第13話 出陣
「ようやく外だー! と思ったんだけど!」
「まあ、太陽出てますよね……」
燦々と照りつけるお日さまに目を細めながら、リネットと二人で洞窟の出口付近で立ち尽くす。
ともに『日光弱点』というスキルを所持している以上、太陽の照らすもとへ出ることはできない。一応『夜霧』もあるが、これはどちらかといえば緊急時用のスキルである。常に発動するようなものではない。
これがまだ森の中であれば木陰で休みながら進むこともできただろう。しかし残念なことに、この洞窟は海沿いの崖にあった。『夜霧』を発動して少し見回ってもみたが、崖下は海岸がずっと続き、また崖を登るのは難しそうだった。
そんな理由から、二人揃って洞窟に引きこもっているのだった。
「これからどうしよっか?」
「うーん……」
幸いなことに、このバトルロイヤルは他のFPSと違って安全地帯の縮小がない。とはいえ最終順位の計算には生き残り時間の他に撃破数も含まれると詳細ルールにあった。ここでじっと待っているわけにはいかないだろう。
「確か、イベントフィールドは一時間で昼夜が切り替わると書いてありましたよね?」
「……あー、うん。書いてあったねっ!」
これは覚えていないな、とアリアは察した。
大半のプレイヤーは日中のほうが有利だろうが、中にはアリアたちのように夜のほうが得意という種族もいるだろう。そんな種族に配慮しているのか、イベントフィールドは時間の進むスピードが早いという特別ルールがあった。
「なら、昼間のうちにたくさんガイコツさん作っておく?」
「そうですね。その間私は戦力になりませんので、リネットに任せることになりますが……」
「らじゃー、任された!」
実に頼もしいフレンドである。たまに抜けているところはあるけれども。
日が落ちるまで洞窟に引きこもり、せっせと『眷属生成』を続ける。目安としてはいつものスケルトンズ――の簡易版。一割消費の下級二体と三割消費の準中級一体を組ませたスリーマンセル。これを四組ほど作り出した。
そうしている間に時間は過ぎ、世界に夜の帳がおりた。ここからはアリアたち闇の種族の時間である。
「さあ、スケルトンズたち。思いきりはしゃいできてください。あ、明るくなる前には帰ってくるんですよ」
「教育に悪そうなセリフだね!」
リネットのツッコミはスルーして、スケルトンズたちが散開していく。その後、残ったアリアとリネット、あと最初に作った上級も動き出した。
まずは海岸を適当に歩いて上へ登れそうな場所を探す。幸いにもすぐ登り坂が見つかり、無事崖上へ。そこには草原が広がっており、遠くには森や山も見えた。
「あとどれだけ残っているか分かりませんが――」
「えっ? メニュー画面から見れるよ?」
「……そういうのは先に言ってほしかったです」
「あ、ごめん。知っていると思ってた」
いや、これはアリアの確認ミスだろう。リネットに謝ってからメニュー画面を開いてみると、確かに現在の経過時間と残り人数、チーム数が表示されていた。
「残り54チームの119人か。これ最初何チームあったか覚えてますか?」
「んーと……千超えてたのは確かだけど、細かい数字まではちょっと……」
「それで十分です、ありがとうございます。となるともう二十分の一以下ですか。かなり出遅れてしまってますね。……あ、一人減りましたね」
もしかしたらスケルトンズがやってくれたのかもしれないが、撃破数は表示されていないので分からない。まあ、気にしても仕方がない。今はできることをするまでである。
『視力強化』も駆使して草原を見渡した限り、他の誰かの姿は見えない。こんな目立つ場所にいたら襲ってくださいと言っているようなものだろうし、当たり前だろう。
とはいえアリアたちが今から撃破数を稼ぐには、なるべく効率よく相手を見つける必要がある。その点でいえば、草原は絶好のポイントだろう。なにせ発見してくれれば向こうからやってくるのだから。特に森近くであれば、隠れ潜んでいる相手が来てくれること必至だろう。
もちろん相手に先手を許すというリスクもある。しかしこちらには眷属という替えが効く戦力がある。囮にするスケルトンには申し訳ないが、使わない手はないだろう。
「リネット。少し相談なのですが」
「うん? ――ってアリアちゃん上!」
振り向いたリネットがギョッとした表情を浮かべて叫ぶ。アリアも咄嗟にリネットの指差す方向、右後ろ上空へ向けてホネの剣を振るった。
「――きゃっ!?」
剣に手応えはなかったが、小さな悲鳴とバサバサという音が聞こえてくる。警戒しつつ振り返ると、いつの間にか上空に三人のプレイヤーが集まっていた。
モンスターしか存在しないこのゲームで、それでも限りなく人に近い姿を持つ種族。腕は翼に、足は鉤爪になっているが、美麗な容姿と優雅に空を舞う姿から特に女性プレイヤーの人気を集めるモンスター。『ハーピィ』――それが突然現れた彼女たちの種族名である。
「ちょっとユリ! 気づかれちゃったじゃないの!」
「いやいや、マリ姉だろ。行くって言ったのは」
「……ルリたちは止めた」
「何よ! 私が悪いっていうの!?」
何か突然喧嘩が始まったのだが。
それはともかく、今の一撃。『聴覚強化』を持っているにも関わらず羽音が全く聞こえなかった。おそらく何らかのスキルを使って音を消していたか、または翼を一切動かさずに高高度から落下してきたか。
特に後者の場合、一歩間違えれば自身が地面と熱く抱擁を交わすことになる。かなり危険な技と言えるだろう。もしそれを躊躇なく実行でき、また実際に遂行できるだけの能力があるとしたら。
今のところかしましい三人組にしか思えないが、油断ならない相手である。
「――もういいわ! 倒せば同じことよ!」
「……それには同感」
「やれやれ」
話がついたのだろう。中心にいたハーピィ――確かマリ姉と呼ばれていた人物――の一声で、三人が一斉にアリアたちを振り向いた。




