解呪の方法
「解呪するためには、呪いの根源を知る必要がある。教会で呪力が暴発したなら、教会に何か所法があるかもしれないね」
「レティシア様なら、呪いの事にもお詳しいでしょうか?」
「そうだね。聖女様の魔力は神聖で、解呪にも効果的だから。教会には他にも、解呪に特化した者は従事しているよ。一回、見てもらうのもいいかもしれないね」
ヴィセリオの言葉に頷きながら、フィーリアはエメラルドに瞳を瞬いた。何だか、彼の対応が手慣れている気がしたのだ。まるで、元々用意されていたように、解呪のための方法を提示してくれる。
不思議に思った彼女に気が付いたのか、ヴィセリオは笑みを零して優しく微笑んだ。
「フィアのためなら、私は何でもするよ。そうだね、いっそ結婚せずにずっと私の傍で暮らすという方法もあるのだけど、どう?」
「そ、それはだめです! お兄様のご迷惑になります」
「私は君に関することなら、一切迷惑だと思わないけどね」
フィーリアは動揺を鎮めるためにアイスティーを飲んだ。芳醇な茶葉の香りが鼻を通り、心が落ち着く。
「……ルーンオード以外の男で問題がないのなら、彼以外でいい人を見つけてみるのは?」
息を吐いていたフィーリアを見つめていたヴィセリオは、そう問いかけた。この問いにフィーリアは言葉を失って、思わずカップを握る手に力を込める。
これも、当然の疑問だ。ルーンオード以外と夜を共にしても死なないのなら、他の男性を選べば良い。そうすれば貴族の義務を果たすことはできる。ルーンオードに拘る必要はないし、今の彼は聖騎士という立場である。レティシアといずれ契りを結ぶ彼を惨めに求めて、家族に迷惑をかけることはフィーリアの望むことではない。
黙ってしまったフィーリアを静かに見たヴィセリオは、ブラックコーヒーを口に含んで優しく微笑んだ。
「意地悪な質問をしてしまったね。私はフィアが望むことを、全て叶えてあげたい。フィアがルーンオードが良いと言うのなら、私は全力で解呪の方法を探ろう」
彼はまっすぐとフィーリアの目を見る。いつになく真剣な顔で、彼の瞳から目を逸らすことは自分の本心から目を逸らすような気がした。フィーリアは息を飲んでまっすぐと彼の瞳を見つめ返し、自分の想いを口に出した。
「……わたしは、ルーンオード様のことを諦めたいと、思っていました。ですが、彼の瞳が忘れられなくて……。彼の傍にいることを望んでしまう自分の心が醜くて、嫌になってしまいます。彼は聖騎士で、レティシア様と契りを結ぶはずなのに。わたしは、彼らの邪魔をしないほうがいいのです。そうすれば、わたしも彼も死を迎えることはなく、長く生きられるはずなのです」
次から次へ、抑えていた気持ちがあふれ出る。ぼろぼろと、言葉と共に涙が出てくる。
「ありがとう、フィア。君の想いを聞かせてくれて」
いつの間にか立ち上がっていたヴィセリオは、とても優しい声でそう言って、フィーリアを後ろから抱きしめてくれた。頭が優しく撫でられ、恥ずかしさを感じるよりも安心感で心が温かくなった。幼い頃、寂しくて泣いていたフィーリアを慰めてくれたその温かい手に、涙が止まらない。
「私はフィアの味方だよ。フィアのためなら、私は何でもしよう」
耳元で囁かれたこの言葉が、心強くて、温かかった。




