35 アルミア視点
これが最高位、王宮開催の夜会ですわぁ。気合の入れすぎで開催時刻よりも早く到着しました。
まだ人もまばらですね。
レイナお姉様が公爵夫人になるから、そのおこぼれでわたくしたちも参加が許されるようになったのです。そういう意味ではレイナお姉様には感謝ですわね。
ここまで高貴な方々の集まりですと、同年代ではすでに婚約決定している人しかいないかもしれません。ですが、わたくしは諦めませんわ。まだフリーな殿方もいらっしゃるかもしれません。
それにしてもお父様とお母様、どうして王宮開催の夜会に行けなくなってしまったのでしょうか。
大事な用事があると言っていましたが。
ひとりぼっちで寂しいです。
誰かわたくしに話しかけてくださりませんこと?
などと考えていたら、いかにも身分の低そうな男性がわたくしのところへやってきました。
「失礼。おひとりなのですか?」
「あぁ、ごきげんよう。挨拶するくらいなら、そこにある飲み物でも注いでもらえませんか?」
「え? いえ、私は……」
「良いからとってきてください」
「は……はい。承知しました」
せっかく話しかけてきたと思ったのに、ガッカリです。
どことなくジュライトと似ているような顔つきですが、服装がいかにも底流貴族のご令息といったものでした。
ひとりぼっちも寂しいですし、しばらくはこの男をダシにして立派な殿方から話しかけてもらうのを待つことにしましょうか。
持ってきた飲み物を見て、わたくしは鳥肌がたちました。
「どうしてオレンジジュースなのです!?」
「そこにある飲み物と言われましたので……」
「バカにしているのですか? 飲み物を取ってとは言いましたが、オレンジジュースを持ってくるなんてありえませんよ」
とはいえすでに喉はカラカラなので、渋々オレンジジュースを一気に飲み干しました。
「良いこと? わたくしのように高貴な令嬢にはエスプレッソをお願いしますわ」
あれからわたくしは特訓に特訓を重ね、苦すぎるエスプレッソをある程度飲めるようになりました。
これで大人の階段もだいぶ上がったはずです。
「エス……エスプレッソですか……?」
「そうですわ! わたくしに話しかけてきたのですから、早く用意してほしいものですね」
「確認しますので少々お待ちを」
なるほど、彼は貴族令息ではなく王宮で働いているお方なのですね。
うーん……。将来王宮で仕えるという選択肢も有りかもしれません。彼、顔だけは立派ですから。
「エスプレッソです」
わたくしは、ぐいっと一気に飲み干します。
王宮で用意されたエスプレッソは苦すぎました。
ですが、ここは我慢です!
まだ数杯なら耐えることもできますから。
とにかく殿方にできる女と思わせなければなりません。
連続はきついので話を逸らしましょうか。
「あなた、お名前は?」
「申し遅れましたが、サンアディムと申します」
「へぇ……」
どこかで聞いたことのあるお名前ですわね。名前しか名乗らなかったですし、貴族ではなく平民ですか。
「わたくしはファルアーヌ子爵の娘、アルミア=ファルアーヌですわ」
「ああ、あなたがアルミア様ですか」
「あら、わたくしのお名前を知っているのですね」
「はい。それはもう……」
王宮で仕えている平民でもわたくしの名前が轟いていたことに驚きました。
ま、まぁ当たり前ですわよね。
ただ久しぶりにわたくしが偉い存在だと再認識できたので嬉しかったです。
「サンアディムさんでしたっけ。せっかくの機会ですし、わたくしのそばにしばらくいると良いですわよ」
「そういうわけにも……」
「遠慮はいりませんわ」
サンアディムが一瞬苦笑いをしたような……。
「そうだ。わたくしお腹も空いていますの。なにか取ってきてくださりません?」
「まだ開催まで時間はありますからね……。かしこまりました」
そう言ってサンアディムさんは料理があるテーブルへと向かい、皿に乗せていきます。
「今王宮内で流行っている和食です。どうぞ」
「わしょく? 初めて食べますわね。うん、とってもおいしいですわ! 誰がひらめいたのか気になりますわね」
「ベットム男爵の三男、ベラード=ベットムさん考案ですよ」
「えっ!?」
「本人曰く、遠い異国で教わったのだと」
わたくしをコケにしたあの男が……?
あんなしょぼい店を運営している方が……?
まさかとは思い、サンアディムに尋ねました。
「あ、あの……、ベラード=ベットム……さんってすごいお方なのですか?」
「もちろんですよ。国王も称賛しています」
「は!?」
なんということでしょうか。
ここは嘘でも良いので誤っておいて、もう一度婚約を考え直してもらったほうが後々のためかもしれません……。
結婚相手の第一候補をベラードに変更し、保険としてサンアディムと考えておくことにしました。
「ちょっとお花摘みに行くので、席離れますね」
胃が痛くなってきたので、お花摘みに駆け込みました。
なんであんな男が国王に気に入られるのか……。
全くわかりませんわ。




