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 夜会への出席は時間をわざと遅らせて参加した。

 ジュライト様は公爵令息。王族が先に来てしまうと、あまりよろしくないらしい。


 すでに人が大勢集まっていて、それぞれがグラスを片手に談笑していた。

 その中に、ベラード=ベットムさんの姿も。

 私たちに気がついたのか、すぐにこちらへ向かってきた。


「ジュライト様にレイナ様、お元気そうで」

「ごきげんよう、ベットムさん」

「和食も並んでいるのですね。ベットムの評判は耳に入ってますよ」

「ははは、ありがたいことですね。おかげで、僕の店も趣味としてこの先も続けられそうです」


「マリア様とご結婚されてからも続けていただけるのですか?」

「ありがたいことに陛下からそのように言われているのですよ」


 ベットムさんが婿入りならば王族になる。

 そうしたらあの味を、あの落ち着いた店を楽しめることはもうなくなってしまうのではないだろうか。

 店は続けていくそうで、私はニヤリと笑みを浮かべてしまった。


「はははっ、レイナ様にそこまで気に入っていただけて光栄ですよ」


 しばらくベットムさんと楽しく話していたのだが、アルミアがやってきた。

 いたるところに宝石類が装着されていてとてつもなく高そうなドレス。

 ティアラやネックレスも今までファルアーヌ家では見たこともなかったような物だ。


「レイナお姉様ごきげんよう。そしてジュライトと……ベラードさまぁ、ご無沙汰しておりますわ」

「ははは……お久しぶりですねアルミアさん」


 ジュライト様しか返事をしなかった。

 私もベットムさんも、一瞬時間が止まったかのように固まっていた。


「ベラードさまぁ、どうして無言なのですか?」

「アルミア様……。ジュライト様に対し、大変失礼で無礼ですよ」

「そんなことありません。散々ひどいことを言われてきたのですから。レイナお姉様も実はそう思っているのでしょう?」

「いえ、まったく」

「え……?」


 今の私はもうファルアーヌ子爵の娘ではなくなっている。

 アルミアのことは今も妹だとは思っていたい。

 だが、ジュライト様のことを悪く言ったり侮辱したりするようなことをするのであればその限りではない。

 その気持ちが私の顔にも現れていたと思う。


「ジュライト様は優しく、私の気持ちも尊重してくれます。喜ぶことをたくさんしてくれます。物ではなく気持ちで伝えてくれます。私のことをとても大事にしてくれますよ。もちろん、私だけにではなく、公爵邸の人たち、知り合いの方々全員に対しても相手のことを優先して行動していますよ。どうしてひどいなどと思えるのですか?」


 つい思っていたことを全部喋ってしまった。

 もちろん、アルミアは表情が強張っていくばかりで……。


「わたくし、知っていますわよ。レイナお姉様がファルアーヌ家から波紋になったことを。でも、わたくしはレイナお姉様のことをお姉様だと思っていました。ですが、もうこれっきりにします」


 どうやらアルミアに本格的に嫌われたようだ。

 寂しい気持ちもあるが、仕方がない。


「僕も同じく……」

「ですわよね~。では、わたくしと婚約をもう一度」

「いえ、僕が言ったのはアルミア様と関わるのを最後にしたいなと」

「ほへ!?」


 アルミアが今まで見たことがないような表情を浮かべている。

 それはもう世界が終わったかのような……。


「わたくし、ベラード様と本気で考えていますのよ」

「このような場所で言うべきことではありませんが……。僕は平気で悪口や傷つけるような発言を、自覚無自覚問わずしてしまうような方とはお付き合いできません」

「わたくし、いつそのようなことを……?」

「無自覚ですから気がつかないことでしょう。それに、僕はすでに婚約者がおりますので……」


 ベットムさんがアルミアに対して頭を下げた。そして無言でこの場から去った。

 しばらくアルミアが無言のまま固まっていた。

 これもまた初めてのことかもしれない。


「全部レイナお姉様とジュライトのせいですわ……。わたくしのことが嫌いだからこういうことをするのですよね」

「いや、そうではなくてですね」

「良いですもの。わたくしにはもう一人、素晴らしい婚約者候補を見つけましたから。サンアディムという男性ですよ」


 私とジュライト様の顔が合う。

 サンアディムって、第一王子のことで間違いないと思う。

 彼は今日、王子でありながらもこの夜会を良くするためにずっと料理を用意したり案内をしたりしている。

 サンアディム様もマリア様と同じようにあまり顔は知られていないから、アルミアも気がつかなかったのだろう。


 さて、どうしよう。

 サンアディム様も婚約者いるし。迷惑がかからないように諦めてもらった方が良いかもしれない。


「彼、婚約者いますよ」

「なんでそんなことをレイナお姉様が知っているのですか?」

「知り合いですから」

「そんなこと、信じられませんわ」


 これはもうダメだ。

 せめて、アルミアがこれ以上恥をかかないようにさせなくては……。


「夜会ではこのあと社交ダンスがありますが……練習はされましたか?」

「わたくしの腕をご存知かと思いますが」

「だから聞いているのですよ」

「は? なんでレイナお姉様は心配そうな顔をするのです? それとも、わたくしの才能を羨ましがっているのです?」


 心配している気持ちは届かなかったようだ。

 がっくしと顔を落としているところにジュライト様の温かい手が背中に触れた。


「もう良いでしょう。どちらにしてもこの後婚約もダンスもわかることですから」

「はい……」

「ふふーん。みなさんをメロメロにしてみせますのでどうかご心配なく」


 そう言ってアルミアは上機嫌でどこかへ行ってしまった。

 私はもう諦めたよ……。

 せっかくの夜会だし、ジュライト様とともに楽しむことにする。

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