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「ううむ……。国の最高権力者の命を治してもらったのになにもしないというのも問題がある。レイナ殿が男性であれば爵位を授けたいほどのことだ」

「伯父様がそう言っていますので、なにか欲しい物、叶えたいことを遠慮なく頼まれた方が喜ばれますよ。本当に遠慮なくです」

「そうですか……」


 二度も遠慮なくと言われたし、ここで躊躇するのは失礼なことなのかもしれない。

 だとすれば、これは困ったぞ。私が今願っていること。


・タコさんウインナーを食事のメニューに加えてほしいです。

・仮婚約を解消されないように頑張ります。

・グレス様たちになにか恩返しがしたいです。


 ダメだ。どれも自分で頑張らなければならないことと、ベルフレッド国王陛下に頼むようなものではない気がする。

 私自身の本音だとしても、命を救ったお礼にタコさんウインナー食べたいから作ってなどと言えば間違いなく問題発言だ。

 さて、どうしたものか。

 しばらく考えさせてもらった。


「魔法……」

「ん? 魔法がどうかしたのかね?」

「私、魔法をもっと使いたいので変装したいです!」


 こんなことを頼んでも良いのか悩んでしまい、うまく言葉にできなかった。

 要約すると、治癒魔法をもっともっと使いたいから、怪我をしていたり病気になっていたりする人たちをベルフレッド国王陛下の権力で集めてほしい、ということ。さらに、ベルフレッド国王陛下が使われていた変装する魔法をかけてほしいということだ。

 私だとわからないようにすれば、治癒魔法も使ったとしても大丈夫なのではないだろうか。


「ファルアーヌさんは魔法をとにかく使いたいのですね」

「は、はい。すみません。魔法を使えることが嬉しくて嬉しくて仕方がなくて……」


 また言い方を間違えてしまった。

 これでは苦しんでいる人たちをバカにしているようにも聞こえてしまうではないか。

 もちろんそのつもりはない。


 私は魔法を使いたいだけなのか?

 それだけならば、単に魔力を込めて庭にでも放てば、治癒魔法と同じような発動感覚はある。

 だとすればどうして人に向けて発動をしたがるのか。

 私自身が何度も怪我を受けてきたから、その苦しみや痛みは理解できる。

 苦しんでいる人たちが少しでも減ってくれたら嬉しい……のかもしれない。


「レイナ殿よ……。そなたが言っている意味、わかっておるのか?」

「は、はい……」


 ベルフレッド国王陛下がため息をつく。

 これはもしかしたらマズイことを言ってしまったのかもしれない。

 そう思ってすぐに謝ろうと思ったのだが。


「魔法は便利だが危険なものだ。使用頻度が多ければ疲労は増し、体内に流れる魔力が極端に減れば意識を失い、枯渇すれば死の危険性すらあるもの。自ら他人に対し使うことは簡単にできることではなく必ず対価が発生するのだ」


 ベルフレッド国王陛下は丁寧の説明してくれる。魔導書にも書いてあったしこのことは私も知っている。

 しかし、本来なら五歳で魔法訓練が始まるものを私は全くできなかった。

 それどころか、十六歳になっても昨日まで魔法を一切発動することを許されなかった。

 やりたくてもやれなかった。

 この溜まりに溜まったストレスからようやく解放されたのだ。

 どれだけ嬉しかったことか。

 しかも、貴族としての知識や常識もなく、どこに行ってもお荷物になるであろうと思っていた私が、自分の魔法で元気になってもらうことができたのだ。

 どれだけ嬉しかったことか。


 対価ならその人の笑顔を見れたし十分に頂いている。


「その人の元気になった顔を見れるだけで、それで十分ですよ」

「ここまで謙虚で欲もないとは……。良き婚約者を見つけたのだな」

「私も彼女がこのようなお方だと、初めて知りました」


 グレス様が私に向ける微笑みが、とても眩しい。それゆえに申し訳ない。私は欲があるけど言えなかっただけだ。

 タコさんウインナーが食べたくて仕方がない。


「レイナ殿の願いは、今の国内の状況では容易に叶えられるであろう。だが、すぐにはできぬ。いくつか問いたい」

「はいっ! なんでも答えます!」

「そう焦るでない。あくまでレイナ殿の身体を心配してのことだ。まず、一日に何度魔法を放てるか教えてもらうことはできるか?」

「わかりません! 昨日初めて魔法を発動しましたから! ……あ……」


 一生懸命無我夢中に答えてしまったため、周りのことを考える余裕がなかった。

 魔法は本来五歳で訓練をするものだし、私がずっとしていなかったと主張してしまったことになる。

 グレス様は流してくれたが、さすがにベルフレッド国王陛下には通用しないだろうな……。


「バッシュ=ファルアーヌ子爵とメラ=ファルアーヌ夫人には呼び出す、もしくは調査する必要があるかもしれぬな」


 まずい。ベルフレッド国王陛下がお父様たちになにか言ってしまえば、また婚約者を変えるだなどと報復をして私の居場所がなくなってしまうかもしれない。慌てて誤魔化そうと思ったのだが、意外にもベルフレッド国王陛下は笑みを浮かべるだけだった。ちょっと恐い笑みだったけれど。


「まぁそこはひとまず置いておこう。では魔法経験が少ないのであれば、己自身の魔力量を知った方が良いだろう。何度か魔法を放ち、己の限界を知ることから始めるのだ」

「はい! お心遣い、大変感謝します」

「ところで……だ。その魔法を今ここで見せてもらうことはできるかね?」

「はい?」

「これは私の好奇心だよ。見てみたいのだ、治癒魔法を使える者の伝説の光属性を。むろん、ここでは危険であるならば場所を変えるが」


 むしろ今すぐに魔法を放っても良いならばやらせてもらいたい。

 念のためにグレス様に確認したが、問題ないとのことで、ここで試すことになった。


「くれぐれも無理はなさらずに。万が一意識を失ってしまっても、責任を持って公爵邸に私が担いで連れて帰りますので」


 それってつまり、グレス様が抱っこかおんぶをして馬車まで運んでくださるということではないか。

 想像しただけであまりにも恥ずかしかったため、絶対に無茶はしないでおこう。


「えぇと、確かどの属性も一般的に一日五回以上魔法を放つことができれば優秀でしたっけ?」

「うむ。ジュライトは我が国で特に優秀な魔力を持っておってな。一日に百回以上魔法を放ったこともあるのだよ」

「いえ、それは一日耐久の過酷な訓練の時だからです。今ここで連続して魔法を使う訓練ともなれば、十回もできませんよ」


 昨日はグレス様よりも魔力があるかもしれないなどと言われてしまったっけ。

 鍛錬もしたことないし、きっとなにかの偶然だったのだと思う。

 よし、私はたくさんの人に治癒魔法を使っていきたいのだから、せめてここで連続三回は放てるように頑張ろう。


 気合いを込めて魔力を放った。

 最初の時と同じように、ピカッと閃光しただけでなにも起こらない。


 ベルフレッド国王陛下から拍手が贈られた。

 なんだか照れる。

 よし、このまま出来る限りピカピカ閃光させていこう。


『放て』

『放てー』

『放て~!』

『放てぇ~!』

『放てぇぇぇぇえええ~!』


 楽しすぎる。魔力を放つ際の一瞬の感覚がたまらない。

 何度ピカピカさせたか自分でも分からなくなってきた。

 最低でも百回は超えているような気がする。


 ふと二人を見ると、グレス様もベルフレッド国王陛下も、大変心配してくれているようだ。

 しかし、私は疲れる感覚がまるでなく、ただただ魔法を放ち続けることが楽しくて仕方がなかった。

 さらに何度かピカピカさせていると……。


「も、もう良い。そなたの規格外さは十分わかった……」

「ファルアーヌさんは大丈夫なのですか?」

「それが、なんともないです。楽しくてつい夢中になってしまいました」


 三人の沈黙が続いた。

 これだけ魔法を使っても平気だったのだから、治癒魔法をたくさん使える願いもベルフレッド国王陛下も納得してくれるだろう。


「レイナ殿よ。そなたの希望は責任を持って叶えることとする」

「ありがとうございます!」

「だが、本当にこのような頼みで良いのか? むしろこちらから頼みたいような願いだぞ?」

「それが私の望みですから」


 グレス様が遠慮なく頼めば良いと言ってくれたおかげで望みを言えたのだ。

 魔法を使える環境さえいただけるのならば願ったり叶ったりだ。


「わかった。ならば国としても、治癒魔法を使える場所も用意しよう。治癒施設とでも言ったところか。そして変装できる魔法を使える者も用意する。これでレイナ殿が光属性を使えることがバレることはあるまい」

「ありがとうございます!!」

「伯父様、手厚い支援ありがとうございます」

「なぁに、むしろ感謝するのはこちらの方だよ。もしかしたらレイナ殿の治癒魔法が国の問題を救ってくれるかもしれぬのだからな……。出来る限りの協力はさせてもらうよ」


 次から次へと私の願いが叶っていく……。

 こんなに嬉しいことが続いて良いのだろうか。


 よし、少しだけ治癒施設に向けて練習をしてみよう。

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