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お出かけの約束

 

「フィーリア様。長期休暇の予定はありますか?」

「今のところ、領地に戻ること以外は特にありません」


 レティシアに話しかけられ、フィーリアは教科書を整えながら彼女を見た。彼女の返事に、レティシアは微笑んで両手を合わせる。


「貴女様がよろしければ、一緒に街にお出かけしませんか?」


 レティシアの提案に、フィーリアは目を瞬く。そして、にこりと嬉しそうに笑みを浮かべた。友人とのお出かけは、長期休暇中の学生にとって醍醐味とも言える。フィーリアは過去にあまりそういったことをしたことがないので、気分が向上していた。


「はい、わたしも行きたいです! ですが、レティシア様はお忙しいのではありませんか?」


 長期休暇中、学園に通う必要がないため、レティシアは聖女としての仕事で忙しくなるのだろう。彼女はフィーリアには想像もできない生活をしているのだと思う。


「毎日忙しいわけではありませんから。フィーリア様は、行きたい場所はありますか?」

「行きたい場所……すぐには思いつきませんね。レティシア様はどうですか?」

「わたくしは、最近開いたというカフェに行ってみたいです。スイーツが美味しいという噂を聞いて、食べてみたいと思っていたのです」


 頬を染めて微笑むレティシアを見て、フィーリアもつられて優しく微笑んだ。レティシアは甘いものが好きで、よく食堂でもスイーツを食べている。フィーリアも、甘いものは好きだ。


 レティシアとのお出かけに想像を膨らませるフィーリアだが、ある一つの考えにいきついた。それは、レティシアが街に出る時には、必ず護衛が付くということだ。護衛、つまりルーンオードが、一緒に来るのではないのだろうか。

 フィーリアも侯爵家の令嬢なので、護衛が付いてくる。もしかしたら、ついてくると言って融通が利かなくなった兄ヴィセリオがついてくる可能性があるかもしれない。


「わたしもそのお店に行きたいです。是非、行きましょう」

「楽しみです!」


 その後はお出かけの日程を相談し、サンドリア美術館を訪れる三日後に行くことに決まった。ルーンオードが付いてくるかどうかは、聞くことはできなかったけど。

 フィーリアと同じように教科書を片付け始めたレティシアを見ながら、フィーリアは口を開いた。


「レティシア様は、サンドリア美術館に行ったことはありますか?」

「サンドリア美術館ですか? 一度だけあります。フランチェスコによって描かれた、初代聖女様と勇者様が描かれた油絵がとても美しかったことをよく覚えています。美術館に行かれるのであれば、是非ご覧になってください!」


 まるで美術館の人のような紹介の仕方である。レティシアは初代聖女のことを尊敬しているようだ。有名な初代聖女と勇者の話は、フィーリアも良く知っている。

 五百年以上前、国が魔物大氾濫に襲われた際、前線で戦い魔物を全て滅し、傷ついた何万人もの民を癒した者がいた。二人は「勇者」「聖女」として称えられ、今では伝説として語られる。二人は契りを結び、伴侶となったが、戦いの疲労のせいかすぐになくなってしまったとされている。


「そうなのですね。その絵を見るのが楽しみです」


 フィーリアは、過去に彼と共に訪れた美術館の内装を思い出しながら、頬を緩めた。

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