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第15話 最終決戦

「ぐっ……見事だ……!」


 無駄に格好いい台詞を呟きながら消えていくウルフ。彼から視線を外し、アリアは息を吐いた。


 ある程度回復を待ってから森の近くまで移動したアリアたち。その後は予定通り森の外周に沿って草原を歩きながら、襲ってくるプレイヤーたちを返り討ちにしていた。


「今ので10人ですかね」

「最初に洞窟で5人倒してるから、全部で15じゃない?」

「ああ、そうでした」


 実際にはスケルトンズも放っているので多少増えると思うが、分からないものはカウントしようがない。もしかしたら一人も倒せていない可能性もある。


 メニュー画面から残りチーム数を確認してみると、いつの間にか3チームまで減っていた。つまり3位入賞確定。これにはアリアも内心大喜びである。他に誰が見ているか分からない以上、諸手を挙げて喜びを表現したりはしないが。


「おおー、ベストスリーじゃん! やったねアリアちゃん! イェーイ!」

「い、いえーい」


 と思ったが、リネットが両手を出してきたので、アリアもおずおずと手を重ねる。友だちとハイタッチ。慣れない行為は落ち着かないが、不思議と心が温かくなる。


「でも、さすがにもうこの近くには誰もいなさそうだねー」

「……こほん。そうですね。とはいえどう探しましょうか」


 しばらく二人で相談してみるが良い案は思い浮かばず。結局もう少し森を回ってみようと歩き出した、その時。右手側、草原のほうで小さな火の手が上がった。


 その火は一瞬で消えてしまったが、今は夜。方向と距離はしっかりと確認することができた。アリアとリネットは二人顔を見合わせる。


「どう思います?」

「んー……罠、って言いたいけど。バトってるなら今がチャンスかなぁ」

「なるほど。漁夫の利ですか」

「……(ぎょ)? 海苔(のり)?」


 何か勘違いしていそうなリネットの呟きは置いておくとして。火の手が上がった方向を観察するが、『暗視』と『視覚強化』をもってしても星々に薄く照らされた草原しか見えない。


 リネットの言った通り罠の可能性もあるが、それは低いだろうとも思っている。なぜなら草原であるからだ。

 隠れる場所がまばらに生えている木や小さな岩しかない場所で、わざわざ罠をしかけたりはしないだろう。そう思考を誘導されている線も消せないが、まあ罠だったら相手が一枚上手だったと諦めるしかない。


 それに夜が明けるまであと十分ほどしか残されていない。太陽が出る前になんとか片をつけないと、負けるのはほぼ確実にアリアたちである。


「では行ってみましょうか。リネットは念のため残り人数を確認しながらついて来てください」

「らじゃー!」


 慎重に、けれども急ぎ足で移動する。あれからも何度か魔法らしき光が見えるため、おそらくアリアたちを除いた2チームが戦闘中なのだろう。


「あ、アリアちゃん! 残りチームが2になったよ!」

「……やはりですか。今なら消耗しているかもしれませんね」

「だね! 急ごう!」


 ふよふよと先に行きそうになるリネットを止め、下級スケルトンを先行させる。


 そして――。


「そこで止まるんだ」


 凛とした青年の声が夜明けの近い草原に響いた。


 しかし残念ながら、アリアの眷属であるスケルトンはアリアの命令しか聞かない。仕方なくスケルトンをその場に待機させる。別に待つ必要はないのだけれど、せっかくのラスト勝負。雰囲気作りも大事である。


「……おかしいわね。私たちが三人だから、残り人数的に相手は二人だと思っていたのだけど」

「どう見ても四人いるね。いや、スケルトン……普通のスケルトンはマーカーの色が違うな」

「緑色なんて見たことねぇぞ? それに他の二人も、なんだありゃ?」


 相手が相談している間に、アリアもざっと分析を済ませる。


 一人は声からして女性だろう。スライムのようだが、あの種族は進化しても見た目がほぼ変わらないので見分けがつきにくい。

 一人は最初に声をかけてきた青年。種族は普通にグレムリン――初期種族『インプ』の順当な進化先で、物理も魔法も平均的に使いこなす種族らしい。


 そして最後だが、あれはもしかしてワーウルフだろうか。βテスト時でもいるだろうと予想されていたけれど、結局見つけた人はいないはずだったと記憶しているのだが。


「アリアちゃん、どうする?」

「あのワーウルフが一番厄介そうですね。私とリネットでそれぞれ残りの二人を先に倒すのが良さそうでしょうか」

「ならわたしはスライムをやるね!」


 リネットが笑顔で力強く頷いたので、アリアも頷き返す。まだ出会って現実時間で一週間ほどしか経っていないが、もう親友と言っても過言ではないだろうか。少なくともアリアは頼れる友人だと思っている。


 それはさておき、これが最後の戦闘である。ここまで来たからには何としても優勝を勝ち取りたいところだ。いざとなれば奥の手も残っているし。


「――ま、細けぇことはどうでもいい。要は全部倒しゃあ終わりだろ? な、フリッツ」

「ははっ、ガルスらしい結論だ。でも僕も賛成かな」

「私は気になるけど……。倒した後に聞くとするわ」


 どうやらあちらの作戦タイムも終わったようだ。


「じゃあ行くよー! 『ウィンドスラッシュ』!」

「って、いきなりの挨拶ねっ! 『ウィンドスラッシュ』、『ストーンバレット』!」


 先制攻撃を仕掛けるリネット。しかしポヨンと跳ねたスライムが風の刃を相殺させ、更には岩魔法で追撃を行ってきた。


「うわっと! げっ、魔法!」

「――リネット!」

「おっと、行かせねぇぞ!」


 『霊体』スキルを持つリネットは魔法攻撃を苦手としている。そのため物理型の多いスライムを相手に選んだのだろうが、相手はまさかの魔法型。しかも今、複数の属性を放っていた。複数の属性を操る魔法型のスライム。アリアには心当たりしかない――。


「スライムメイジ……!」

「よく知ってるね。君もβテスターなのかな」


 知らないわけがない。なにせスライムメイジは、βテストでアリア自身が使っていた種族なのだから。


「どうやらあちらの子は魔法が苦手みたいだね。ならこのまま君を足止めさせてもらうよ」


 フリッツと呼ばれていたグレムリンの青年がにやりと笑みを浮かべながらアリアの前に立ちふさがる。ガルスというワーウルフもアリアとリネットを遮るように位置取りしているようだ。


 リネットが相性の悪い相手と戦うことになったとはいえ、この状況は概ね予定通りとも言える。彼女ならきっと大丈夫だろうと信じる他ない。ならば今は自分のほうに集中しなければ。


「――はっ!」


 フリッツが一足飛びで距離を詰めてくる。振り下ろされた爪を甲羅の盾で防ぎ、お返しにホネ剣で横薙ぎを入れる。しかしそこにグレムリンの姿はなかった。


「ぐぅっ!」


 いつの間にか盾側へ回り込んでいたフリッツ。その鋭い爪がアリアのHPを一割ほど削り取った。


 早い――いや、上手いと言ったほうが正しいだろうか。特徴的な小さな体躯を活かし、死角を突くように動いているのだ。これは注意しないとすぐにまた見失うことになるだろう。


 それから何度も応戦するが、一向にホネ剣が当たる気配がない。途中で下級スケルトンを呼んでみてもワーウルフにあっけなく対処されてしまった。


「その剣と盾。なんでそんなものがあるのかと思ったら、どっちも骨でできているのか」


 あまつさえフリッツに冷静に分析までされていた。どうやら彼はアリアと似た戦い方をするタイプらしい。相手のことを知り、対策を立て、動く。自画自賛するわけではないが、敵に回すと実に厄介な戦い方である。


 このままでは勝てない。そう結論に至り、大きく後ろへ跳躍して一度距離を取る。そしてホネの剣と盾を手放した。地面へ落ちてカランコロンと鳴る武器に、フリッツが怪訝な顔を浮かべている。


 武器を使っても勝てないのならこれ以上続けても無意味だろう。文字通り時間の無駄である。とはいえ別に諦めたわけでもない。そもそも、スケルトンの強みはこんな武器ではないのだから。


 ――圧倒的な物量攻撃。それこそがスケルトンの本質である。


「『眷属()()』――!」

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