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第8話 お出かけ

 進化して新たに得たスキル『眷属生成』。それを使って作り出したスケルトンで遊んで分かったことがある。


 作り出すスケルトンは消費したHPとMPによって他の能力値も変化するらしい。試しに作り出した九割消費のスケルトンと、最初に作った一割スケルトンで軽い組手をさせてみたところ、九割のほうが秒で勝利した。


 また、能力値だけでなく知能――システマチックに言えば内蔵されているであろうAI――にも差が出た。九割のほうはアリアの挨拶に頭を下げて反応したのだ。


 このことから、単純な作業には一割消費のスケルトン――長いので下級スケルトンと呼んでいるが、これを量産するのがいい。ただそれだけではアリアがいちいち細かい作業まで命令する必要がある。そのため九割消費の上級スケルトンを中間管理職として配置した。


 そうしてでき上がったのが、目の前の上級一体と下級三体で構成されたフォーマンセルである。


「名づけて……名前……うーん。……思いつきませんし適当に『スケルトンズ』とでもしておきましょうか」


 上級スケルトンがタイミングよくこちらを振り向いたが、きっと偶然だろう。


 とにかく、アリアとてただ遊んでいたわけではない。命令したら動く等身大の人形だと喜んでいたわけでは、決してないのだ。


「さてと。思ったより時間かかってしまいましたが、そろそろ行きましょうか」


 無事トカゲ亀にリベンジを果たした今、この洞窟にこもる必要性は皆無である。強いて言えばマッピングできていない場所がまだ少し残っているが、道の向きからして行き止まりだろうことは想像に難くない。そもそも探索中に現在地を把握するために作っていただけで、マップを作るのが目的ではない。


 もっと積極的なプレイヤーなら、このマップでひと稼ぎできそうなものだが、残念ながらアリアには難しいだろう。そもそもこのゲームに通貨が存在しているとは思えない。


 最後に幻想的な地底湖の景色を目に焼き付けた後、スケルトンズを連れて出発する。目指すは洞窟の出口だ。


 途中何度か野生のスケルトンに出会うが、進化したアリアの敵ではない。体に慣れるための運動として有効活用させていただいた。ついでにドロップしたホネ武器を上級にも持たせておく。

 なお下級には持たせていない。手からすっぽ抜けてこちらが危なかったのだ。ポンコツか。ホネだけに。


 そんなコントじみたハプニングも挟みつつ、洞窟を移動することしばらく。一行はついに骸の洞窟の出口へと到着したのだった。


「ここに来るのは二回目ですね。しかも運がいいことに今は夜みたいですね」


 もし昼間だったら暗くなるまで待つ必要があったが、幸先がいい。少し引き返してからメニュー画面を開き、現在地を復活地点に登録しておく。万が一死亡した際、復活と同時に日光に焼かれるのは願い下げである。


 準備ができたら今度こそ出口から洞窟の外へ出る。


 洞窟の外は辺り一面緑だった。生い茂る草々にそびえ立つ木々、苔むした岩。見上げれば空を覆うように枝葉が伸びている。わずかに見える夜空では元気よく星々が瞬いていた。


「見事なまでに森の中。というか明るいですね!」


 アリアは『暗視』持ちであるうえ、今までずっと暗い洞窟内にいた。眩しいとまでは言わないにしても、月明かりがあるだけで十分すぎるほど明るく感じるのだ。


「まあ、そのうち慣れますか。そういえばあなたたちは大丈夫なんですか?」


 スケルトンズも洞窟内で普通に動いていたし、おそらく『暗視』持ちだろう。気になって上級スケルトンに尋ねてみると、問題ないとばかりに頷かれた。


 ふと振り返ってみると、洞窟の出口――この場合は入口か、入口は地面の断層に小さく口を開けているだけだった。しかもその周囲は腰ほどまで伸びきった草で覆われている。他のプレイヤーを全く見かけないなと不思議だったが、これでは誰も来ないのも頷ける。


「とりあえず真っ直ぐ行ってみましょうか」


 特に目的地は決まっていないが、朝日が昇る前までに帰ってくる必要もある。あまり遠くへは行けないだろう。夜の間に森を探索し、別の洞窟を発見できれば日中はそこへ潜る。それができればベストだろう。


 伸び放題の草をかけ分けるようにして森の中を進む。能力値が高く『体幹』スキルも持つアリアは平然と歩けるが、スケルトンズ、特に下級の子たちはそうもいかない。十メートルほど歩いただけで二回も転んだのを見かねて、洞窟の中で待機するよう命令しておいた。


 それから夜の森散歩を楽しむことしばらく。小さな虫や鳥ではない、明らかに大きな何かが草むらで動く音が聞こえて、アリアは足を止めた。


 周囲を見渡してみるが、それっぽい姿は見えない。


「……そういえば森の中は感覚強化系のスキルが必須でしたね」


 洞窟生活が長かったからすっかり忘れていた。とはいえ敵がこちらを狙っている中で取るのはさすがに無謀すぎる。この戦いが終わったら取得することにしよう。


 そんなフラグを立てたところで視界の端、左手の茂みから黒い影が飛び出してくるのが映った。


 右足を軸に体を回転させ、その勢いのまま左手を振り向く。ホネ武器に何かが当たる感触。そして地面を転がっていく大型のクモが見えた。


 全長はアリアと同じかそれ以上あるだろうか。異様に長く、先端が尖った足が特徴のモンスター。あれは確か初期種族『スパイダー』の進化先の一つ『フェンサースパイダー』だったか。


「これ、中心部に近いモンスターでは?」


 この始まりの島は、外周部は比較的弱いモンスターが多く生息しており、中心部へ向かうほどその強さが増していく。薄々気づいていたが、どうやら骸の洞窟は島の中心部に近い位置にあったようだ。


 フェンサースパイダーはよろめきつつも体を起こしている。先のカウンターでかなりのダメージを与えられたようだが、さすがに進化したモンスター相手を一撃で倒すまではいかないらしい。レベルも同等か格上だろうし。


 続いて器用にこちらにお腹を向け、糸を射出してくるクモ。お腹を向けた時点で何をしてくるかみえみえである。しかしふと思いついたことがあり、あえて糸をホネ武器で受け止めた。


「『眷属生成』――。そのクモに攻撃を」


 糸で綱引きをしている間に、五割消費の中級スケルトンをフェンサースパイダーの真横に生成。這い出てきたスケルトンはすぐさまクモへ奇襲をかける。クモも直前で気づいた様子だったが、反撃する前にスケルトンの攻撃が入り、虚しくポリゴンに変わっていった。


「うーん……奇襲戦法は微妙ですね」


 いかんせんスキルの発動からスケルトンが出てくるまで時間がかかりすぎる。不意をつくこと自体は成功したが、少なくないHPとMPを消費して行うメリットはあまり感じられなかった。とはいえ、こういう戦法も取れると確認できたのは僥倖である。おそらくいつか役に立つときが来るだろう。きっと、たぶん。


 この日は結局何体かモンスターを倒すだけで探索を終え、洞窟へと引き返したのだった。


 ちなみにしっかり『視覚強化』と『聴覚強化』は取得しておいた。無事フラグ回避である。

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