お祝い
そのまま三人で流行についてなどの話を弾ませていると、会場の入り口から遠い場所にある、他よりも一段高い場所に金髪碧眼の美麗な青年が姿を見せた。彼の隣には、社交的な笑みを浮かべたヴィセリオと、いつもと変わらず無表情のままのルディの姿がある。彼らが姿を見せると、会場は静まり返った。
王国の宝とも称される、絵画の様に美しい第二王子は、朗らかに微笑んで皆を見回した。
「新入生の皆さん、改めて入学おめでとうございます。私達は皆さんを歓迎します。今日はパーティーを楽しんでくださいね」
セオドルが甘く笑むと、女子生徒から黄色い悲鳴が上がった。
「生徒を代表して、ヴィセリオ・ユリースが皆さんにお祝いを送ります」
セオドルに目配せされ、ヴィセリオが前に出た。彼はにこりと笑みを浮かべ、指を一度鳴らした。すると会場内の光が消え、驚いた生徒達はざわついた。陽はとっくに沈んでいるので、光を失った会場は真っ暗になる。
しかし、そのざわつきは感動の吐息と共に飲み込まれた。
「なんて……美しいのでしょう」
フィーリアは思わずそう呟いて、顔を上げながら息を漏らした。
闇に包まれた会場の上方から、魔力の光が降り注いでいる。その様子はまるで、夜空に輝く星々のようもに見えた。落ちてきた星を両手で掴むと、暖かな力が身体を巡る。疲れた体が癒されていく。
これほど大規模な魔法を片手間のように行ってみせたヴィセリオは、本当に優れた魔法使いであると再認識した。しかも、魔力の光一つ一つが癒しの力を持っている。桁違いの魔力を持っていないと、不可能なことだ。
「わたくし、こんなに美しい魔法を見たことがありません」
アレクシアの言葉に頷きながら、ヴィセリオを見る。会場の光はまだ消えているので顔まではっきりとは見えないが、彼はフィーリアが見ていることに気が付いたのか、彼女を見て手を振った。フィーリアも小さく手を振り返し、改めて星を見上げる。エメラルドの瞳に星が反射して映り、キラキラと光り輝いた。
学園で最も優秀な生徒から新入生に送られたお祝いは、皆の心に深く刻まれた。
ヴィセリオが再び指を鳴らすと、会場の光がついた。夢から覚めた心地で、フィーリアは明るくなった会場を見渡す。ヴィセリオは胸に手を当てて、柔らかく微笑んだ。
「学園で過ごした日々が忘れられないものとなることを願っている。是非とも、ここでの出会いを大切にしてほしい。何か困ったことがあれば、私達上級生を頼ってくれ」
そう余裕に満ちた顔で笑む彼は、確かにこの学園で最も優秀なのだろう。あれほど大規模な魔法を使っておきながらも、汗一つかいていない。
割れんばかりの拍手が沸き起こり、セオドル達はそれに応えながら会場から姿を消した。彼らがいなくなると、生徒達は感じた興奮を周りの人と共有し始める。
フィーリアもまた、高揚感で頬を赤くしながら、友人達と話をした。
「ヴィセリオ様は、本当に凄い人ですね。わたくし、感動しました」
「ええ。わたしには一生かかってもあのような魔法は使えないでしょう。それに、あの魔法はヴィセリオ様のオリジナル魔法でしょうか? 初めて目にしました」
アレクシアとソフィアの言葉に何度も頷きながら、先程の魔法を思い出す。思い出すだけで感嘆の息を吐いてしまいそうだ。
「レティシア様がいらしていないのが、残念です。きっと、レティシア様も気に入られたでしょうに」
フィーリアはそう言って会場を見渡す。人を惹き付ける魅力を持つ彼女は、まだ会場に来ていないようだった。彼女が来ていないということは、当然彼も来ていない。




