不審な手紙
終業の日にも、不審な手紙は届いていた。「貴女だけを見ている」という文字に、フィーリアは気持ち悪さを感じる。
「しつこい手紙ですね。流石に度が過ぎています」
隣でフィーリアが持つ手紙を見たアレクシアがそう呟いた。ソフィアとレティシアも賛同するように頷く。最初は恋文だと喜び、恋話に花を咲かせていた三人だが、何度も届くこの手紙に不信感を覚えたようだ。
何か大きな事件が起こる前に、ヴィセリオに相談しておいた方がいいかもしれない。
「フィーリア嬢宛に、不審な手紙が?」
「ああ、何度も届いているらしい。『貴女のことが忘れられない』だとか『ずっと貴女を見ている』といった言葉が書かれていた。あまりにもしつこく届くものだから、フィアが怯えていたよ」
ルーンオードは、素振りを終えて汗を拭いながら、話しかけてきたヴィセリオの顔を見た。彼も同じように素振りを行っていたはずなのに、一切汗をかいていない。
「さっさと送り主を見つけ出して始末してください」
簡潔に述べてルーンオードはヴィセリオの隣を通り抜ける。苦笑しながら、ヴィセリオが後をついてくるのが分かる。
「勿論、送り主はすぐ見つけ出すよ。でも、始末はしたくてもできないかな」
「……なら、私が殺します」
「聖騎士殿が安易に殺すとか言ってはいけないよ」
大きな手が頭に乗せられ、ルーンオードは嫌そうな顔をしながらその手を払う。そして、隣で歩くヴィセリオから離れるように、歩く速さを速めた。
「明日、フィアとサンドリア美術館に行くのだよ。楽しみだな」
「……自慢は聞きたくありません」
「君だって、フィアとレティシアのお出かけについていくだろう? 私は殿下に呼び出されているから行くことができないのだよ」
ヴィセリオが気を落としたように沈んだ声を出したので、ルーンオードは振り向いて勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「残念ですね。私はレティシア様の護衛ですから、彼女が街に出かけるのであれば、必ずついていきます。安心してください、フィーリア嬢のことは必ず私が守ります」
私が、という部分を強調して言うと、ヴィセリオは目を和らげ、優しい眼差しでルーンオードを見た。その瞳があまりにも温かくて、ルーンオードは思わず目を逸らす。彼女の兄であるヴィセリオに嫉妬して、子供のように意地を張った自分が、恥ずかしく思えてくる。
「……申し訳ありませんでした」
「何故謝るのだい? 私の代わりに、私の大事なフィアを守ってくれるのだろう?」
ヴィセリオは、にこり、と今まで通りの本心を読ませない笑みを浮かべる。やけに、私の、という部分が強調されていて、ルーンオードは眉を顰める。やはりこの将来の兄は、気に入らない。
「そういえば、フィアは君に何も言いたいことはないのだって」
「……急に何です?」
「一応伝えておこうと思ってね」
騎士団長に呼ばれ、ヴィセリオはルーンオードの肩を叩いて彼の元に歩いて行った。一人残されたルーンオードは、手に持ったタオルを強く握りしめた。深い蒼い瞳は、昏く陰りを帯びている。




