間違いだ。
俺にはすでにどうしてこんなことが起こっているのかが分かっている。
一応の慈悲として、そのことを向こう側に伝えようとして―――
「―――てめぇら、まぁだ懲りてなかったみてぇだな」
―――向こう側から聞こえてきた声に遮られる。
溜息をついた。予想通りの聞き覚えのある声に対して。
「…あれ、ねぇこの声って……」
卯杖も同様に気付いたようだが、それは最早どうでもいいだろう。
今の問題は向こう側に隔離されたのだろう不良たちの方だ。
「しまった、向こう側から気やがった!」
「ちっ、あの腕章、“生徒執行連盟”か!?」
「っておい、やべぇよ!あいつは―――――!!!」
「ゲッ! おい、今すぐ逃げるぞ!!!」
面白くなるほど慌てている声が乱れ飛ぶ。
そこに降りかかる一人の男の言葉。
「まぁとりあえず、恐喝、暴行、その他諸々の現行犯として、軽く燃えてな!」
その言葉が響くと同時に始まるドンッという爆発音と不良どもの怒声と悲鳴。
音が響くと炎の向こう側から僅かに爆風が吹いて来て、炎の壁を揺らす。
「おらおらどうした!? 少しは根性見せてみろよ!!」
「く、なめんなぁぁああああ!!」
「そうそう、そうやって特攻して―――とっとと燃え散りな!」
「ぐわぁああ!!」
そんな会話が聞こえてくるたびに響き渡る悲鳴、数を減らす怒声。
爆発音の度に一瞬だけひと際強く辺りを照らす閃光。
そして、2,3分もしないうちにそれは収まった。
「まったく、二度とこんなことしねえようにしたつもりだったんだが…
よし、今度は前の2倍、地獄の更生プログラム―――
―――通称『人間の限界に挑戦!・Vol.2』でも組んでやろう」
残ったのは返ってきた静けさの中に混じる不良たちとは違う男の声。
なにやら物騒な単語を口にしているのが、炎の向こう側から聞こえてくる。
俺はカバンを拾い、踵を返して、ここを離れるためにもと来た道を戻ろうとする。
俺の心は言っている。
『なんでわざわざ戻らなきゃいけないんだ?』と。
分かっている。早く帰りたいのだが明らかに遠回りになる。
そのためにわざわざバカどもの相手をしようとしていたのだから当然だ。
苦労を考えたら、来た道を戻るなんて馬鹿げている。
しかし、俺の頭は冷静に言っていた。
『このままここにいるとますます面倒になる』と。
俺は即座に心の声を切り捨て、行動を開始する。
「…あれ、俊? どこ行くのよ?」
卯杖のそんな言葉も無視して、歩を進めようとして―――
「―――おい、俊! てめぇ何勝手にいなくなろうとしてるんだよ!」
―――後ろからそんな声がかかり、俺は足を踏み出す前で止まり、溜息をつく。
あぁ、なんでこう次から次へと……
俺は降りかかる面倒事を嘆きながら、仕方なく振り返る。
先ほどまであった炎の壁はすでに消えていた。
代わりにそこに立っていたのは一人の男。
まもなく完全に沈むであろう夕陽に照らされ、全身が赤く染まって見える。
身長は俺より5cmほど高いだろうし、体つきもよい。
明らかにただ漠然と体を動かしているだけじゃないことが分かる。
服装は一応俺と同じ制服だが、その腕には凝ったデザインの腕章をつけている。
そして、目を引くのが男の髪。
夕陽に照らされ、なお負けず、さらに輝きを増している炎のような赤。
「―――ガ、“生徒執行連盟”の芹川 海人」
茫然とした様子で、自身についていた火を消した不良Aがその男の名を呼ぶ。
海人と呼ばれた青年は、そう言った不良Aの方を向く。
「なんだ? まだ残ってたのか? 抵抗されんの迷惑だからサクッと気絶してろよ」
「な、なんでここに? それに仲間は……!?」
「あ? ちょっと歩いてたらお前らの姿見てよ、
久しぶりに会ったからどうしてんのか確認しておこうと“監視”していたら、
前とほとんど変わってねえじゃねえか。
多少のことはともかく、他人にケンカ吹っ掛けるようじゃな。
という訳で、一応“生徒執行連盟”としてそれを止めたわけよ。
あと他の連中ならオレの後ろにいるだろ」
そこでようやく俺はさっきまで炎で遮られていた向こう側に目を向けた。
さっきまで粋がっていた不良合計5人は、全員気絶しており、
表情は恐怖に塗り固められた状態で固定されたまま、軽度の火傷の跡を残し、
まるでゴミ屑かのようになって転がっていた。
服も焦げていたりして、未だに所々でブスブスッと燻っている煙が発生している。
加えて彼らの周りを見ると僅かながら消え切っていない炎があった。
さらに小さいがコンクリートが抉れて穴になっている所さえある。
「………いやいや、やりすぎでしょ」
卯杖が小さい声でそう呟くのが聞こえた。
しかし、どうやら芹川には聞こえなかったようだ。
「て、てめぇ! いくら何でもやりすぎだろ!? 鬼かお前は!?」
「あぁ? 見た目はわりぃかもしれねえが手加減したから大した事ねえよ。
―――それにこの後はもっと楽しい地獄が待ってんだからな」
仲間の凄惨たる状況を確認したのだろう、卯杖と同じ内容を口にする不良A。
対して、何でもないかのように答えを返す芹川。
しかも、付け加えるかのように言った言葉では実に楽しそうな表情だった。
「ふ、ふざけんじゃねぇ!! これ以上好き勝手されてたまるかぁああ!!!」
そんな芹川の様子に激昂した不良Aは殴りかかる。
それを見て嬉しそうに顔を綻ばせる芹川。
「おお、いいねいいね! そう言った根性は嫌いじゃねえ」
そんなことを言いながら、芹川は拳を握って思いっきり振りかぶる。
「ま、この後の指導のときに見せてくれや!」
そして、殴りかかってきた相手に思いっきり叩き込んだ。
ゴンッという音とともに一撃で意識を刈り取られ、吹っ飛ぶA
その勢いのまま数m転がり続け、止まると立ち上がる気配はなかった。
「はい、これで制圧終了ー、あとは他の奴らに任せりゃいいだろ」
あっさりとそう言うと、芹川はこちらの方に向き直った。
「よ、怪我ないか真由? ……………それからついでに俊?」
「ん、あたしたちは大丈夫。
だけど、どっちかって言うとそこに転がっている人たちの方が不安なんだけど?」
「あぁ、手加減したから死んではねえだろ多分」
……あっさり多分とか言うなよ。
一応確認しとくが、こいつ―――芹川海人は俺と同じ学生服を着ている通り、
俺と卯杖の同級生であり、同じ学校に通っている。
幸い、クラスメートではないが、かなりの頻度で遭遇する。
俺は静かに溜息をついた。
「ついでにとは御挨拶だな。
こっちは守るべき一学生なんだから怪我の確認は当たり前だ。
あと、今後はこんなことがないようにするのが“生徒執行連盟”の仕事だろ」
「守るべき相手かどうかによるわな。後半は大丈夫だ。今度は少々きつく絞っとく」
こいつは帰ってからさらにいたぶるつもりのようだ。
芹川はそう言って、手の方では何やら小型の機械―――専用の通信機を取り出す。
「あー、こちら芹川海人。地点F-6にてバカどもを捕獲。車の手配よろしく」
『了解、だが今、車が他の所にでているから20分ぐらいかかる』
「おー、むしろ好都合だ。オレの方はもう少しかかる」
『……?まあいい、待機しておけ。そのまま拾う』
「へいへい、じゃ、通信終了ーっと」
そのような会話をして、通信機をしまった。
“生徒執行連盟”
それは学生によって結成された組織だ。
増えていく学生の犯罪・不正を取り締まるために作られており、
学校だけでなく、街中ならその権力を使うことが可能だ。
まあ、単純に言えば、学校の風紀委員がさらに大きくなったものだと考えればいい。
そして、芹川はその一員であり、かなりの成果を上げていることで知られている。
さて、説明口調になったが、そんなことは関係ないし、どうでもいい。
「なら、俺はもうここにいる必要はないだろ。さっさと帰らせてもらう」
そう言って、俺はようやく橋の向こう側へと進もうと芹川の横を抜けて行こうとする
――――――が、
「待てや、まだてめぇへの用事が終わってねぇ」
―――芹川は腕を横に伸ばし、俺の進路を遮った。
やれやれ、たかが一つの橋を渡るまでに随分と時間のかかること。
俺は嫌気がさす気分で目のギラつかせた芹川を見た。
「用事? それが何か知らないが、早く帰りたいから今度にしろ」
「そう言うなよ。すぐに終わることだしな」
嘘だな。すぐに終わる内容ではない。
実のところ、俺は芹川の用事が何か想像はついている。
……まあ出会えば大抵そうなるからな。
「だが断る。いろいろと面倒だ」
「まあそう遠慮すんなよ。ちょっと活動に協力してくれたお礼だしな」
「えっ、なにかお礼あるの!?」
「おお、卯杖には後でお菓子の詰め合わせでも贈っとくわ」
「やった!」
おい、卯杖。何どさくさに紛れてお礼要求してるんだ…
そもそもお前もこれから起こるであろう俺へのお礼は予想付いてるだろうが!
「余計なことをしなくていい。お礼なら早く帰らせろ」
「そう言うな。俊には特別用で今この場でできる。もったいねぇだろ」
言葉を重ねるたびに、芹川の一言一言に気合が高まってきているのを感じる。
そして、芹川の周りから陽炎が上がり始めているのは気のせいじゃないだろう。
なんでこう、俺の周りには自分の力を乱用するやつが多いのだろうか。
少しは穏便に事を収めようとしろよ。
いや、俺は違うぞ。さっきは例外でいつもは適当に何とかするし。
「……もう予想できているが一応聞いておこう。何だ?」
俺がウンザリと訊ねてやると芹川は実に楽しそうに叫んだ。
「―――今日こそ決着つけようぜ、俊!!!」
その瞬間、ボッという音と共に火の粉を含んだ熱風が芹川を中心に吹き抜ける。
それと同時に辺りの気温が急上昇。
あいかわらず、暑苦しい………
俺は芹川の超能力の発現を見てそう思った。
“発火能力”
それが芹川海人の能力であり、彼が超能力者であることの証だ。
今や数十年は発展することはないとまで言われていた科学が示した
新たな人間の可能性が“超能力”だった。
とある学習を受けるとその人間に合った能力が目覚める。
能力は千差万別で、一般的なものから個人的なものまでさまざまである。
そのあたりは人の遺伝子情報が関係していると聞いたことがあるが……
まあ今回は割愛しよう。
さて、そんな超能力の中で芹川の発火能力はかなりポピュラーな部類だ。
文字通り自ら火を生み出せるライターいらずの便利かつかなり攻撃的能力。
一般的には自分の手のひらサイズの炎を発生させることができる程度。
一応、超能力は人間の能力の一部と同じで、使うほど、鍛えるほど強くなる。
最近では、超能力専門の授業を取り入れた学校も増えてきている。
俺たちの学校もそのひとつであり、先進的に授業制度が整えられている。
そして、芹川はそんな中でもトップレベルの発火能力者であることで有名だ。
学校の授業に加え、生徒執行連盟の訓練と実践。
それらで鍛えられ、本人の才能もあって、1,2位を争う使い手に成長した。
先ほどの炎の壁はその一端であり、不良たちを倒すなどお手のもの。
本気を出せば、人ぐらいなら簡単に焼き殺せるらしい。
この力を使い、芹川は生徒執行連盟で活躍している。
戦闘にならば、真っ先に狩り出されるのが芹川であり、さらに経験を積んでいる。
今や、その実力が全国で見ても高ランクなのは言うまでもない。
そんな芹川の能力を見て、俺は驚くこともなく冷静に言葉を返す。
「それは俺へのお礼にならないだろ。
だいたい、いつもお前が勝手に殴りかかってくる勝負に決着といわれても」
「ああ、わりぃ。お前へのお礼って話は嘘だ。単純にオレがお前と戦いたいだけ」
「知ってるよこの戦闘狂。そして、とうとう本音暴露したな」
俺はそこで思考を加速させ、一つ提示する。
「条件だ。俺が勝ったらもう二度と俺に勝負挑んでくるな」
「あぁん? ………まあいいぜ多分、だが勝てたらな?」
「多分言うな。だいたい、生徒執行連盟なら訓練相手ぐらい幾らでもいるだろう」
「もうあそこにいる奴らは誰も相手になってくれねぇンだよ」
『なんでかなぁ?』と呟く芹川だがその理由は簡単だ。
そもそもこいつほど強い奴はほとんどいないし、模擬戦だろうと手加減しない。
そんなやつと訓練として戦おうとする奴など皆無だからだ。
だからといって一般市民と戦おうとするのは根本として間違っているが。
さて、いつもなら結局強制バトルにはなるが、一応適当にあしらうところだ。
だが今回、そもそも不良たちとも軽く戦り合うつもりだった。
確認のため言っておくが、その理由は早く帰るためだったはずだ。
しかし、たび重なる面倒事、どんどん潰れていく時間。
正直に言おう、今俺は少し苛立っている。
この状況に、降りかかってくる面倒事に、そしてなにより―――
―――全てを消し去ってしまえと考えが浮かぶ自分に。
「……20分と言ってたな。と言うことは後10分ほどという訳だ。
いいだろう、それまでに終わらせてやる」
俺はそう言って、さっきよりも遠くの橋の柱の影にカバンを下ろす。
流れ弾で燃やされたら、流石にまずい。
そして、再び芹川と向き合う。
芹川は少し驚いた様子でこちらを見ていた。
「おっ、どうしたよ? えらくヤル気じゃねぇか?」
「どうでもいい、さっさと終わらせてそこを通らせてもらう」
「言ってくれるじゃねえか。で、それは俺の勝利でか?」
「お前の想像にまかせよう」
そう言うと俺はゆっくりと芹川の方向―――橋の向こう側へと歩き始める。
その歩みはどこまでも平坦でいつもと変わらない。
そんな俺の様子を見て、芹川は軽く睨みつける。
「ほお、オレに対してそんな態度がとれるとはな。
いいぜ、今日は本気で相手してやるよ!!」
芹川が掌をこちらに向けると、そこから小さな火の玉が生まれた。
それは見る見るうちに巨大化し、大きな火球へと変貌する。
「いくぜ、おらぁぁぁああああああ!!!」
芹川は獰猛な笑みを浮かべ、叫び声と共に火球をこちらへと放った!
そのスピードもかなりのもので、明らかに手加減などされていない。
当たればほぼ間違いなく死が確定する、そんな一撃。
俺に死を与えようと迫ってくる火球に視界が埋め尽くされる。
紅く染まった世界の中で、俺はただそれを眺め―――
―――鋭さをもった瞳を、僅かに笑いを浮かべた口元で迎える。
「………あれ、あたし、はぶられてる?」
そんな卯杖の呟きを、爆発音が消し去った。
……あれ、おかしいな、なんでここまでしかいかないんだ?
本当だったら、この文字数でもっと先まで行くはずだったのに。
付け加え付け加えで気付いたらこんな感じに……
グダグダ感満載ですみません。
さて、来週の更新はおそらくできないと思います。
序盤で早々ごめんなさい。別の作品を書かなければいけないので。
それはひょっとしたら載せれるかもしれませんが今は未定です。
できるならまた来週、無理なら再来週にお会いしましょう。