心配
「そうですか……魔獣で混乱させて、本来の目的を隠していたのですね。フィーリア様がご無事で、本当に良かったです」
フィーリアから詳しい話を聞いたレティシアは、柔らかい笑みを浮かべながらそう言う。フィーリアも曖昧に微笑んだが、先程の嫉妬からくる罪悪感で彼女の顔を正面から見返すことはできなかった。
「……ルーンオード様は、どちらにいらっしゃるのですか?」
話を変えようと、フィーリアはこの場にいないルーンオードの姿を探しながら訪ねる。レティシアも目を動かしながら、首を傾げた。
「さっきは近くにいたのですけど……」
彼の姿を探していると、裏路地から一人の青年が姿を現した。その人は、男の首根っこを掴んで引きずっている。
「ルーン。その人は何?」
「これですか? 怪しい動きをしていたので、とりあえず押さえておきました」
そう言って、ルーンオードは男を一瞥した。その男は、まさに先程フィーリアを襲おうとしていた者だ。
彼女の怯えた表情に気が付いたのか、ルーンオードは目を鋭くさせてじっと彼女を見つめる。
「……何かあったのですか?」
「フィーリア様は、魔獣の騒動に乗じた者達に誘拐されそうになってしまったの」
何も話せないフィーリアの代わりにレティシアが事情を話すと、ルーンオードはみるみると剣呑な表情になっていく。
「……拐かされそうになった、だと? この男が犯人ですか?」
彼は手に持った男の首に力を込めている。男は苦しそうにうめき声をあげているが、彼は全く気にしていない。その内男の首が折れてしまうのではないかと心配になるほどである。
「確かにあの魔獣は何者かに使役されていました。本来の目的は、人さらいだったのですね。本当に忌々しい限りです」
ルーンオードは吐き捨てるようにそう言って、男を突き飛ばした。首を抑えてせき込む男を冷たい目で見降ろしながら、彼はフィーリアの護衛に向けて温度のない声色で言い放つ。
「お前達のその剣は偽物か? 一から鍛え直すべきだ。ヴィセリオ殿も、こんなに弛んだ者達をフィーリア嬢の護衛に付けるなんて、甘いものだ」
肌がピリピリするような圧を出しながらルーンオードは護衛達を睨む。直接その魔力にあてられた彼らは、冷や汗をかきながら頭を下げた。これを見ていると、騎士の中での上下関係がはっきりと分かるようだ。訓練場では、彼はいつもこんな感じなのだろうか。
彼らの様子を窺っていた男は、懐から何かを取り出そうとする素振りを見せる。フィーリアは声を上げようとしたが、ルーンオードはとっくに気が付いていたのか、その男の首裏を叩いて眠らせた。
「……フィーリア嬢」
「は、はい」
護衛達の手によって運ばれる男に見向きもせず、ルーンオードはまっすぐとフィーリアの目を見る。深い蒼い瞳がいつもよりも陰っている気がして、心が落ち着かない。
「お怪我はありませんか?」
「だ、大丈夫です」
ルーンオードはフィーリアの手を取って、観察するように彼女の顔を見つめる。先程とは全然違うドキドキが襲い掛かってきて、顔に熱が集まる。彼の目を見つめ返すことができない。
「……貴女様にこのような目に合わせてしまい、私はヴィセリオ殿に何と言われることやら」
ふ、と目を和らげ、ルーンオードは微かに微笑んだ。フィーリアを安心させるためにそうしてくれているのだと思うと、嬉しいという感情が表に出てくる。思わず口元が綻んで、フィーリアも微笑んだ。




