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愛する人 Side:ルーンオード


 ——ルーンオードは過去四度、愛する女性を目の前で失った。


 一度目の人生では、婚約者という関係だった彼女を愛し、彼女に愛されて幸せな日々を送っていた。結婚式を挙げ、彼女の身体を知り、幸せの絶頂にいた時。デート先で魔獣に襲われ、彼女と共に死んでしまった。血を流して倒れる彼女の姿が、瞼の裏にはっきりと蘇る。


 二度目の人生は、再び彼女と出会えたことに感謝して、彼女に愛を伝えた。どうやら彼女も自分と同じように二度の人生を歩んでいると分かり、運命だと喜んだ。しかし……彼女と夜を共にした後日、領地に戻る際に乗っていた馬車が崖下に転落。愛する彼女が自分よりも先に地面に落ちたのをこの目で見た。


 三度目の人生では、彼女が自分を避けていた。婚約者であった彼女は不遇な扱いを受けており、義理の母と妹からいじめを受けていた。自分から離れていこうとする彼女を食い止め、囲い込み、学園を卒業してからは自分の屋敷で閉じ込めるように彼女を守った。

 彼女という誘惑に負け、彼女を抱いた次の日の朝。愛する彼女は目の前で血を吐いた。彼女が飲んだ水に毒が入れられていた。彼女を殺した義理の妹を処罰しても気は済まない。彼は彼女に会うために、自ら同じ毒を仰ぎ飲んだ。


 四度目の人生の時には、自分を纏う怪しい力に気が付いた。その力について調べていたが、彼女が家を飛び出して戻ってきていないという報告を受けた。彼女を探し出すと、彼女は他の男相手に自らの体を売る娼館に売られていた。彼は、怒りで目の前が真っ赤になり、娼館に乗り込んで彼女を一晩買った。理性が飛んで、とにかく彼女の身体を貪った。

 彼女の身を買い入れようと準備を進め、彼女を迎えに行ったその時。彼女は、目の前で彼女の狂信者に胸を刺された。狂信者は彼女を刺した後、自らも死んだ。彼女がいなくなった後、彼は自分の力に飲み込まれて力の制御ができなくなった。


 そして、現在。五度目の人生を歩むルーンオードは、自分を取り巻く力が呪力だと把握し、レティシアの力を借りつつ呪力を制御している。自分と彼女が死を繰り返す原因がこの呪力だとみて調べている途中である。


 愛する彼女は、フィーリア・ユリースとしてこの世に生きていた。彼女の方が先に死んでいるのに、ルーンオードの方が早く生まれている理由は分かっていないが、彼女の年下になるよりかは年上の方が都合がいいので、気にしていない。


 四度目の人生で、フィーリアの尊厳を奪うような行為をした。彼女は自分のことに気が付いているが、愛しいエメラルドの瞳を中々自分に向けてくれない。嫌われたと、そう自覚しているルーンオードは、彼女を刺激するような行動をしないようにし、内々で彼女を手に入れるために準備を整えている。どれだけ嫌われても、どれだけ拒否されても、彼女を手放すことだけはできない。


 ——今世こそは、この呪いを断ち切って、貴女と一生を共にする。


 そのためには、やらなくてはいけないことが沢山あるのだ。




 フィーリアとヴィセリオがダンスをしているのを、ルーンオードは無心で眺めていた。気を抜くと、ヴィセリオに対する嫉妬で身が焦がれてしまいそうになる。珍しい髪色を持ったヴィセリオとフィーリアが共に踊る姿は見栄えがあり、周囲の生徒達の目を釘付けにしている。

 時折ヴィセリオはルーンオードに目を向ける。ルーンオードが嫉妬のままに力の制御が甘くなっていないかを確認しているのだろう。


 ヴィセリオは、ルーンオードの事情を知っている協力者である。将来の兄は、わざとルーンオードの目の前でフィーリアと触れ合い、彼を煽っている。フィーリアの前でも力を抑えて理性を保つために必要なことなのだが、気持ちの良いことではない。

 ヴィセリオは妹を溺愛しすぎているので、ルーンオードのためと称して自分の好きなようにフィーリアに接しているのだろう。それは本当に気に食わない。が、ルーンオードの立場では何も言う事ができない。


 フィーリアが微笑みを浮かべているのを眺めながら、彼は心を鎮めるのに徹した。激情のままに動いてしまうと、彼女を見ている男全員の目を潰してしまいそうだ。


 呪力のせいなのか、ルーンオードの思考は闇に囚われてかなり物騒なものになった。倫理的に反するようなことを考えることも多々ある。レティシアとヴィセリオの矯正により、今ではかなり落ち着いた方だ。それでも、今までのように彼女と応対することはできないだろう。

 一曲目が終わり、ヴィセリオとフィーリアはルーンオードに近づいてきた。ヴィセリオは彼を見て笑みを深め、圧を与えてくる。その圧を軽く躱し、ルーンオードは目を和らげてフィーリアを見た。そして、温かい彼女の手を取って会場の中心に移動する。


 フィーリアと体を触れ合わせるだけで、脳が幸福で満ちる。これでは足りない、彼女の全てを奪いつくしたいと欲が出てくるが、顔を伏せた彼女を見ているとその欲は収束していった。


 こんな、前世で酷い行為をした男と近くにいたくないのだろうか。それならば、このまま彼女を手籠めにして、自分がいないと生きていられない体にしてやろうか。

 ルーンオードの胸の内を黒い気持ちが締め始めたが、フィーリアの耳の先が赤らんでいるのを見て、黒い靄が払われて思わず笑みを零した。そして、エメラルドの瞳が自分に向けられて、気分が高揚する。


 ——その瞳は、そのまま私にだけ向けておけばいい。


 エメラルドの瞳に深い蒼い瞳が映りこんでいるのを見て、ルーンオードは目元を緩めた。いつもは彼の瞳から逃れようとする彼女の瞳だが、今は違う。二人とも、互いを求め、溶け合っていく。

 会話はなかったが、この一瞬だけは愛する彼女と心を通じ合わせた気がした。

 

 

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