聖女との出会い
式は、学園長や生徒会長からの祝辞などを聞き、学園の特色や校舎の説明などを受けていると、あっという間に終わった。式が終わると同時に周りの生徒達は会場から出ていく。既に仲良く話している生徒も見受けられ、フィーリアは目を伏せた。
隣の椅子に目を向けるも、そこには誰も座っていない。もう会場から出て行ってしまったようだ。
過去三度、学園に通っていた時は、仲良くしている友達はそこそこいた。今世でも一人にはならないように友達を作りたい。友達は授業が始まってから頑張って作ろう、と意気込んでフィーリアは立ち上がる。そして噴水に向かうために会場を出た。
今日は式だけが行われ、教科書などの必要な備品を受け取ったら帰ることになる。寮に住む生徒は今日から寮に住むのだが、フィーリアは屋敷からの通いなので関係ない。クラス分けは明日発表される。授業が始まるのは明後日からだ。
ヴィセリオと合流してから教科書を受け取りにいくことになっている。フィーリアは明日以降の予定を思い出しながら歩みを進めた。
噴水周りには人がいない。フィーリアは絶えず吹き出す水をじっと眺めた。時を忘れて見続けることができそうだ、という気分になる。
そのまましばらく立っていると、フィーリアは噴水の奥に鎮座する女神像の前に誰かがいるのが見えた。彼女は周囲を見渡してヴィセリオがまだ来ていないことを確認し、女神像に向かって歩く。
陽の光が反射し、女神の祝福を受けていると錯覚するような輝きを放つ金色の長い髪を持つ生徒が、片膝をついて女神像に祈りを捧げている。フィーリアはその神々しさと美しさに思わず目を奪われ、魅入ってしまった。
「……ルーン?」
鈴が鳴るように心地よい声を発し、彼女はフィーリアを振り返った。まるでピンクサファイアと見紛うほどの綺麗な瞳が彼女を見る。彼女は数回目を瞬いた。
「あら。貴女様も新入生ですか?」
彼女は立ち上がり、手を合わせてにこりと微笑んだ。フィーリアも微笑みを浮かべて頷く。
「はい。申し訳ありません、不躾に見てしまって」
「いえいえ。女神様のお姿を見ると、ついお祈りを捧げてしまうのです」
フィーリアはそう言って恥ずかしそうに笑む彼女に見覚えがあった。というよりも、さっき姿を見たばかり……。
「……聖女様?」
フィーリアが呟くと、彼女は穏やかに微笑む。その笑みは慈愛に満ちていて、全ての者への愛に溢れていた。
「ええ。わたくしは、十五代目聖女のレティシア・ホーリィと申します。どうぞ宜しくお願いします」
彼女はそう言ってスカートを摘まんで礼をした。その作法は洗練されたものであった。
聖なる魔力を持ち、癒しの魔法を扱うことができる聖女。先程の式で、彼女は生徒の前に立って紹介されていた。式だけではない。フィーリアは、新聞や本でも彼女の姿を何度も目にしたことがある。
世界に愛される聖女が目の前にいることに驚きと感動を覚え、フィーリアも一礼した。
「わたしはフィーリア・ユリースと申します。聖女様にお会いできたこと、感動しております」
「フィーリア様。これからわたくし達は同級生となるのですから、軽く接してください。よければ、レティシアと呼んでくださると嬉しいです」
レティシアは期待する目でフィーリアを見た。聖女ともあろう方の名前を呼ぶことに申し訳なく感じたが、フィーリアはその純粋な瞳に負けてしまった。
「……はい、レティシア様。よろしくお願いします」
フィーリアの言葉にレティシアはぱっと顔を輝かせた。可愛らしい、と思わずフィーリアは心の中で呟いた。