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私が一番気に入っていたワンピースが……。
せっかく返ってきたと思ったら、ありえないほどのシミが付いていた……。
アルミアから受け取ってから自室で水に浸けてみたり、綺麗にする液体を付けてみたり試したがダメだった。
それでも唯一返してもらった私の宝物だ。汚れてしまったワンピースも、カバンにしまった。
「よく考えたら、私の私物ってこれだけですか……」
公爵邸に嫁ぐというのに、カバンがたったのひとつだけ。しかもカバンの中に隙間が多いのはおかしいのではないだろうか。
お父様たちとしても、これはマズいんじゃないかと思うが……。
念のために確認しておこう。
荷造りを済ませ、最後の食事をしに部屋を移動した。
♢
テーブルの上には普段にも増して料理がたくさん並んでいた。
私の席にも料理が用意されている。ただしほんのちょっとだけ。
それでも滅多にないことで、最後とはいえとても嬉しく思う。しかも、私の大好きなタコさんウインナーまで用意されていた。
「話はアルミアから聞いている。今回ばかりはでかしたぞレイナ」
「これでファルアーヌ家も安泰ですわ!」
珍しくお父様とお母様が褒めてくれた。
まだ仮婚約でまとまったということを伝えていない。
「あとは理不尽に文句ばかり言うダメ公爵の話を、嫌でも聞け。とにかく先方の機嫌を損ねないようにすることだ」
「ダメ人間同士、息が合うかもしれませんわね」
「それもそうだな。それではこの家からレイナがいなくなることを祝し乾杯としよう」
「ご馳走ですわぁ〜。レイナお姉様がいなくなっちゃう記念? あれ?」
「アルミアよ、細かいことを気にするでないぞ」
前言撤回。
やはり邪魔者扱いは変わらなかった。用意してくれた料理には感謝するが、これも私に対する嫌がらせだということは理解した。
それでも久しぶりのご馳走だから、細かいことは気にせずに食べよう。
もはや嫌がらせだろうがなんだろうが、楽しみが先行しているため受け入れられた。
私は黙々とわずかな料理を口にしていく。
「レイナお姉様ー、そのタコさんウインナー欲しいですー!」
「あっ……」
言葉と同時にタコさんウインナーがアルミアの口の中へ吸い込まれていく。
とっておきを最後に食べようと取っといたのに。
「アルミアが欲しがっているのだぞ!」
「公爵邸へ行ったらいくらでも食べられるのでしょう? お姉ちゃんとして当然のことですわよね?」
どんな時でも私への圧が強い。
ここで嫌だと言えばお仕置きが待っている。せっかく治癒した身体だし、もう怪我はごめんだ。
仕方なくアルミアに全部渡した。
「やったー!」
最初に食べておくべきだった。
アルミアだけは私の送別会だと思ってくれているように見えた。ゆえにワガママは言わないかと思っていたが、考えが甘かったようだ。
とはいえ、たまに見せてくれるこういった可愛らしい一面を見せてくるワガママは満更嫌というわけではない。
こういったワガママだけだったら可愛い妹だと思えたのに……。
それにしても……だ。
「ふふふふふふふふ〜」
私の笑みに三人が凍りついているようだった。
今までだったら悔しくても我慢するしかできず、沈黙していたことだろう。
しかし、今は違う。
こんな些細なことなんてどうでも良いくらいに楽しい生活が待っているのだから。
「……どうやらレイナは公爵邸で頭を殴られたようだな」
「手間が省けたというものですわね」
「それもそうか。結納金が入るまではなんとしても生き延びるのだ。良いな?」
「はいっ!」
元気な返事をすると、さらに三人の雰囲気がいつもと違うように見えた。
♢
食事を終え、全員の使った食器類を片付けて洗うのも私の仕事。
ひととおり済ませ、玄関へ向かうと異変が起こっていた。
かばんひとつだけだったのが、十個のかばんに増えていた。
簡単に開かないように鍵までかけられている。
「荷物ひとつではおかしいだろう。レイナのために用意しておいたぞ」
「ま、ほとんどが着れなくなったオンボロの服や荷物と見せかけたフェイクのゴミばかりですけどね」
「決して荷物を覗かれるでないぞ。こんなものを持ってきたと知られれば困るからな」
「公爵邸に行ったら、人目にさらさないようにし捨てるのです。必ずですよ?」
「はい……」
とても暗い返事をしたものの、内心は晴々としている。
両親に逆らえば、たとえ私が公爵邸に住んでいたとしても必ず復讐しにやってくるだろう。
そういう両親だということは身を持って体験している。
調子に乗らないように気をつけるに尽きる。
「家の片付けもできたし、厄介者だったゴミも正式に嫁ぐ上に金も入る。我々にとってはこれ以上の喜びはあるまい」
「どんなことがあっても公爵どもの命令を聞きなさい。逆らえばあなたは死ぬと考えておいた方が良いですわよ」
「はい……」
荷物を自分で馬車に積み込む。
ここで問題が発生した。
両親が用意した荷物が多すぎて、私が乗るスペースがない。
「せっかく用意したのだ。乗れないならばレイナは歩いて向かえ」
「道は覚えたでしょう?」
「は、はい……」
まるでこうなることがわかっていたかのようで、二人とも満面の笑みを浮かべていた。
最後の最後まで両親からの脅迫と嫌がらせが続いた。
しかし、我慢して耐えて耐えて耐え抜いたファルアーヌ家での生活はようやく終わりを迎えたし、むしろワクワクしかなかった
歩いて公爵邸へ向かうのも、なにかきっと良いことが起こるに違いない。
最初に公爵邸へ向かった道中の記憶だけを頼りに、楽しみながら向かうことにした。