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痛々しそうな腫れはひいていき、元の正常な位置に戻った。
どうやら治癒魔法で間違いなさそうだ。
「おぉ……、痛みもなくなっています! 実はこの骨折、王宮の専属医師の話ではもう完治はできないと言われていた病気だったのですよ。それが治るだなんて……。ありがとうございます!」
「いえ、お礼を言うのは私の方です。魔法を使わせてくださりありがとうございます!」
魔法を使える、放てることがとてつもなく楽しい! 面白い!
しかも、これは危険があるような魔法ではないだろうから、魔力がある限りは使い放題だ。
長年の夢が叶って、グレス様には感謝しても足りないほどの感謝である。
「ふふふふふふ……」
「その笑顔、初めて見ましたよ」
「あ……すみません、つい……」
「良いのですよ。むしろファルアーヌさんが楽しそうにしているところを見ることができるなんて幸せだ……」
どこまでも甘い言葉をかけてくれるグレス様。
私はこれまで我慢ばかりしてきたが、このままでは本性が出てしまいそうだ。
「これでファルアーヌさんに三度も救われましたね」
「はい?」
最初にお会いした時に一度すら助けた記憶はない。
聞こうとする前にグレス様の口の方が早かった。
「ははっ、それにしてもファルアーヌさんは魔法を放てることが楽しいようですね」
「はいっ、とっても嬉しいですし楽しいです!」
すでに自分の欲に走っているような気がしてならない。
だが、魔法を使えたという満足感には逆らえず、つい浮かれてしまっていた。
「不思議です。とてつもない魔力量を消費したはず。それなのにこんなに平然とされるだなんて」
容赦無く私の全身を見てくるグレス様。嫌らしい視線とは全く違うものだということはわかる。しかし、水晶のように透き通った群青色の瞳で見つめられるのは恥ずかしい。
「伝説の光属性を持つ者の魔力が底知れずなのかあるいは別の理由があるのか……はて……」
「グレス様……さすがにちょっと……」
「あわわわわわわっ! 申し訳ありません!! 夢中になりすぎてしまい、距離感を意識していませんでした!」
世間では『物腰が低いが魔力は高く隙のない実力者』と男女問わず人気が高いグレス様。
しかし、今の焦った反応はとてもそうは思えず、むしろ可愛らしさがあった。
私は思わずふふっと笑ってしまった。やばい、グレス様の甘さに負けてどんどん本性のまま行動してしまっている気がする。
「申し訳ございません。ただ、あまりにも噂で聞くグレス様とは違っていまして……」
「それは、ファルアーヌさん相手だからですよ」
「ひょい!?」
淡い言葉に加え、群青色の瞳の視線が私の顔からずっと離れない。
仮婚約期間初日にも関わらず、押しが強い気がするのですが……。
もちろん、私にとってはとても嬉しくありがたいこと。恥ずかしさを堪えながら負けじとグレス様を見つめ……………………られるわけがなかった。
「ひとつ、お願いがあるのですが……」
「は、はいっ。できることであればなんでも聞きます!」
「新生活早々申し訳ありませんが、明日一緒に王宮へご同行をお願いしたく……」
「王宮っ!?」
あまりにも突然すぎて、驚きを隠せなかった。
王宮は国の最高機関であり、国王陛下が住んでいるところだ。
「どうか治癒魔法で、叔父様の病も治していただけないでしょうか」
「叔父……国王陛下ですよね? 治せる保証はできませんが、病なら今すぐにでも向かいますよ」
病気は一秒でも早く治した方が良い。
私もまだまだ元気だし、すぐにでも向かおうと思った。
「どのような事情であれ、国王と会うためには手続きが必要なのです。幸い王家の人間が同行であれば優先して面会ができますので、明日には可能でしょう。それはともかく、一日に何度も魔法を発動していてはファルアーヌさん自身も危険ですし」
「私のことを心配してくれて……?」
「当たり前です! 私の大切な婚約者なのですから!」
どこまでも優しく大事にしようとしてくれる姿勢に、身体も心もとろけてしまいそうになっていた。
このあと、少ない私物を取りにファルアーヌ家に一度帰らなければならない。
アルミアのワガママが理由で注意を受けていたことは両親に話した方が良いのだろうけれど、ここは私もワガママになることにした。
だって、これからの仮婚約生活が楽しみで仕方がないのだから。
こんな状態でファルアーヌ家に荷造りしに行ったらどうなることやら。