第9話 告知
平素より『Soul of the Monsters』をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。
XXXX年XX月XX日15時より、イベント『バトルロイヤル』を開催いたします!
本イベントでは参加登録された皆さまをイベント専用フィールドへご招待し、バトルロイヤル形式のPvPを実施いたします。イベントに参加される方は、イベント当日の午前10時までに公式サイトにて参加のご登録をお願いいたします。
また、本イベントでは最大三人までのパーティを編成して参加することが可能です。パーティにて参加をご希望の皆さまも、必ず全員がご登録を実施していただく必要がありますのでご注意ください。
イベント不参加のプレイヤーの皆さまも、特設の観戦専用フィールドにてバトルロイヤルの様子を観戦することが可能です。なお、観戦専用フィールドは全域戦闘禁止エリアとなっております。
その他、バトルロイヤルの詳細なルールに関しましては、公式サイトをご確認ください。
※登録期限までに参加のご登録が行われなかった際の対応はいたしかねます。
※イベントに関するお問い合わせにつきましては、公式ページよりお願いいたします。
※イベントの期間や内容等は予告なく変更となる場合がございます。
今後とも『Soul of the Monsters』をよろしくお願いいたします。
◆◆
数日後。アリアがログインすると、運営からイベント告知のお知らせが届いていた。
「PvPイベントですか。面白そうですけど、この三人パーティというのは余計ですね……」
せっかくレア種族に進化したのだし、アリアとてそれなりに見せびらかして自慢したい欲求はある。あるのだが、パーティと言われると尻込みしてしまうのもまた事実。そもそも三人どころか一人としてフレンドはいない。
別にパーティを組まずとも参加は可能だが、それなら最初からソロにして欲しかったと思わずにはいられない。
「まだ時間はありますし、ひとまず返答は保留で。もしかしたらフレンドができる可能性もないとは言い切れませんし――」
いないフレンドはさておき、今は大会に向けてできることをすべきだろう。もちろん探索とレベル上げである。
この数日で骸の洞窟周辺の探索は終えている。基本的に森が鬱蒼と続いていただけだったが、ちょうど昨日、洞窟を発見していた。ログアウト時間が迫っていたのでひとまずスケルトンズを放り込んでおいたが、今日はそこの探索をしてみるつもりである。
夜のうちに骸の洞窟を発ち、先日実験で作った中級スケルトンを連れて移動する。
ちなみに最初に作ったスケルトンズは骸の洞窟に残してきた。あそこは野生のスケルトンが定期的に湧くため、見回りさせておくだけでわずかに経験値が入ってくる。そもそも下級はまともに森を歩けないのだから置いてくる他ないというのもある。
「っと、ここですね。――え?」
洞窟の入口にいたのは、上級スケルトンが一体のみ。しかもその右肩から脇腹にかけて、まるで何かに抉られたように大きな穴が空いてしまっている。まさに息も絶え絶えといった様である。もともと息はしていないだろうけど。
「え、何があったんですか? というか下級の子たちは?」
カタカタと力なく首を横に振る上級。質問しておいて申し訳ないが、何を言いたいのか全く分からない。しかし上級ですらこの様子なら、おそらく下級は死んでしまったのだろう。
考えられる要因はいくつかある。洞窟内の敵が想定以上に強力だったか、ボスに遭遇してしまったか、はたまたプレイヤーに遭遇してしまったか。いずれにしても洞窟内で強敵に出会ってやられたのだろう。
しかも『眷属生成』で作り出したスケルトンの怪我……怪我? は時間経過で回復する。ここまで大きな損傷は初めてだが、治っていないところを見るにその敵性存在はいまだ近くにいる可能性が高い。
アリアは新しく下級を作り出してこの場の見張りを頼むと、中級を連れて慎重に洞窟の入口をくぐった。
この洞窟も骸の洞窟と同様に自然に作られたものらしい。岩肌や地面のでこぼこ感もほぼ変わりなく、もはや歩き慣れた地形である。
中級スケルトンに少し先を歩かせながら進むことしばらく。何度目かの曲がり角を先行して曲がらせたタイミングで、角の向こうから何者かの叫び声が響いてきた。
「うわっ! また出た、ガイコツ!」
――面倒なことに、どうやら敵性存在はプレイヤーだったようだ。NPCなら倒して経験値にするつもりだったが、プレイヤーが相手だとそう簡単にはいかない。しかもここは島の中心部に近い場所。相手のレベルもアリアと同等かそれ以上だろう。
一瞬でそう判断すると、すぐさま引き返すべく回れ右をし――。
「ええいっ、『ストームブラスト』!」
直後、吹き荒れる風の奔流が背後を突き抜けた。
思わず立ち止まって振り返ってしまう。聞いたことのないスキル名に、中級スケルトンが一瞬でポリゴンに変わるほどの大火力。βテストではスライムメイジとして数多くの魔法を使ってきたアリアだから分かる。今のは風属性の魔法――その上位版だ。
逃げるつもりだったがやはりやめた。そんな魔法を撃てるプレイヤーがどんな人物なのか、非常に興味が湧いてきた。あとさっきの魔法の詳細とか覚える条件とか他にどんな魔法が使えるのかとか。じっくり話を聞いてみたい。
さておき、ひとまず出迎える用意をしよう。曲がり角から少し距離を取り、下級を二体生成。斜め前に並べて立たせておく。スケルトンたちには申し訳ないが、いざというとき壁にするためである。
準備が完了し、ホネ武器を握りしめたところで、そのプレイヤーは音もなく角から姿を現した。
『聴覚強化』を持つアリアが、なぜ向こうが声を出すまで存在に気づかなかったのか。一目見て理解した。――浮いていたからだ。
一言で言えば人の形をした霧である。しかしよく見れば、腰あたりまで伸びた髪や愛らしい少女の顔も見える。首より下はほぼ輪郭のみで、足にいたっては溶けるように消えているが。一体何のモンスターなのだろうか。
「まだガイコツいるしっ! って、え、プレイヤー?」
「……こんにちは」
「えっ? あ、うん。こんにちは?」
今回は心の準備も万端である。おもむろに挨拶してみると、霧の少女は驚きながらも律儀に返してくれた。どうやら会敵すぐさま戦闘とはならずに済んだようだ。友好的なプレイヤーなのは嬉しい誤算である。
「って違う! そこのガイコツ、襲ってくるから危ないよ! ……ん? あれ? あなたもガイコツ……?」
幻想的な見かけによらず、なかなか元気ハツラツな少女である。
「これは私の眷属だから、私を襲うことはないですよ」
ホネ武器を持っていない右手で下級の頭をポンポンと撫でてみせる。やってから気づいたが、身長は同じなので無理して背伸びした感じに見える気がする。幸いあちらは気にした様子はない、というよりそれどころではないようだ。
「あ、確かにマーカーが変な色だなって思ってた! ……あれ? じゃあわたしがさっきまで倒してたのって、あなたの仲間ってこと!?」
「そうなりますね」
「ひえっ!? ご、ごめんなさい!」
「いえ、大丈夫です。こちらも敵を見かけたら攻撃するように言ってありましたし、いきなり襲ってすみませんでした」
今度からプレイヤーを見かけた場合は戦わず逃げるように言っておいたほうがいいだろう。プレイヤーの判別がつくかは要検証であるが。
それはともかく、これはファーストコンタクト大成功と言っても過言ではないだろうか。霧の少女も「よかったぁ!」と胸を撫で下ろしており、もはや戦闘する気はないようだ。