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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

陽の光には、当たれない

作者: 白織

『が...必ず...さんを...』



「玲、玲!起きて!」



誰かが私を起こそうとしているらしく、肩が少し遠慮がちにゆられる。



「授業中だよ、起きて」



そう聞き、目を擦ると今は、授業時間らしい。


時計に目をやると残りの授業時間は、約10分。



「ん...あと10分...」



「それじゃあ授業終わっちゃうから」



「ん...知ってる、おやすみ」



「なら起きてよ!お願い、後で飲み物も奢るから」



まぁ...そこまで言うなら起きようかな。


気の抜けた力の ないあくびと共に意識を呼び覚ます。



「ん...飲み物は別に奢んなくていいよ」



そう答えて授業を受ける。


そうやって授業が終わって帰りのHRが始まる。


今日何があったか、明日の予定はなにがあるかというのを大雑把に説明されて放課後となる。


徒歩で大体一時間の距離が私の自宅だ。


私の住む家は父、兄、私、弟の四人家族だ。


まぁ、私は家族として数えられているのかわからないけど。



「ただいま...」



「......」



何も返事は返ってこないがそれも仕方ない。


弟は部活、母は家を出ていったし父は...。


いつもみたいに荷物が邪魔にならないように端に寄せる。



「玲、ちょっとこっちに来い」



「何...?」



「お前そろそろアレだろう、準備しておけ」



「はぁ...わかった」



直接的に表現せずになんでわざわざぼかすんだろう。


そんなことを考えた後、学校で借りた本を読みながら時間を潰していると、弟が帰ってきた。


一家揃って無口なんだから...はぁ...。


心のなかでため息を付きながら読み進めて行くと、弟が私のことを一瞥してから自室へと入って行くのがわかる。


その後黙々と読み進め、手を止めると0時近くなっていた。


そろそろご飯食べて寝よう...。


ゼリー飲料をいくつか口にしてからソファーで寝袋にくるまって就寝。


今日のことを思い返しながら、穏やかに時間は過ぎ去って行く。


しばし時が経ち、控えめだけれど私にとっては眠りを妨げる騒々しいアラーム音が頭に鳴り響く。


でも...今日はいつもより息苦しくて周りの音がぐわんぐわんと鳴り響く。



「アレ、きたかぁ...行かなきゃいけないのか、めんどくさいなぁ...」



いつも以上に気怠げな表情をしながら向かうのは父の研究室。



「起きてる?きたよ、アレ」



「そうか、学校の方には連絡は入れておく。お前はそこの台で横になっておけ」



「ん、わかった...」



横になってしばらく待っていると父が呼吸器を持って来る。


多分中身は麻酔だろう。


休むたびにこうやって全身麻酔をさせられ、人体実験が今日もはじ..ま...る......。


意識が浮上し、眠気の残った目を開けようとすると目の前には弟のはじめがいるだけだった。



「起きたんだ、姉さん...そのままでいいから聞いて。


姉さんは、今の生活から抜け出したい?誰かに助けてもらえるなら助けてもらいたい?」



「.........」



何もわからないまま、ほぼ眠りながら私は答えていた。



「わかった。僕が必ず姉さんを...」



そう言い、また眠りについた姉を見つめる彼の瞳には、決意の光が宿っていた。



「んぁ...」



目が覚めたら辺りは夕方で近くには誰もいなかった。


眠る前になにかあった気がする...でも何も覚えていないからきっとどうでもいいことなんだろう。


そうやして起き上がろうと手に力を込めると普段より白くなった体に気がついた。


ああ、そっか。


私が文字通り太陽の下を歩けなくなるのは近いのかもしれない。


取り敢えず今日はずっと寝てたし、いつもより栄養のあるものを食べることにしよう...と思ったら枕元にコンビニのお弁当やお惣菜、そして手紙が置いてあった。



『姉さんへ、今日父さんになんかやられてたみたいだし食べ物準備するのも面倒だろうから買って来ておいたよ。あと、姉さんからの頼み、果たしてみせるよ。創より』



ご飯を買ってきてくれたのは、はじめだとわかったけれど、私からの頼み?


そんなのした記憶がない...。


聞きに行ってみよう。


私がさっきまでいた研究室から出て階段を登り二階への階段を登る。


この階段を登るのは久々だなぁ...なんて考えながらはじめの部屋へと向かう。


そうして着いたはじめの部屋を覗くと何かを一心不乱に書いていた。


きっと学校かなんかの課題だろう。


じゃあ今はやめて明日にでも聞こう。


今も少し体がだるい。


少し本でも読みながら休もうかな...。


そうこうするうちに瞼は落ち、日が昇っていた。



「ん...」



目が覚めた頃にはもうはじめは登校していたらしく、急いで準備を整え私も登校する。


いつもより日差しがチリチリと肌を刺してくるような気がする。


日差しが強くなったのかそれとも私が日差しに弱くなったのか...。


いつもの通り慣れた道でそんなことを考えながら学校へ向かう。


学校で本を読んで授業を受けてそんないつもの生活を過ごそうとしてた。


登校してからしばらく経ち、授業を受けていると...



「...きて!起きてください!玲さん!」



いつもとは少し違う声で強めに肩をゆすられる。


顔をしかめながら意識を呼び覚ます。



「授業中ですが先生、少し借りていきますよ。急用ですので」



授業を担当していた先生に向けて学年主任の先生が宣言し私を教室の外へと連れて行く。



「いい?落ち着いてきてね、貴方の弟の創さんのことなのだけれど...」



「はじめが、はじめがどうかしたんですか!」



柄にもなく少し大声を上げる。


私にもこんな声が出せるのかと驚くと向こうも珍しく大声を上げた私に驚いたらしい。



「すみません。取り乱しました。続きをお願いします」



「え、ええ...貴方の弟さんなのだけれどもね...学校で首を吊っているのが発見されたわ」



「......」



唐突に水をかけられたかのような衝撃が私のことを襲う。


意識せずとも私の耳に心臓の鼓動が響いてくる。



「すいません。私早退します!」



そう言い私は全力で駆け出した。


学校を出るとまた、肌を刺すような痛みを感じたけれど無視して全速力で走る。


訳も分からず走り、私は自宅についた。


なんでなのか、私の体はどこに向かえばいいのかわかっているようだった。


意識に反して体が勝手に動き出す感覚は奇妙ではあるけれどきっとここになにかある。



「はじめ──っ!」



さっき驚いたばかりの大声を超えた声が家中に響く。


昨日、はじめが何かをしていた机の上には何度も書き直されてくしゃくしゃになった一枚の紙があった。



『ごめん』



これが私の探していたもの...。


ごめんですまさないでよ...。


ごめんで!すま...す...わ..け......





「眠ったか、厄介なことをしてくれたな...創め...」



せっかくここまでこの研究を進めたんだ。


ここで終わらせてたまるか。


この研究を成功させて認めさせねばならないんだ。



「......」



悲しみに歪んでいる玲の顔をものともせず研究室へと玲を運ぶ。


もう少し経過を観察したかったが仕方ない。



「やるか...」



そう言って彼は眠らせた玲を研究室へと連れて行く。


今回の実験が成功したらメラニン合成の阻害、つまり完全に後天的なアルビノ症状の再現の成功である。


つまり太陽の下を歩けなくなるのと同意義なのだ。


そして今回のような非常事態で玲の父、銀次は、世間一般で言うところのゾーンというものに入っていた。


そして...



「成功した...これで、これできっと私は名声を手に入れ、あいつを、妻を取り戻すことができる!」



しかしこのときの銀次は気付いていなかったのである。


創の決死の行動により重い腰を上げた集団、警察がたった今己の首元へと王手をかけているということに。


何も起きていないときならいざしらず、今発揮されているこの脅威の集中力は己に牙を向けているのだと。





『〜〜事件の発生から5年が経ちましたがこれから彼女は今も癒えぬ・・・』



「はぁ...」



私はテレビの電源を落としながら無意識に溜息が出てしまった。


あれから5年かぁ...


私こと【都度 玲】は、人生の中で最も激動の時間だった瞬間の日々がまとめられたテレビを見ていた。



「さて、と今日も適当な感じに過ごすとしようかな」



こうして今の私は生きている。





あの日々を乗り越え、次に訪れる困難のことも今は知らずに穏やかに、日常を謳歌している。


願わくば彼女と共に困難を乗り越えられる、仲間と呼べるような人々が見つかることを切に願うこととしよう。




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