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第2話 亀トカゲ

 あれから小一時間ほど経っただろうか。なんとなく左手法を使い続けながら、アリアは洞窟の探索を続けていた。


 途中で何度か野生のスケルトンに襲われたが、新しく武器――という(てい)のただのホネ――を手に入れたアリアの敵ではなかった。ただし数体倒したところで壊れてしまったので、現在持っている武器は二代目である。


 敵を倒したことで経験値も得られ、レベルも2へ上がっていた。レベルが上がればSPを獲得できる。つまり新しいスキルを取得できるのだが、今はまだ温存してある。出てくる敵はスケルトンばかりだし、急いで使う必要性はあまり感じられない。


「うーん……こっちで道あっているんですかね?」


 別にどこか目的地があるわけではない。強いて言えば外への出口だが、『日光弱点』がある以上は日中外へ出ることもままならないだろう。ただ、こうも薄暗く代わり映えのない空間の中をひたすら歩くのは、思った以上にメンタルに響く。


 ――そろそろ何か変化が欲しい。スケルトン以外で。


 そんな思いから漏れた言葉だったが、すぐに回収されることとなった。少し先、何度目かの分かれ道の右手が、うっすらと明るくなっていたからだ。


 今のゲーム内時間は昼。あれが外への出口ならもっと明るいはずである。ならあれは何だろうか? 新しい刺激に興味が湧いてくる。


 ホネの武器を握りしめ、ゆっくりと慎重に角の先の様子を伺う。果たしてそこにあったのは出口ではなく、小さな地底湖だった。


 広さは学校のプールの半分、つまり十メートルほどだろうか。エメラルドブルーの水面がたゆたうこともなく佇んでいる。地底湖の周りにはコケのような植物が生えており、わずかながらも光を発している。明かりの正体はあのコケのようだ。


 そして地底湖の水際に、それはいた。


 例えるなら、二足歩行したトカゲが薄い亀の甲羅を背負っている、と言うべきか。しかもトカゲの部分はホネ、つまりスケルトンである。またスケルトンか。とつい思ってしまったが、察するにこの洞窟はゲーム的に言えばスケルトンが湧くエリアなのだろう。あの亀トカゲはここの親玉のようにも見える。


「ボス発見、ってとこでしょうか」


 あの亀トカゲがどの程度の強さか分からないが、レベル2のアリアでは敵わない可能性が高いだろう。しかし良いこともある。レベルが5未満であれば、本来死亡時に受けるペナルティ――デスペナが免除されるのだ。


 幸いここまでの道のりは覚えている。単に左手の壁に沿って歩いてきただけだからだ。そしてデスペナもない。ここで負けて死亡しても、失うものはなにもないのだ。いや、ボスの情報を掴めるのであれば、むしろプラスと言えるだろう。


 ならば躊躇する理由はない。二代目ホネ武器を握りしめ、角から出て地底湖へ向かっていく。


 途中でアリアの接近に気づいたのだろう。亀トカゲは俯いていた頭を上げ、虚空の双眸を向けてきた。同時にだらんと下げていた腕や背中も伸ばして臨戦態勢に入ったようだ。


「これ、遠距離から攻撃したらどうな――っ!」


 見かけによらず素早い動きで這うように接近してきた亀トカゲ。その鋭いホネの右爪から繰り出された切り裂きを、ほぼ反射的に一歩後ろに引いて躱す。


「あっぶないですね!」


 のんびり考えごとをしている暇はないようだ。考察は後にして今は集中しよう。少しでも攻撃パターンを引き出すために。


 続く左の攻撃を、武器で受け止め……られなかった。STRの差か、受けたホネごと吹っ飛ばされ、あっけなく地面に転がされる。


「ぐっ……!」


 痛覚フィルターは初期設定である最低値のままだが、多少の衝撃はやってくる。とはいえいつまでも転がっているわけにはいかない。追い打ちとばかりにきたシッポの薙ぎ払いを地面を転がるようにして避けた。


 距離が離れたからか、亀トカゲが攻撃を止めた隙に立ち上がる。HPは三割ほど減ってしまっているが、幸いホネ武器は手放していない。せめて一撃入れてどの程度効くのか確かめておきたいし、今度はアリアから攻める番だ。


 この戦闘を始めてから徐々に感覚を掴み始めてきたホネの体。それを全力で動かしダッシュで詰め寄る。突然のペースチェンジに驚いたのか、たたらを踏む亀トカゲ。


「てやっ!」


 入った。と思ったと同時。パキンッという音とともにあっさりと武器が砕け散った。


「……えっ?」


 思わず漏れた声と、目の前に迫る爪。直後、切り裂き攻撃がアリアを襲い、残り七割ほどあったHPが消し飛んだ。


《HPがゼロになりました。60秒経過、または『戻る』を選択することで復活地点へ移動します》


 突如暗転した世界で、そんなメッセージが表示された。メッセージの下には『戻る』ボタンと、徐々にカウントダウンしていく数字もある。これがゼロになったら強制的に復活(リスポーン)するのだ。βテストで何度も見た光景である。つまりβテストのときは死にまくったという意味でもあるのだが、それは気にしない。


 猶予が設けられているのは何らかの手段で蘇生が可能になったときのためだろう。βテストでは蘇生の「そ」の字も見当たらなかったが、カウントダウンしている以上は存在しているのだと思われる。


 ともかく、今そんな手段は持ち合わせていない。そもそも持っていても死んでしまっては意味がない。蘇生なんてのはパーティ用の――。アリアはすぐさま『戻る』を選択した。


 黒くなった景色が開けると、そこは初期出現位置の小さな横穴の中だった。ご丁寧に膝を抱えた状態である。また頭をぶつけるのも嫌なので先に這い出ておく。ちなみに半分ほどになったホネ武器も握ったままだったが、いらないのでその辺りに捨てた。


「んー。負けてしまいましたか」


 もしかしたらという気持ちもわずかにあったが、いっそ清々しいほどの敗北である。どう考えてもレベル2で挑む相手ではなかった。STR(パワー)AGI(スピード)も、あとホネ武器があっさり壊れたことからVIT(防御)も、何もかも差があった。


「まあでも収穫もありましたね」


 大きく上げて二つ。一つは相手の攻撃パターンを見れたこと。メインはあのホネの爪での切り裂きのようだが、シッポの薙ぎ払いもある。特にシッポも使うと知れたのは大きいだろう。


 また、意外と素早かったのもポイントだ。トカゲと考えれば分からないでもないが、さりとてホネだし、甲羅ついてるし。物理演算はリアル顔負けだが、キャラクターに関しては当てにならないらしい。


「で、もう一つはこの体に慣れたことですね」


 軽くストレッチをしてみると、始めの頃よりだいぶ動きやすくなった気がする。一方的な死闘を繰り広げたことでスケルトンの体に馴染んだのだろう。まだ少し違和感は残っているが、そのうち気にならなくなりそうだ。


 今ならもう少しマシな戦いができそうな気がする。しかしそれでも敵わないだろう。あれに勝つにはもっと根本的な力――レベルやスキルが必要になる。


「あとは武器でしょうか? まあ、さっきは当たりどころも悪かったのですが」


 ホネ武器では歯が立たない、とまでは言わない。先ほどは最も硬そうな甲羅の部分に当ててしまったから壊れただけで、頭や腕、足に当てれば無事だった可能性もある。それでも毎度それらの部位だけを狙うのはかなりキツいだろう。


 これらを踏まえて考えると――。


「とりあえずレベル上げでしょうね。ついでに探索しつつ武器になりそうなものを探す、と」


 ひとまずの方針は決まった。目標ができた――それがあの亀トカゲに挑んだ最大の収穫かも知れない。少なくともあてもなく洞窟をさまようよりはメンタルに優しいだろう。


「――二つじゃなくて三つでしたか。ふふっ」


 あの亀トカゲには感謝しないといけない。もちろんあとでお礼はさせてもらうが。

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