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幸せな記憶
「私は貴女を愛しています。どうか、私と結婚してください」
吸い込まれそうな深い蒼の瞳がわたしを、わたしだけを見つめている。手が震え、目の前の世界が歪む。それでも彼の瞳からは目を離したくはなかった。
「……はい。わたしも貴方様をお慕いしております。どうか、よろしくお願いします」
彼に手を差し伸べると、彼はわたしに指輪をつける。その手が優しくて暖かくて、わたしの視界は涙でいっぱいになった。
そして彼は立ち上がり、わたしを抱きしめた。彼の背に手を回して抱擁を受け入れ、彼の胸に額を押し当てる。彼の心臓の音が、心地よかった。
「ずっと、大切にする」
彼の低い声がわたしの頭上から聞こえた。わたしは胸が幸せでいっぱいになり、彼を見上げる。彼は優しく、愛おし気に目を細めた。
彼の指がわたしの顎に添えられる。彼の美しい顔が近づいてきて、わたしは目を瞑った。
幸せで、幸せで、彼のことしか見えなくて、考えられなくて……彼に全てを委ねた。
——彼と初夜を迎えた三日後。わたしと彼は共に街に出かけ、魔獣に襲われて命を落とした。