13 アルミア視点
お店の中へと入りました。
外は庶民臭かったですが、内装もやはり庶民って感じですわね……。
こんなに貧乏臭くて汚い店で、よく営業できますねと思います。
「どうしてこのような雰囲気の店にしたのです?」
「騒がしくなく、ゆったりとした雰囲気のお店でゆっくりと食べてもらいたいと思ったからですよ」
「それでは儲からないのでは……?」
「ははは……」
濁してきますねぇ。
これでマズい料理が出てきたら、とっとと退散しましょう。
そう思っていたのですが……。
「うんまー」
「恐れ入ります」
肉の焼き加減、スープの味付け、どれをとっても抜群においしいですわ。
胃袋で心を奪われてしまいました。
毎日このようなおいしい食事が食べられるのならば、ベットムさんとの婚約もありですわね。
いつもどおりに食べていたのですが……。
「アルミア様はフォークとナイフの使い方が独特ですね」
わたくしは右利きです。
ですから右手でフォークを、左手でナイフを握っているのです。
「それがなにか?」
「いえ、失礼しました……」
ステーキを左手に持っているナイフでグサリ。
右手のフォークで強引に引っ張ります。
これで勝手に千切れてくれるのです。
ベットムさんが目を大きく開けていますわね……。
「アルミア様には驚かされてばかりです」
「ありがとうございます~!」
わたくしに驚いていたのですね。
ならば、もっと驚かせてみせましょうか。
「儲けるためには、もっともっとテーブル増やしましょうよ。まだまだ人は入れそうですし」
「は、はい?」
「内装も殺風景ですわ。そうだ。わたくしの大好きな花柄の絵をデザイナーさんに描いていただきましょう。お金はありますから」
「か、考えておきます……」
わたくしが求めている理想を聞いてくださっています。
効率が良い食べ方を尊重してくれますし、これならばわたくし個人のお願いも聞いてくれることでしょう。
「お飲み物でコーヒーか紅茶をご用意しますよ。それ以外でも用意できるものであれば」
「紅茶で」
「少々お待ちくださいね」
私の前には紅茶が。そして、ベットムさんの前には見慣れない飲み物が。しかも量が少ない。
「それはなんですの?」
「エスプレッソと言い、コーヒーの一種です」
「うわぁ……」
お父様も好んで飲んでいますが、さらにその香りは凄まじいものです。
なにが良いのやら。
しかも、ベットムさんは一気に飲み干しました。
「そんなにおいしいのですか?」
「もしもご興味があれば用意しますが無理はなさらず」
「んー、飲んでみようかしら」
量も少ないですし、まずくてもなんとかなるでしょう。
興味本位で飲んでみましたが……。
「ぐうぇっぷ……!」
あまりにも強烈な味で、盛大に吹き出してしまいましたわ。
ベットムさんの顔と服にふっかけてしまいました。
ま、まぁ大丈夫ですね。わたくしのことを愛しているのですからこれくらいのこと……。
ベットムさんはハンカチを手にして、無言のまま顔と服を拭いてます。
ちょっと汚れてしまいましたが、まぁ気にしませんよねこれくらいなら。
雰囲気も悪くなってしまいましたし、場の雰囲気を明るくしなければですわね。
「このお店、タコさんウインナーはないんですか?」
「はい?」
「わたくし、タコさんウインナーが大好きなんですよ。レイナお姉様にいつも分けてもらっているくらいですから」
どうしたことでしょうか。
徐々にベットムさんの表情が困っていくような雰囲気です。
「チョリソーのソテーはありますが、タコさんは……」
「わたくし、どうしてもタコさんウインナーが食べたいんです! 今日は諦めますが、次回からはしっかりと用意してくださいね」
「……少々考えます」
「期待していますわ」
これで好みのメニュー問題もクリアしました。
しかし、ベットムさんの表情がさらに険しくなっていきます。
再び無言が続いていたので、その間に用意されていた食事を堪能しました。
「考えさせていただいたことをお話したいと思います」
「あ、ええ、どうぞ」
タコさんウインナーのことをずっと考えてくれていたのですね。
ますますベットムさんのことを好きになってしまいましたわ。
彼と一緒に生活できたらと思うとドキドキします。
「申し訳ございませんが、縁談の話はなかったことにさせていただきます」
「はい!?」
「アルミア様の今後のことも考え、はっきりと申し上げます。僕の店を侮辱されたときから縁談の話はどうするべきか考えていました。僕だけでなく、家族やお客さんが愛してくれている店を侮辱されるのは許しがたい地雷。しかし、アルミア様が経営でご心配されているのだと思い、一歩踏みとどまりました」
「どういうことですの? わたくしはただ、こんなんじゃ儲けられません、大変でしょうと言ったまでです」
「はい。ですから、アルミア様とは価値観が合わないかと。申し訳ありませんが、縁談の件はお断りさせていただきます」
「は? そもそも縁談はそちらからと聞いていましたが」
「とんでもない。ファルアーヌ子爵から話をいただきましたよ?」
いったいどういうことなのでしょうか。
それはそうと、ベットムさん……いえ、ベットムに対して怒りが爆発です。
彼もジュライトと一緒。なんて身勝手な男……。
顔が良いからといっても、性格は最悪です。
「もう良い、結構です! こんな庶民の店で働いているような人じゃ、わたくしには相応しくありませんから!」
「それは助かります。僕もあなたのようなお方と一緒に生活しなくて済んだのですから」
「きーーーーーーーーっ!!!! もう帰りますわ!!」
久しぶりに怒鳴ってしまいました。
せっかく、見た目が良い男だから結婚しても良いかと思っていましたのに。
性格の悪い男ですからね。
きっと縁談話も見栄をはってお父様たちが申し込んだと嘘をついているに違いありません。
お父様も無理に縁談をまとめなくて良いと言ってくれていましたし。
わたくしにお似合いのカッコ良くて要望も聞いてくれる王子様はきっと現れるでしょう。
馬車に揺られながら次の相手のことを妄想していました。
「ふっふふふふふふふ~」
次の縁談候補はカッコ良くて意見の合うまともな人でありますように。
そうですわ!
気晴らしに新しいお洋服やアクセサリーを買ってしまいましょう。
大丈夫。結納金が入っていますし、お金持ちになっていますからね。