第16話 決着
「『眷属召集』――!」
アリアを中心とし、草原に巨大な魔法陣が浮かび上がった。『眷属生成』にも似た模様。しかし効果は似て非なるものである。
魔法陣からスケルトンが次々と這い出てくる。このスケルトンたちは洞窟で作り出して放った子たちである。準中級三体に下級が六体、総勢九体のスケルトン。1チームいなくなっているが、生き残っていたスケルトンを全てこの場に呼び出したのだ。
「うおおっ!? なんだコイツら!」
「ガルス、気をつけて!」
フリッツとガルスの二人は突如湧いて出てきたスケルトンたちと距離を取ろうとしている。実際はただのスケルトンなのだが、警戒してくれるのなら好都合。今のうちに次の手も打ってしまうことにする。
「下級四体は足止めを。残りは集まってください」
準中級三体と下級二体を呼び集める。さらにもともといた上級が一体。これで全ての条件は整った。
「――『眷属融合』」
集まったスケルトンたちの足もとに再び魔法陣が現れる。今までのものとは異なる、また新しい模様。紫黒色に妖しく輝く光に包まれたスケルトンたちがバラバラになり、そして一つの大きな形へと組み上がっていく。
全長五メートルを優に超すだろう、巨大なホネの怪物。その名も――。
「いでよ、がしゃどくろ!」
これがアリアの奥の手。スケルトンたちを融合させた巨大なモンスター『がしゃどくろ』だ。
スキル『眷属召集』と『眷属融合』。これらはアリアのレベルが15になった際、新たに習得したスキルである。召集はその名の通り、眷属を手元へ呼び出すスキル。呼び出す数に応じてMPを消費するが、十体で一割程度と消費量は多くない。
融合は眷属のスケルトンたちを一体の別のモンスターへ作り変えるスキルだ。ただしいくつか条件はある。例えば『がしゃどくろ』であれば、素材となるスケルトンは五体以上必要で、なおかつそれらの生成時に使ったHPとMPの割合が200%を超える必要がある。
覚えたばかりの頃は癖の強さに苦労したものだ。しかし今ではアリアの立派な切り札として大成している。
「でけぇ……!」
「な、なんだこれは!?」
唖然とした様子の二人が予想通りのリアクションをしてくれる。アリアは非常に満足である。足止めさせていた下級スケルトンたちは倒されてしまっていたが、そちらも含めてお礼は今からするとしよう。
「握り潰してください」
「……なっ!? ぐああっ!」
がしゃどくろの大きなホネの手が瞬く間にフリッツを捕らえる。彼が呆けていたのもあるが、がしゃどくろもその巨体からは想像もできないほど俊敏な動きをするのだ。そしてそのまま圧倒的なSTRで彼をポリゴンへと変えた。
「フリッツ!? クソったれ!」
ワーウルフのガルスが悪態をつきながらも回れ右をした。
賢明な判断だとアリアは思った。実際、日の出まであと数分しかない。時間を稼がれたらアリアたちの負けは確定なのだ。ただしそれを見逃すほどお人好しではないが。
「『眷属生成』」
「おわっ! 今度はなんだ!?」
足を取られたように――いや、実際に足を取られ、躓くガルス。しかし今度は驚くようなことはしていない。ただ足もとに下級スケルトンを作り出し、同時に彼の足首を掴ませて転ばせただけである。
その隙にがしゃどくろが彼に迫る。そして巨大な腕の大振りを叩きつけた。
やはりあのワーウルフはアリアやリネットと同様に特殊進化を果たした種族なのだろう。がしゃどくろの一撃では倒しきれなかったが、幾度か拳を入れたところでようやく光となって消え去っていった。
「そうだ、リネットは……!」
「こっちも終わったよー」
いつの間にか止んでいた魔法合戦に、最悪の事態が頭を過ぎる。しかしその予想はふわふわと近寄ってきたリネットの姿ですぐに打ち消された。
「なんとか勝ったよ! ぶい!」
「無事でしたか。お疲れさまです」
「アリアちゃんもね! ってかやっぱりこの子使ったんだ」
「ええ。予想以上に強かったので」
リネットには事前に使うかもしれないと言ってあったため、大して驚いた様子はない。むしろ魔法に弱いリネットが魔法特化のスライムメイジに勝てたことに、アリアのほうが驚かされたくらいだ。
「あのスライムメイジにどう――」
《集計が完了いたしました。ただいまをもちまして、第一回イベント『バトルロイヤル』を終了いたします》
《プレイヤー名『アリア』様。優勝おめでとうございます。この後表彰式がございます。ぜひご参加ください》
「――っと、終わったようですね」
聞こえてきたメッセージに話を区切る。同じメッセージが送られたのか、リネットも視線を空へ向けていた。やがてアリアへ顔を戻すとニカッと満面の笑みを浮かべた。
「凄い凄い! 表彰式だって!」
「みたいですね。あまり行きたくはありませんが」
そもそも人前が苦手だから普段ソロで活動しているのである。最近はリネットと一緒にいるが、根本の性格はそう簡単に変わらない。なぜ自ら進んで舞台に立たなければならないのか。
そんな説明をしようとリネットに視線を向けると、うるうるとした瞳を向けられていた。いや霧状のため細かい表情は読めないのだが、それに似た視線を向けられているのだけは分かる。
「うっ。……分かりました、行きます。行くからその目はやめてください」
「やたー! アリアちゃん大好き!」
「……はあ。もう、現金なんですから」
腕に抱きついてくるリネット。そんな彼女にアリアはため息を吐きつつ、口もとを緩ませるのだった。




