表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泪橋  作者: 篠川 翠
42/71

珍客(3)

【主要登場人物】


<和田旗本衆~下向組>

一色図書亮……主人公。永享の乱で父を失い、二階堂家の須賀川下向に加わる。

忍藤兵衛……鎌倉出身。白川結城家にルーツを持ち、古くからの図書亮の知り合い。

倭文半内……鎌倉出身。鎌倉以来の知己。

宍草与一郎……播州出身。在京の将軍である足利義教を嫌い、鎌倉を経由して二階堂一団に加わる。

相生玄蕃……播州出身。後に、須田秀泰の家臣になる。


<四天王関係者>

須田美濃守秀一……四天王の一人。須田家の惣領であり、実質的な和田衆家臣団の代表者。和田地域を差配。

須田佐渡守秀泰……須田家次男。小作田・市之関を差配。

須田三郎兵衛尉秀房……須田家・三男。袋田を差配。

須田紀伊守秀幹……須田家四男。竜崎を差配。

須田源蔵秀顕……須田家五男。浜尾の一部及び江持・堤を差配。

安藤左馬助……須田家家老

箭部安房守義清……四天王の一人。箭部家の惣領であり、今泉を差配。

箭部下野守定清……安房守の弟であり、図書亮の妻りくの父親。狸森むじなもりを差配。

箭部紀伊守……りくの従兄弟。鹿嶋館に居住。

遠藤雅楽守……四天王の一人。山寺を差配。

守屋筑後守……四天王の一人。里守屋を差配。


<二階堂家>

二階堂為氏……二階堂家の惣領。十三歳で父の跡を継ぐために、鎌倉から須賀川に下向。

治部大輔……為氏の父の死後、代官として須賀川に派遣されていた。

民部大輔(北沢民部)……為氏の伯父。

二階堂山城守(保土原殿)……行村系の二階堂一族。


<女性陣>

三千代姫……治部大輔の娘。為氏の妻。

千歳御前……治部大輔の妹。民部大輔の妻。

りく……図書亮の妻。箭部定清の娘。


<その他>

明沢……謎の羽黒修験者。


「ここまで話を聞かせてやったのだ。今晩の飯くらいは馳走してくれるのであろうな」

 図々しくもそう述べる明沢を、図書亮は睨みつけた。この明沢という僧が、本物の僧だとは図書亮は信じていなかった。だが、風体は紛れもなく羽黒修験のそれであるし、山伏であれば有髪の僧も珍しくない。何より、体術では明らかに図書亮より格上だ。ここで逆らって殺されても困る。

 仕方なく明沢を自宅へ連れて帰り、りくに客人の分の夕餉の支度を命じた。

 珍客の来訪にりくも戸惑ったようだったが、お得意の「木の子の汁」を用意して、明珍をもてなしてくれた。秋に採れた木の子を塩漬けにして保存しておき、それを汁物にしたものである。

 明沢はというと、「誠に殊勝な御心がけである」と述べ、ちゃっかりとその場でりくの安産祈願の修法を行い、おまけのように図書亮の武運長久の祝詞を述べてくれた。いかにも僧らしいその振る舞いに、りくはあっさりと丸め込まれた。

 一通り腹が満たされたと見ると、明沢は席を立った。

「修法まで行っていただいたのですもの。せめて一晩の宿だけでも」

 そう申し出るりくの勧めを、明沢は軽くいなした。

「いやいや。今晩は妙林寺の庫裏で泊まるつもりだった。元よりそこで人との約束もあるしな」

 それならばなぜここへ押しかけた。そう言いたいのを、図書亮はぐっと堪えた。やはりこの明沢という僧侶は、食えない。

「今晩の食事の礼をもう一つ進ぜよう。明日にでも、出陣命令が出る。一色殿は先鋒組と決まった」

 明沢の言葉に、図書亮は冷水を浴びせられたような心地になった。まだ、図書亮の耳にも届いていない情報を、なぜこの僧が知っている。

 りくも、さっと顔色を変えた。

「では御内儀。誠に結構な飯だった。どうか御身を大切になされよ」

 そう言うと、明沢は再び不可解な笑みを図書亮に向け、家を出ていった。

 二人で頭を下げて明沢を送り出すと、りくがこわごわと図書亮の側に身を寄せた。

「あの御坊の仰ったことは、まことなのでしょうか」

「分からん」

 得体の知れない坊主の言うことなど、当てになるか。そう断言したいところだが、都の一色本家の情報や新しい鎌倉公方の話を持ってくるなど、妙に世事に通じていた。四天王ですら仕入れてきたばかりの情報なのではないか。

 だとすれば出陣命令も、四天王の誰かから情報を仕入れてきたものか。

 図書亮が明沢の言葉に考え込んでいると、明沢と入れ替わるように安藤左馬助がやってきた。

「一色殿。先ほど、出陣が決まった。明朝より須賀川の城に討ち入る。日の出の刻に、峯ヶ城に参られよ」

「遂に来たか……」

 図書亮は、身震いした。同時に、先ほど押しかけてきた明沢の情報は、正しかったと思い知らされる。

「陣割は」

「総勢二八〇〇名。先鋒が箭部安房守殿、二陣が二階堂左衛門殿、三陣が二階堂下野守殿。本陣が御屋形の旗本衆と決まった。戦の総指揮は、美濃守様が執られる」

 二階堂左衛門は、確か木之崎城主だったはずだ。二階堂下野守は、矢田野左馬允の別名である。二階堂御一門衆も、本気で治部を滅ぼすつもりだ。図書亮が初めて岩瀬の地にやってきたあのときとは、覚悟が違う。

「一色殿は先鋒だな」

 何を思ったか、安藤はそう述べた。図書亮の身分も一応は為氏の旗本衆のはずだが、同時に四天王の一人、箭部安房守の身内でもある。箭部の娘であるりくの夫だから、箭部一族として安房守の陣に組み入れられたのだろう。武功を立てる機会も多いかもしれないが、死ぬ確率も一番高い。

 先ほどの明沢との会話が、頭を過る。

 今回の戦で武功を立てれば、それが宮内一色家の家名復帰のきっかけに成り得る――。

「安房守さまや舅殿と共に、武功を挙げて来るぞ」

 図書亮はりくに向けて、不敵な笑みを浮かべた。

 反対に、りくは不安そうな色を隠せない。覚悟をしていたとは言え、自身の出産を前にして、夫も父も戦場に立つのが、怖くてたまらないのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ