11 アルミア視点
「アルミアよ……。レイナがいなくなってからというもの、学業がおろそかになっておらぬか?」
「そんなことありませんわ。ただ……、レイナお姉様がいなくなってしまって寂しくて調子が悪いんですの」
レイナお姉様がいなくなってしまいました。
私のことを酷くいじめてきたジュライトは、レイナお姉様が引き受けてくれましたから当然のこと。
ですが……ですが!
婚約だけしてくれれば良かったと思っていましたのに、まさか住み込みでいなくなってしまうなんて予想外でしたわ。
今まで頼れた相手がいなくなってしまいました。
「気を引き締めてくれたまえ。そうでなければ新たな婚約候補に示しがつかぬからな」
「え!? わたくしに婚約者?」
「アルミアは大事な娘だから当然のことだろう。幸せになってもらえそうな場所へ嫁ぎ、なおかつ結納金をしっかり受け取る。これが親の任務だよ」
お父様はゆっくりとコーヒーを口にする。こんな苦い飲み物のどこが良いのでしょうか。
さて、お父様もお母様も、レイナお姉様のことを嫌っているように見えていました。でも、ダメ公爵邸とはいえしっかりと嫁がせた……。幸せになれるとはとても思えませんが、結納金はとんでもないと言っていました。もういただいているのでしょうね。
そっか……レイナお姉様のことを嫌っているわけではなかったのですか。
なら、わたくしの縁談相手はもっとすごく良い人を選んでいるのでしょう。
「王子ですか?」
「違う」
「では、隣国の王子でしょう?」
「いや、違う」
「え……? 隣国の王族の方ですか?」
「残念だが違う。王族ではない」
「えっ!?」
それではレイナお姉様の婚約相手よりも立場が低いではありませんか!
「アルミアが公爵のヤツに嫁ぐと言う直前に、実はな……縁談の話があったのだよ」
「あら」
わたくしってばそんなにモテていたのですね。
そんなに好かれていたなら、どのようなお方なのかしっかりと見てみたいですわ。
「わたくしのどこを魅力で縁談の話があったのです?」
「やはりアルミアの学力だろう」
「え……?」
「十二歳で貴族平民問わず全員が受ける筆記試験。優秀な成績を残していたではないか」
あぁ、思い出しましたわ。
問題が分からなさすぎて、レイナお姉様にこっそりと代行してもらったやつですわ。
試験じゃなくて模擬問題だからと誤魔化して全部書いてもらいましたっけ。
「あ、あぁ……。あれですか……」
「あの時もレイナはアルミアにケチをつけていたな。本当にアルミアはかわいそうに……」
「ほ、ほんとそれですわっ! わたくしの実力をしっかりと見てくれたその縁談相手さん、会いましょう」
わたくしは勢い任せにそう言ってしまいました。
まぁ今までめんどくさくて勉強をサボっていただけですからね。
ちょっと頑張ってしまえばレイナお姉様くらいの学力くらいすぐですわ。
せっかくわたくしのことを好いてくださったお方がいるんですもの。
さぁて勉強を始めますわよー。
♢
「ぜんっぜんわかりませんわ!!」
なんですのこれ。
水属性と風属性と火属性と無属性の四種類?
無属性ってなんなんですの!?
しかも、無属性は適性者が少ないって書かれていますわ。
ならば覚えなくても問題なさそうですわね。
もう頭が痛くなるのでやめましょう。
きっと大丈夫。
縁談相手だって、本に書かれていること全て知っているわけではないでしょうし。
本を閉じたタイミングでお母様が部屋に入ってきた。
「あらあらアルちゃんったらご苦労様。偉いわね」
「どうしましたの?」
「縁談の話、ごめんなさいね。ろくでもなさそうな男からの話ですし」
「う~ん……」
わたくしにとって、相手がお金持ちか地位が高ければ問題ありません。
前回のジュライトは地位が公爵と高かったですが、性格が最悪でした。
嫌な経験をした直後ですから慎重になっています。
「お母様はお相手がどのような方か知っているのですか?」
「えぇ。お相手は男爵の三男だとか」
「えっ! 貴族の底辺ではありませんか!」
「そうなのよ~。しかもアルちゃんよりもひとつ年下ですわよ?」
お相手が誰だかわかりましたので安心しましたわ。
お金持ちの男爵令息で間違いありませんね。
以前の夜会で社交ダンスをした相手ですわ。
名前は忘れてしまいましたが、彼なら顔も良かったですし、そこそこのお金持ちのご家庭です。
学力が目的ではなさそうですね。もう勉強もしなくて良いでしょう。
聞いておいて良かったですわ。
お母様にも納得いくように説明しなきゃですわね。
「……人は会って話してみないと分からないこともあると思うんです」
「さっすがアルちゃん!」
えーと、少し嘘をつきました。
相手のことを知っているから言えただけです。
そうと決まったら早く会いたいですわ。




