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15 ファルアーヌ子爵家

 レイナがいなくなったファルアーヌ家。

 これで平穏な日々が続くかと思っていたのは、バッシュ=ファルアーヌ子爵とメラ=ファルアーヌ子爵夫人。

 それはアルミアがベットム男爵令息と顔合わせをし、帰ってくるまでの話だった。


 帰ってきたアルミアの異変に気がついたのは、バッシュ子爵。


「ア……アルミアよ。いったいそれはどうしたのだ?」

「ふっふ~、可愛いでしょう?」

「そうか。縁談はうまく進んだのだな」

「いーえ。あんな男、まっぴらごめんですわ!」


 アルミアの両手には子爵の一年分の給金でやっと買えるかどうかの指輪。首元にもキラキラと輝くネックレスを身につけている。

 バッシュ子爵はアルミアのことを溺愛しているため、まさか勝手にツケ払いで買い物をしているなどと夢にも思っていなかった。


(なるほど……。縁談相手からたかるだけたかり、捨てたか。さすが我が娘。いつの間にこのような知恵を身につけたのかはわからぬが、しっかりと私の血を引き継いでおる)

(やっぱりですわ。お父様は喜んでいますね。相当な結納金が入っているから、わたくしのオシャレに見惚れているのですわね)


「あのう、お父様~。わたくし、今までずっと我慢してきましたわ。欲しいものもたくさんありますの」

「なるほど。さすがは我が娘。目的は貴金属ではなくその先にある金というのだな。無論、好きにするが良い」

「ありがとうございます~!」


(ふむ。指輪を売り自ら好きなものを買う……か。この調子ならば他にも適当な男に縁談話を持ちかけ、アルミアを利用して金を集めるのも手かもしれぬ。あまりに急いでこの家を離れられても寂しいしな)

(お父様ったらなんて太っ腹なのでしょう。そうしましたら、わたくし専属の付き人を雇って、レイナお姉様の代わりにたっぷりと身の回りのお世話をしてもらいましょう。わたくしが楽をするためにも)


「ところで、縁談相手を捨てたのは構わぬが、理由を説明してもらえるか?」

「わたくしには似合わない男でしたわ。まぁ容姿は良かったのですけれどね。用意してもらった物は魅力でしたので、貰えるものだけ貰って(食べるものだけ食べて)お断りして帰ってきました」

「ふむ。得られる物は多かったか。引き続き、縁談の話は用意しようと思うのだが良いか?」

「はい。わたくしにピッタリの男でお願いしますわね」


 アルミアとバッシュ子爵の会話は、お互いが都合の良いよう捉えていた。

 さらに、偶然のタイミングだった。アルミアにとっては、父親のバッシュ子爵がすでに多額の結納金を受け取っているのだと思わせてしまう出来事が起こるのだった。



 ♢♢♢



 数日後、バッシュ子爵の元に来客である。


「その馬車に刻まれた紋章は王宮の……! いったいなんの御用ですかな?」


 バッシュ子爵にとってはどぎまぎさせるものだ。

 レイナが余計なことを口走り、多少の制裁を加えられてもおかしくはないと、多少の覚悟はしていたのだから。


「ベルフレッド=グレス国王陛下より直々の指示です。本日よりしばらくの間バッシュ=ファルアーヌ子爵の下に専用の使用人及び執事を配属させるとのことです」

「ほう……。なぜ急に……」


 国王自ら使用人を配属させることは稀だ。

 だが、レイナを王族に嫁がせたとなれば不思議なことではないと、バッシュ子爵は理解する。


「なるほど……レイナの件か。当然そなたらの給金は国から支給されるのであろうな?」

「はい。詳しくは陛下からの書状をご確認ください」

「ふむ……」


 書状の中身を確認し、バッシュ子爵にとって好都合の内容ばかりが記載されていた。

 中でも、アルミア専属教育係と身の回りのお世話係が魅力的だった。


「では、よろしく頼む」

「どうぞよろしくお願いいたします」


 馬車の中からぞろぞろとピシッとした黒服を着た四十代前後の男性がぞろぞろと出てくる。

 全員国王が命じた者たちであるため、その身嗜みは貴族と勘違いされてもおかしくないしっかりとしたものだ。


(素晴らしい……素晴らしいぞ。これぞファルアーヌ家の理想像。さらに結納金が入ってくれば子爵の中では国一番の富豪となるであろう)


 アルミアにとって地獄の日々が始まろうとしていた。

 もちろんただの使用人ではないことを、バッシュ子爵は知るすべもない。

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