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WEB連載概ね2年ぶりです!!

よろしくお願いいたします!!

「レイナお姉様……今の婚約者は無理なんです。ですから代わってください!」

「え? アルミアが望んで私の婚約を変えたのに、なぜです?」

「会うたびにうるっさくてたまらないんです! 毎回毎回お説教ばっかり。……ほんっとうに嫌なんです!」


 なんだ、いつものワガママか。

 私レイナ=ファルアーヌは、妹のワガママには毎回手をやいている。


 アルミアがどうしてもとワガママをゴネ続け、両親が私の婚約者を無理やり変更したのだ。

 そのお相手はジュライト=グレス公爵令息。

 グレス様と一度しかお会いしたことはなかったが、人情があり優しく、物腰が低い。

 そのようなグレス様だからこそ、なぜ婚約変更を受け入れたのかが気になっている。

 もしかしたら、私が失礼なことをしていて愛想をつかせてしまったのかもしれないし。


「例えばどのようなことでお説教されたのですか?」

「えぇと……使用人さんが身につけていた綺麗なネックレスが欲しいって言ったら、婚約者に貰ったものだからダメと言われました。グレスさんに、その使用人さんをクビにして欲しいと文句を言ったら、怒られました」


 食事のメニューが気に入らないだとか、社交ダンスのレッスンがめんどくさいだとか、公爵夫人教育がうんざりだとか。

 アルミアのワガママが原因で、グレス様やグレス公爵たちがお説教をしたのだろう。改善しようと注意したのだから、むしろ良い人たちだと思う。


 いっぽう私は……アルミアのワガママには何度も注意してきたことがあったが、今はなにも言えない立場だ。

 アルミアのことを溺愛している両親から、厳しすぎる、もっと優しく、お姉ちゃんなのだから我慢しなさいなどと言われ続けてきた。

 アルミアへ注意したことが原因で、両親の炎魔法で私の背中に火傷を負わされ、さらに氷結魔法で凍らされるなどといったことも。

 このままだと命の危険もと感じてしまった。

 それでも今回ばかりは言わなければ……。グレス様たちに迷惑をかけてしまうのはダメだ。


「……人の物を奪ったらダメですよ?」

「なっ!? レイナお姉様ってば酷すぎですわ! こんなにもわたくしの心はボロボロなのに、その上お説教ですか……!」


 あ……これは危険なパターンだ。

 アルミアが泣き崩れ、物にあたり始めた。

 ここは私の部屋なんだけど……。


 アルミアが、私の大事にしている装飾品にガンッと腕でなぎ払う。

 その衝撃で装飾品が落ちてガシャンと割れてしまった。

 割れたガラスがアルミアにもあたってしまったかもしれない。


「怪我はしていませんか!?」

「い……痛い! 血が出てきましたわ……」


 えぐい音が鳴っていたからな……、よほど力を入れてしまったのだろう。その衝撃で手は紫色に変色し、足首はガラスが刺さった影響からか出血していた。

 すぐに手当てをしなければと思い助けようとしたのだが、それをアルミアは拒んだ。


「全部……全部レイナお姉様のせいです! こんなに弱ったわたくしをいじめてくるのですから!」


 今回ばかりは引き下がることはできない。

 私一人にならば構わないけれど、迷惑をかける相手が別にいる。


「……今度ばかりはお相手側の判断も必要になってきますから。私個人ではどうすることもできませんよ」

「だったらお父様にお願いしてきます!」


 そう言ってアルミアは痛そうな手をかばいながら、退室した。

 無残に飛び散ったガラスを集め、私は一人ため息をつく。


「またお説教ですね……。もうファルアーヌ家から逃げたい……」


 お父様とお母様はアルミアのことを溺愛しているため、彼女の言うことはなんでも聞いてしまう。

 いっぽう私は、とある事件がきっかけで、娘扱いされなくなった。


 家から逃げたいと思っても、貴族教育をほとんど受けさせてもらえなかったため、ほとんどが独学。

 十六歳になっていながら夜会などの経験もなければ、人との交流すら滅多にさせてもらえない。


 家にこもりっきりでやっていることと言えば、家の掃除や洗濯など。余った時間で魔導書を読んで勉強している。

 いつか私が逃げ出した時に魔法を使えるようにするためだ。


 ついにその時がやってきたのかもしれないと思っていた。


 だが今回の婚約変更騒動が、私の人生を大きく変える出来事だったのだ。



 ♢♢♢



「アルミアに怪我をさせるとは、この……バカ娘がぁああああっ!!」

「も、申し訳――」


 謝罪する猶予もなく、私の背中が炎で燃え上がる。

 すでにボロボロの服が破け、背中が丸出しの状態になってしまう。

 痛いし熱いし、魔法を使ったことがない私は魔法耐性ももっていないため限界だった。


「あらあら、このままではまた火事になってしまいますわね。急いで消火活動をしないと……」


 嘲笑っているお母様は楽しそうにしながら、私の背中に向けて氷結魔法を放ってきた。

 火は消えたものの、やはり痛いし熱い感覚は変わらない。もはや熱いのか冷たいのかもわからないほど感覚がおかしくなっている。


「何度アルちゃんを苦しめたら気が済むのですか!? あの子はとっても可愛そうな子なのですよ」

「もちろん存じております……。魔力がとても弱く、このままでは苦労してしまうことも」

「そうよ。それに比べてレイナは大事な家の財産を魔法で燃やして……、あぁ今思い出すだけでも腹立たしい! アンタは二度と魔法を使わないでちょうだい」

「もちろん心得ております。一度も魔法を使ったことはございません」

「誤魔化すでない!!」


 お父様の怒声が部屋中に轟く。

 私は人生で一度も魔法を使ったことがないし、魔法で家を燃やしたこともない。


 魔法は便利な反面、とても危険だ。四歳までは必ず両親が常に付き添い、無自覚な魔法の発動を止める義務がある。

 そして五歳になったら事故を起こさないための魔法訓練が始まる。


 しかし私が四歳の時、両親がどこかへ出かけている間に三歳のアルミアが無自覚で魔法を放ってしまった。

 ファルアーヌ家の財産を管理している倉庫が半焼してしまったのだ。


 最初に気がついたのは私で、アルミアを火から守るため一緒に避難した。あの時一緒に助けてくれた人もいたのだが、パニックになっていてよく覚えていない。

 のちに私が魔法で家を燃やした犯人と決めつけられてしまい、それ以降私への仕打ちが酷いものへと変わったのである。


 ゆえに魔法発動の一切を禁止され、一度も使ったことがないのだ。


 一方アルミアは魔法訓練はしているのだが、魔力が極端に弱く、とても家を燃やせるような力があるとは思えない。

 あのときは、どうして燃やせるほどの魔力があったのかと、今でも思うことがある。

 それも相まって、私が人のせいにするという疑いもかけられ、仕打ちが激しい。


「レイナというゴミを処理をしたいところだが、アルミアが悲しんでしまうからな。今日のところはこれで勘弁しておいてやろう。だが、アルミアが嫁いだ後は……覚悟しておけ」

「じゃ、アルちゃんを呼んできますわね」

「アルミアは優しい子だ。疫病神のようなレイナを姉だと思っておる……。そのせいであの子の前では痛めつけることができぬではないか。感謝するのだな」


 アルミアからは私のことを姉と思われているのか、はたまた道具と思われているのかは紙一重。


 勉学に関してもほとんど私に押し付けてくるし、筆記講習も私が全部記入している。

 最低限支給される服や小物も、だいたい奪っていく。


 唯一アルミアから教わっていることは社交ダンスで、これに関してはとても感謝している。

 物にあたることはあっても私に直接暴行を加えるようなことはしてこなかった。

 私もアルミアのことは可愛い妹だと思っているし、家からも逃げ出さずにいた。


 甘々な教育でワガママになってしまったアルミアが更生して、良い妹になって欲しいなと今でも思っている。



 ♢♢♢



 アルミアが部屋に入ってくると早速、婚約者を変えてほしいことをお父様たちに訴えていた。

 その理由も先ほどの発言よりも過大評価した内容だ。お父様もお母様もふむふむと耳を傾け、疑う余地など全くない。


「……なるほど。これは重大な問題だ。だが、簡単に婚約を取り消すわけにもいかぬ。公爵邸からは莫大な結納金が入る予定なのだからな」

「そんなぁ……。では、わたくしはあんな家に嫁がなければならないのです?」


 お父様が私に厳しい視線を向けてきた。


「レイナがどう騒ごうが、婚約者をお前に戻すことにするぞ」

「私は構いませんが、公爵様たちに相談しないのですか?」

「不要だ。元々はレイナに対しての縁談だったのだからな。向こうとしても問題あるまい」


 なぜか絶対に大丈夫だと言った表情を浮かべるお父様。

 お父様がアルミアのことを慰めながら、私に対しては冷酷な視線を向けてくる。

 それはお母様も同じで……。


「なんて可愛そうなアルちゃん……。まさか、あの公爵令息が冷酷で残忍なお方だっただなんて思いもしませんでしたわ。まぁレイナとならお似合いということですわね」

「私がお会いした時はそのような態度はありませんでしたが……」

「なにもわかっていないのね。ダメな男って最初は本性を隠すものなの。慣れてきたから本性が剥き出しになってアルちゃんが酷い目にあってしまったのですよ」


 世の中にはそういう男もいるのかもしれない。

 だが、お父様もお母様も極端にアルミアの意見ばかりを聞くため、周りが見えていないと思う。


「う、うっ……。レイナお姉様まで私のことをいじめるんですよ〜」


 両親も私のことを睨みつけてきたままアルミアを完全に庇っている状態だ。


「婚約者を代わってほしいとお願いされました。しかし、私一人の判断でできることではありません」

「代わってあげれば良いことだろう?」

「そうですわよ。それに何度も言いますが、元々レイナへの縁談でしたわね。相手側も文句など言いませんよ」


 どうして子爵であるファルアーヌ家の私に対して公爵から縁談の話がきたのか。さらにお父様たちは婚約変更が絶対に可能だと主張しているのかわからない。

 多額の結納金をもらえることと、私がファルアーヌ家からいなくなるということで両親は大変喜ばれていた。


 しかし、アルミアはグレス様に一目惚れしたようで、婚約者を譲れとせがまれた。

 お父様とお母様はアルミアのことを溺愛しているため、お願いやおねだりはなんでも聞く。

 どうやって交渉したのかはわからないが、縁談相手がアルミアになってしまったのだ。


 二度も婚約者を変更するなんて勝手な発言が、グレス公爵やグレス様に通用するとは思えない。

 ここで反論しても結果は変わらないだろうし、私は安易に首を縦に動かした。


「……わかりました。ただし、お相手の返答次第ということでよろしいでしょうか?」

「仮に、公爵どもがノーと答えた場合は、レイナが説得するのだ。良いな?」

「はい?」

「何度も言わせるでない。生涯安泰で暮らせるほどの結納金が手に入る。なんとしてでも手に入れる必要があるのだよ」


 アルミアへと婚約が代わった時は、結納金の話は特にしていなかった。

 あの時は『大事な子が公爵の元へ嫁げるだなんて寂しくなるが夢のよう』などと口にしていた。

 私には結納金の交渉をする気は全くないけれど、ここで良い返事だけはしておかなければ。


「私に出来る限りのことは……」

「さすがレイナお姉様っ! わたくしの自慢のお姉様です〜」


 ワガママばかりの妹だが、都合が良い時だけは懐いてくれる。

 アルミアの発言に対して、お父様とお母様は大きくため息をついた。


「どんな相手でも優しい言葉をかけられるだなんて……アルちゃんは立派ですわね」

「姉とは違い、妹は立派に育ってくれて誇りに思う。これでレイナがいなくなれば、我がファルアーヌ家も落ち着くであろう」


 どこまでも私を邪魔者扱いしてくる両親にはため息しか出てこなかった。



 ♢♢♢



 ――アルミアが嫁いだら、私はきっと殺される


 そう思っていたからこそ、家から逃げたときに困らないよう、毎日魔法学を独自に勉強していた。

 貴族令嬢が逃亡したとなれば、王都では生活ができないだろう。そこで、王都から離れて一人で生きていくためにも、より強力な魔法が必要だと思っていた。

 王都の外は危険がいっぱいだからである。全部独学で勉強したものだから、実際はどうなのかわからないが。

 魔法に関しても一度も発動したことはないが、知識だけはそこそこあると思う。


 だが、できることならば安全第一に生きたいと思っている。


 私もワガママを言って良いのなら、グレス様のところへ嫁ぎたい。

 今の生活より厳しくなったって構わない。

 せめて私と縁談をしようと求めてくれた人の元で生活したい。


 そんなこと、無理だということはわかっているけれど。

 ところが……。


「喜ぶがいい! 公爵から直々に許可が下りたぞ」

「はい?」

「アルミアとの婚約は解消。レイナと再度縁談の話をしたいとのことだ」


 どういう流れでそうなったのかはわからない。

 だが、それよりも私にもチャンスがやってきたことが嬉しかった。


 もしかしたら私は救われるかもしれない。

 ゴミ扱いしてくる両親から解放されるのかもしれない。


「結納金のためにも、絶対に婚約するのだ。良いな? そのためにわざわざ服を綺麗にしてやったのだぞ」

「はい……」


 なによりも結納金が目当てのお父様だった。

1話目だけは長かったですが、2話目からは多くても3000字代になります。

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