兄の戯れ
公開する順番を間違えてしまったため、内容を大幅変更しています(元の話に戻しました)。急に話が飛んでしまい、申し訳ありませんでした。
「私が君の魔力を測ってあげよう。ほら、私相手だと緊張もしないだろう?」
「何を言っているのですか。肉親相手の測定を行うことはできないと、説明を受けたところでしょう?」
ヴィセリオの後方から、呆れた顔のルーンオードが歩いてくる。そして、彼の深い蒼い瞳がフィーリアに向けられた。
「……妹に甘い貴方のことですから、できるだけ彼女の魔力量を増やしてから測定を行いそうですよ」
ルーンオードの瞳を見つめ返す勇気が出ず、フィーリアは心落ち着く空色の瞳に目を移した。ヴィセリオは肩を竦め、優しい目でフィーリアを見つめ返す。
「魔力量を増やすというのは、こういうことだろう?」
ヴィセリオは悪戯な笑みを浮かべ、フィーリアの顎に指をかけた。そして、彼の端麗な顔が彼女に近づいてくる。
しばらくの間、フィーリアはぼーっと兄の宝石のような瞳を見ていたが、はっと我に返って兄の肩を押す。
「お、お兄様! 何をなさるおつもりですか!」
フィーリアのか弱い力では、ヴィセリオの体はピクリとも動かない。彼の吐息を間近で感じた時、空色の瞳が離れた。
フィーリアは顔を赤くして兄に抗議するために顔を上げると、ルーンオードが深い蒼い瞳を鋭くさせ、ヴィセリオの肩を掴んでいた。深い蒼い瞳が魔力を帯びている。
「……どういうつもりです、ヴィセリオ殿」
低い低い声でルーンオードはそう言う。その声の暗さに、フィーリアは肩を揺らして一歩後ろに下がった。
ヴィセリオは眉を下げ、肩に置かれたルーンオードの手を退けようとした。しかし、彼は手に力を込めて強くヴィセリオを睨み続ける。
「そんなに怒らなくてもいいじゃないか。本気で妹に口付けをするわけがない」
「貴方ならやりかねない。普段から、フィーリア嬢にこのようなまねをしていることは、ないですよね」
「有り得ない。私はフィーリアが本気で嫌がることは、絶対にしないからね」
ヴィセリオが飄々と答えると、ルーンオードの体から先日と同じような禍々しい力が溢れてきた。ヴィセリオは顔からからかいの気配を消して、真面目な顔を見せた。
「ルーンオード。力が漏れている」
「誰のせいだと思っているのです? 私は、貴方のその行動が――」
ルーンオードの周りの空気が音を立て、雰囲気が張り詰める。アレクシアが小さく悲鳴をあげ、フィーリアも体を強ばらせた。
そんな時、レティシアがルーンオードの前に立ち、彼に手のひらをかざした。彼女の手から光が出て、ルーンオードの禍々しい力を吸収する。
ルーンオードははっとしたように目を開き、数回瞬く。そしてバツの悪そうな顔で頭を下げた。
「申し訳ありません。……ご迷惑をおかけしました、レティシア様」
「珍しいわね。貴方が力を制御できなくなるなんて」
ルーンオードは少し眉を下げながら、再び頭を下げた。そして彼はレティシアからヴィセリオに目を移す。
「……ヴィセリオ殿。肩を強く掴んでしまい、すみませんでした。痛みはありませんか?」
「ないよ。私こそ君を煽りすぎたね、すまない」
ルーンオードとヴィセリオの会話を聞いて、フィーリアは落ち着き、やっと思考を働かせることができるようになった。
彼女はヴィセリオの隣に立って、ルーンオードに頭を下げる。彼が小さく息を飲んだ音が聞こえた。
「申し訳ありません、ルーンオード様。兄が貴方様を不快にさせてしまいました」
「……フィーリア嬢。頭を上げてください。貴女に非はありません」
フィーリアはルーンオードにそう言われ、ゆっくりと顔を上げる。深い蒼い双眸と目が合う。二人は数秒見つめあっていたが、フィーリアはそっと目を離して視線をアレクシアに向けた。
「アレクシア様、大丈夫ですか?」
「……え、ええ。わたくしは大丈夫です」
アレクシアは頷いて、ルーンオードに目を向ける。彼は彼女に謝罪と体調を気遣う声をかけ、小さく頭を下げた。
その時、アランが生徒達に集まるよう支持する声が聞こえた。
「わたくし達も行かないと」
アレクシアの言葉にフィーリアは頷いて、ヴィセリオを見上げた。
「お兄様。ルーンオード様にご迷惑をかけないでくださいね」
「今回の件に関しては、私よりも君の……いや、なんでもない。全て私が悪い。フィア、すまない」
ヴィセリオは眉を下げてフィーリアの頭を撫でた。
「測定の時には緊張しなくとも良いのだよ。魔道具に流れる自分の魔力だけに集中して、余計なことは考えないように」
ヴィセリオの言葉に頷いて、フィーリアはレティシアとアレクシアに視線を移した。
三人は並んでアランの元へ向かう。フィーリアの背中を見て、ルーンオードは一人ため息をはいた。
「……ルーンオード。君は、もう少し心を落ち着かせる必要があるね」
「貴方が余計なことをしなければ、私は自分の力を抑えられます」
素っ気ない返事に、ヴィセリオは笑ってルーンオードの肩を叩いた。彼は嫌そうな顔をして、ヴィセリオの手を払い除けた。




