第6話 レヴナントルーラー
《特殊条件を満たしました。種族『レヴナントルーラー』へ進化が可能です》
「――んん?」
高揚感に流されるまま勢いでアイテムを使ったアリアだが、さすがにこのメッセージには冷静にならざるを得なかった。
進化である。それも全く聞いたことのない、どう考えてもレア種族の。おそらく特殊条件を満たしたとやらが関係しているのだろう。
「心当たりは……まあ、さっきのアイテムですよね」
スケルトンの通常の進化先は、レベル10になった際に出ていた『スケルトンソルジャー』で間違いないだろう。もしかしたら魔法型であれば『スケルトンメイジ』などになっていたかもしれないが、それは今は関係ない。
重要なのは、先ほどのアイテムを使ったことで何らかの条件を満たした、あるいはアイテムを使うこと自体が条件だったため、通常とは異なる特殊な進化ルートが開放されたということだ。
特殊な進化。実にワクワクする響きである。
しかも名前がスケルトンからレヴナントに変わっている。一般的な創作物だと、スケルトンよりレヴナントのほうが高位のアンデッドとして扱われている。それの統率者であるなら、現在よりかなりステータスが強化されると見て間違いないだろう。これで弱かったら運営に一言申したい。
「うん、よし。問題なさそうですね。では『レヴナントルーラー』に進化で!」
《種族『レヴナントルーラー』が選択されました。進化を開始します》
メッセージとともに視界が白い光で塗りつぶされる。この進化シーケンス中は、どこかのポケットサイズになるモンスターよろしく、他人から見ても謎の光で覆われているらしい。もちろん掲示板由来の知識である。
進化の光も数秒で収まり、すぐに視界は元に戻った。
「終わりましたか。って、左腕が戻ってますね。よかった」
進化メッセージのインパクトですっかり忘れていたが、取れていた左腕が元通りくっついていた。もちろん変化はそれだけではない。
一番に目を引いた変化は胴体だろう。白骨体だった胴体に、人間のそれと同じく肉と皮膚が復活していた。ただし肌の色は血色が悪いを通り越して青白い。
そしてその青白い胴体を、肋骨のようなホネが鎧のように覆っている。なお、平均よりもほんのわずかだけ控えめな気がしないでもない胸もしっかりと鎧で隠れていた。そもそも現実の体をスキャンしていないのでリアルは一切関係ない。胸も無関係だと主張しておく。
肉体を取り戻した胴体に対し、腕や足は依然としてホネのままだった。繋ぎ目の肩や腰周りは上手いことホネの鎧で覆われて見えなかった。
また、先ほどから視界にチラチラと映る黒い物体は、もしかしなくても髪の毛だろう。どうやら胴体と同じく顔や頭も復活しているようだ。ただしこちらは鏡がない以上、確かめようにも――。
「あ、湖で見ればいいのか」
おあつらえ向きに輝くコケでライトアップされた天然の鏡が目の前にあった。
今までよりも段違いに軽くなった体を動かし地底湖へ。落ちないように気をつけながら水面を覗き込むと、そこには青白いながらも整った顔の少女が映っていた。
こちらを覗き込む目は、白目の部分が黒く、瞳の部分が深紅――俗に言う黒白目である。また、顔の右上から後頭部、そして首へかけても、ところどころホネで覆われている。
一言で表すならば――美少女なスケルトンだろう。
「……我ながら凄いパワーワードですね」
さておき、見た目の変化は十分堪能した。そろそろ次にいくとしよう。メニュー画面を開き、ステータスを確認する。
動いたときの感覚で察していたが、STRなどの能力値が軒並み上がっている。特に変化が大きいのはHPとMPだろうか。以前の倍近くある。対してINTとMNDは控えめだ。
「って、この二つは強化スキル取ってないからですね」
またSPに余裕が出たら取ろうと頭の片隅に入れておく。そのまま彼方へ消え去ってしまいそうだが、その時はその時だ。
続いてスキル。こちらも見慣れないものが新しく増えていた。『骨の鎧』、『夜霧』、そして『眷属生成』の三つだ。いろいろとツッコミたいことはあるが、飲み込んで順に見ていくことにする。
『骨の鎧』は『骨の体』の上位互換のようなもので、斬撃と打撃に強くなる効果だった。とはいえ『骨の体』も消えていない。結果として刺突と斬撃に強く、打撃はプラマイゼロに落ち着いたと思っておこう。
『夜霧』はMPを消費して自身の周囲に霧を発生させ、日光を遮るスキルらしい。日光弱点を無視できるのは素晴らしいが、代わりにMPが減っては意味がない。どうしても日中に外へ出たい場合のみ使うことになるだろう。
最後に『眷属生成』だが……。
「『あなたはHPとMPを消費して眷属を創り出すことができる』って、説明になっていませんね」
消費がどの程度なのか、何を作り出すのか、そもそも眷属とは何なのか。まるで詳細が分からない。
「……まあ、使ってみれば分かりますか。HP消費とありますが、さすがに自分のスキルで死ぬことはないでしょうし。……ないですよね?」
疑問の呟きが運営に届くはずもなく、虚しく洞窟内に消えていった。
気を取り直してさっそく『眷属生成』を使ってみることにする。発動を意識するとHPとMPを何割消費するかを求められる。ちなみに十割は設定できなかった。どうやらこのスキルで死ぬことはないようだ。
ひとまず最低の一割を指定し、続いて生成場所を……目の前だと生まれた瞬間湖に落ちるだろう。何の嫌がらせだ。回れ右して湖から少し離れておく。
「これで終わりですかね。ならいざ、『眷属生成』!」
発動と同時に体からわずかに力が抜ける感覚がアリアを襲った。βテストの際、スライムメイジで魔法を放ったときの感覚に近いだろうか。要はMPの減少である。
久しぶりの感覚にムズムズしている間に生成は進む。生成場所に指定した地面に魔法陣のような模様が現れ、そこから一体のスケルトンが這い出てきた。生成というより召喚に近い気もするが、気にしても仕方がない。
やがて完全に姿を現したあと魔法陣は消え去り、残ったスケルトンがアリアの前で棒立ちになった。その頭上には緑色のマーカーが浮かんでいる。
プレイヤーは青色、敵性が赤色なので、緑色は味方だろうか。事実、アリアに襲いかかってくる様子はない。
「ええっと、こんにちは」
返事がない。ただの屍のようだ。いや、スケルトンなのだが。
「うーん……右手上げて? おお、動きましたね」
おもむろにカタカタと腕を上げるスケルトン。どうやら簡単な命令に従うようになっているようだ。挨拶は命令に入らないらしい。
「面白いですね、これ」
このあと滅茶苦茶スケルトンで遊び倒した。