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怪魂歌 ~二十一世紀初期に発生した怪現象について~  作者: おさかなの煮物


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4/10

二ノ一 祓う

 あの事件から数週間後、女性こと日寺(ひのでら)詩喜(しき)は何事もなく生活しているつもりだった。夏休み中でも生活リズムを崩すことなく、決まった時間に起床し、決まった時間に朝食を摂り、体に疲れを溜めるような行動はしていない。

 だが、違和感ばかり感じる。先日のあの化け物の手に当たったことで負傷、左脇腹を打撲したのだ。治療を受けたとはいえ痛みがじんわりと残っているが、それとはまた違う話だった。


 体に鉛を結ばれているかのように重く感じ、見間違いや幻覚と言い切れない程に変なものばかりを見る。

 リビングと廊下を繋ぐドアの隙間から青白い手が見えたり、机の下には自分とは別の青白い足がはみ出していたり、鏡を見れば一瞬だが肩の上に何かが乗っているのが映る。目を閉じれば人の形をした何かが(まぶた)に映る。夢も数日前のあの光景が鮮明に映り続け、心と体に疲労をもたらし続けていた。


「お母さん……最近変な夢とか 幻覚?とかばっかり見るんだけど……」

「あら……ちょっと塩でもかけてみる?」


 そう言ってハーフアップの髪型をしている彼女の母は詩喜を外へ連れ出し、台所にある食塩を彼女の背中にむけてかける。最初は何事もなかったのだが、段々と彼女の背中が熱くなる。


「熱ッ!?」


 思わず声を上げ、彼女の母も塩を投げるのをやめる。


「……詩喜、明日藤山除霊さんに頼んで除霊してもらいましょ。」

「うん。あ、そうだ。」


 母の言葉に詩喜は思い出したかのように二階の自室へと駆け込む。途中手や足が各所に現れたがそんなことを気にする暇がないかのように机に置かれていた名刺を手に持ち階段を下りていく。


「はい!お母さん」


 息を切らしながらお母さんに名刺を渡す。母がリビングに移動しながらスマホを取り出し、名刺の番号を確認しながら電話をかけようとする。だが、電話番号を入力し電話をかけたタイミングで突如としてスマホの右上に圏外の表示が現れ、通話が出来なくなってしまった。


「あら……スマホが変になっちゃったわ……」

「あっ、私のも……」


 だが、その時、圏外の表示のまま電話が流れる。固定電話に詩喜のスマホと母のスマホの全てに電話がかかり、誰もリモコンを触っていないというのにテレビが点き、砂嵐を流す。

 また、電話に応答していないというのにテレビやスマホと言った音声を流す全ての機械から声が流れ始める。


「苦しめよ……とっとと死ね!!」


 先日聞いたばかりの化け物の声が家中に響く。詩喜はあの時起こったことがまた起こるのだろうと妄想を広げ恐怖し、パタンと地面に座り込む。


「二十年ぶりだわ、こんなこと。詩喜、最近何かあった?」


 彼女の母は突然響いた声に恐怖することなく、経験していたことだったのか冷静に会話を始める。


「前、肝試しに行って怪我して帰ってきたじゃん。あの時、お化けがいたからもしかしたらね……」


 詩喜はあの時の約束通り母にも真実を伝えていない。だが、母は真実を知っているかのように口を開く。


「どうせ藤山除霊さんに口止めされているんでしょ?いいのよ私に言うなら。元々藤山除霊で働いてたし。」

「え?じゃあなんで除霊しないの?名刺に書いてた人はあの時会った化け物を一方的に蹂躙していたけど……」

「全員が全員除霊するわけじゃないのよ。ほら、防護服着た人とかいなかった?」

「いた……じゃあまさかお母さん!?」

「いやいや、私はあくまでお化けがいる場所とかの情報の管理職。最低限、お化けとは戦えるけど現場に出て戦うわけじゃないのよ」

「へぇ~。ってそうじゃなくって!どうするのこれ!?」

「前はお父さんがいたから何とかなったけど、どうしようもないわね……まぁ明日から学校だし、外に出れば誰かが気付いてくれるでしょ。車動かしても今のお化けに操られて事故なんて起こされたら(たま)ったものじゃないしね」


 しばらくすると声も止み、テレビも勝手に消えてくれた。


「一応、盛り塩とか出来る限りのことはしておくわ。根本的な解決にはならないでしょうけど、やらないよりかはましよね。」

「うん……」

「お化けも興奮してるだろうし、明日もう一度電話するか、学校行ったついでに藤山除霊さんのところに行ってみるかしないとね。」

「今、外出られないの……?」

「出られないっていう訳じゃないけど、今興奮している状態で変に刺激するよりかは一旦お化けが落ち着いたタイミングで行動してみた方がいいかもね。」

「確かに、そうかも」


 詩喜は夏休み最後を安静に過ごし、次の日を迎えることにしたのだった。

 ただ、化け物を刺激したせいなのか、その後も高頻度で手や足の出現といった怪現象に直面し、夜になっても夢の中で何度もうなされ、体を休めることは叶わなかった。


「はぁ……学校行きたくない」


 開口一番にネガティブな言葉を母に向けて発する。疲労のせいもあるのだろうが、単純に休みをまだ満喫していたいような意図も感じてしまうのは気のせいだろうか。


「とりあえず学校頑張りなさい。人混みにいればお化けの活動も消極的になるだろうから。それに行かなかったら行かなかったで長引くだけよ?」

「はぁい……」

「あぁ、それと今日と昨日の話は誰にも言っちゃだめよ。藤山除霊さんが口封じしてるんだからね。」

「はぁい……」


 相変わらず、家の中にいればどこでも変な現象が起こってしまう。いつもより早く準備を済ませ、そそくさと高校へ向かう。


「あ、おはよう加簾(かれん)

「おっはー詩喜!」


 彼女は詩喜の友人で小学校からの仲である。詩喜の姿は白く、シルクのような綺麗な肌に、艶のある黒髪を一束にまとめたポニーテールの髪型をした女性だが、そんな彼女とは趣向が違うのか、加簾は金髪に染めた髪をヘアピンやゴム、アクセサリーで無理矢理にまとめた、雑なようで整った髪形をしている上、肌も小麦色に灼けている。

 二人が残暑の中、木陰のある車道をゆっくりと歩き高校へと向かう。


「そういえばなんかいつもより元気ないね。熱でもあるの?」

「いやぁ実はさ……」

「あっ!そうだ!毎度毎度の恒例行事だね!学校行きたくないんでしょ?」

「確かにそれもあるけども、実はこの前肝試しに行ってさ……憑りつかれたかもしんないんだよね」

「肝試し!そういえば最近有名だった廃ホテルが崩れて危険だって撤去されるって二週間前?先週だったかな?前話題になってたよ」

「あ、そうそうそのホテル。お化け見れたんだけど、崩れた時に巻き込まれちゃってさ。ここ(左脇腹)、怪我したんだよ」

「あれま!それはお気の毒に。それでそれで?肝試しって何人で行ったの?」

「……四人。」

「?どうした、そんな急に顔色悪くして。」


 詩喜は事故で三人死んだという嘘を言えず、かといって真実も言いだしたくない。思い出したくもない内容がまた鮮明に蘇り、思わず目を瞑った時の瞼の裏にその記憶が朧気に映し出されたのだ。

 映し出された記憶を見ないために目を開け、とっさに加簾に向けて口を開く。


「ううん、何でもない。結構怖かったからさ」

「へー……行きたかったなぁ……」


 彼女たちの自宅から高校までの距離はそう遠くないため、軽い会話で校門の前まで着いてしまった。


「じゃ、また帰りねー!」

「はーい。」


 二人は仲が良くても別のクラス。玄関で別れそれぞれのクラスの下駄箱へと向かう。

 上靴を履き、上階へと続く階段を上る。


「あ、おひさ~」

「おひさ~」


 ここでもう一度加簾に会うため、再度挨拶をし、今度こそ別々のクラスへと向かうため、一緒に階段を上り、三階の廊下に出たタイミングで別れる。


「ば~い」

「またねー」


 手を振り、後ろを向きながら廊下を歩き、詩喜は階段を上って右側の「東館」、加簾は階段を上って左側の「西館」の教室に向かう。

 彼女たちの通う高校はクラスが四組あり、東館に一組と二組が、西館に三組と四組のクラスが置かれている。


 詩喜は一組の教室に入り、窓側から二番目の一番後ろにある席に座る。鞄から荷物を取り出し机にしまった後、ロッカーに鞄を入れるため立ち上がり、再度席に着く。


「う……ここにもいる……」


 座ってホームルームが始まるのを待っているが、手に違和感を感じ、下を見ると家でも見た青白い手が机からひょっこり身を出し、自身の腕を掴んでいる。掴んでいる腕を払い、机を見ないよう、斜め右の床の方に視線を向ける。


「嘘……」


 だが、そんな程度で諦めるほどの精神を持っているのならあの化け物は彼女に憑りつきなんかしないだろう。化け物も自分に注意を引くためなのか、詩喜の視界に映り続けるために机の脚からひょっこりと指を出してみたり床にあの時と同じ、不気味な顔の形をした汚れを浮かばせる。

 憑りつかれているのが自分自身だけという可能性が高いため、変に騒いでしまえば周りから「突然叫んだ人」というレッテルを貼られてしまう。そんな事態だけは避けたいと、必死に声を上げるのをこらえ、顔に冷や汗を少しだけ浮かばせる。


 どうせどこを向こうと、目を瞑ろうと視界の中に、必ず化け物はいる。

 その文字が頭をよぎってしまい彼女は錯乱してしまい、全員に気付かれる程ではないが、机の上で頭を抱え込み、段々と音を立てながら息をするようになり、過呼吸になっていく。


「どうしたらいいの、どうしたらいいの……!」


 怒りをぶつけるように小さな声で、自分に向かって叫ぶ。頭を抱える手に力を籠めながら、後頭部の方へと握り拳を寄せる。

 相談する相手がいないし、助けを求めようにも恐らくあの化け物が邪魔するのだろう。

 八方塞がりの状況を打破するように突然、隣から声が聞こえる。


日寺(ひのでら)詩喜(しき)、相談なら聞くぞ?」

 最初のホテルで死んだ三人はホームルームで学校全体に知らされてはいましたが、化け物のせいでそれどころじゃない詩喜には聞こえていませんでした。本編に関係しないことなので言わなくてもいいかなと思いましたが、一応言っておきます。後付けの設定です。すみません。

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