12 アルミア視点
いよいよ縁談相手とご対面ですわ。
あぁ、社交ダンスでわたくしの可憐な踊りに対応してくださったイケメンとお会いできるだなんて楽しみすぎて。
彼がこの日のために予約したというお店に向かいました。
貸切で予約したと言っていましたがちょっとお店が古臭いですね。
馬車を降りると、お店の前で、男性が立っています。
あの人が縁談相手ではありませんが、本命はどこでしょうか。
わたくしは気になってしまい、立っている男を眺めていたら、彼はモジモジとしたような態度で頭を下げてきたのです。
「アルミア=ファルアーヌ様ですね、お初にお目にかかります。ベットム男爵三男、ベラード=ベットムと申します」
「ど、どちら様ですの?」
「あなた様の婚約者予定の者ですが……」
「はへ!?」
違いますわ!
わたくしが思っていた相手とぜんっぜん違います!!
見た目は……まぁまぁですわね。成長したら結構良い男かもしれません。
わたくしよりも年下にしてはスラットした長身で、顔立ちも良いし目がクリっとしていていますわね。
むしろ社交ダンスをした人よりも好みかもしれません。
まぁ良いですわ。この男でも。お金持ちであれば良いのですが、しっかりと探っていくとしましょう。
お父様たちからは、よほどの好印象でなければ適当に流しておくように言われていました。しかし、外見はよほどのことだったので、ベットムさんを落としましょうか!
「あのう、このお店に入るのですか?」
「はい。こちらでぜひ」
まずはお店を変えた方が良いかもしれませんね。
こんな庶民が通いそうな低級の店ではベットムさんだって不満足でしょう。
大丈夫です! 見た目はしっかりしていますし、彼はそれなりにお金を持っていそうですから。
「せっかくですけれど、こんな貧乏臭そうなお店ではなく、もっと豪華なところに変えまえん?」
「え!?」
「せっかくの縁談話でしょう? もっと貴族としてふさわしい店にしませんか? お金はこちらで出しますから、安心してください」
レイナお姉様の縁談で、結納金がそろそろ入っているはずです。
確認はしていませんが、きっと大丈夫。
お父様たちもわたくしのことは大好きですから、多少のお金は使ってしまっても問題ありませんわ。
ベットムさんは苦笑いをしながら頬をかいています。
はいはい、それで良いのですわ。
もっともっとわたくしを頼ってくださいませ。
結婚してからたっぷりとお金を使ってくださればそれで良いのですから。
「やはり貧乏臭く見えてしまいますよね。申し訳ございません」
「いえいえ。ご理解あって助かりますわ。そういうことで、さっそく別の場所へ行きましょ。馬車に乗ってくださいませ」
予約したと言っても、食べてないのですから、お金なんて払う必要はないでしょう。
さっさとこんな店から離れちゃいましょう。
「……実はここ、僕の店なんです」
「はい!? え? 貴族の息子がお店って……?」
もしかして、メチャクチャ貧乏で、家族揃って働かないと生きていけないとか……。
そんな男ではまっぴらごめんですわ。
「長男が跡取りを継ぎ、次男と三男の僕は爵位を継げませんし、自由に生きろという方針がありまして。そこで、家族が喜んでもらえるよう趣味で料理を始めたら評判で、その流れで十歳の頃からこうしてお店を始めたのです」
うーん……。
もしかしたらとんでもなくおいしいご馳走が出てくるかもしれませんわね。
おなかも空いていますし、ここは食事だけでもいただいて、それから断りましょうか。
「でしたら、ここでも構いませんよ」
「は……はぁ、ありがとうございます。では中へどうぞ」
目的は食事に変更ですわ。
もしもベットムさんがお金持ちでわたくしのことを溺愛してくれるならば考えてあげますけれども。