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第1話 スケルトン

 Soul(ソウル) of(オブ) the() Monsters(モンスターズ)――通称SotMの正式リリース日。アリアが期待に胸を膨らませてゲームにログインすると、自分が薄暗い洞窟で一体の白骨体に変わってしまっているのに気がついた。


「――えっ? スケルトン?」


 モンスターの姿になっているのはいい。SotMはその名の通りモンスターになれると話題を集めているゲームだからだ。アリアもβテストに抽選で選ばれ、正式リリースに先駆けて一週間ほどプレイしていた。


 しかしβテストの頃に『スケルトン』というモンスターは存在していなかったはずである。いや、正式リリースの今とて初期種族の選択肢の中にはなかった。アリアの目が節穴でなければ。


「って、今は節穴でしたね。……ホネだけに。ふふっ」


 さておき、スケルトンになった原因に心当たりはある。選択肢の中にあったランダム。あれを押したからだろう。βテストでは存在しなかったし、興味本位で選択してみたのだが……まさか初期種族以外から選ばれるとは思いもよらなかった。


 とはいえなってしまったものは仕方がない。嫌ならキャラクターを作り直せばいいだけだ。せっかくなったレア――かどうかは分からないが――モンスターである。しばらくこのままプレイしてみることにしよう。


 そう考え、膝を抱えて座った体勢からおもむろに立ち上がり――。


「あ痛っ」


 カンッという軽快な音を鳴らして天井にぶつかった。視界の左下に表示されていた赤いバーがわずかに削れて黒くなっている。この赤いバーはHPを現しており、その下にはMP用の青色のバーもある。


 ちなみに乾いた音が鳴ったのは頭の中が空っぽだからだろう。もちろんリアルの話ではない。アリアの成績はかなり優秀なほうである。遊ぶ友人もいないので勉強ばかりし……この話はやめよう。


 気を取り直し、肘と膝をついてのそのそと移動する。どうやら壁にできた小さな穴の中にいたようで、すぐに天井の高い場所へ出ることができた。

 立ち上がり、辺りを見渡してみる。


「ここ、どこなんでしょう?」


 プレイヤーは等しくとある島――通称『始まりの島』にてゲームを開始するが、その初期出現(スポーン)場所はランダムで決定される。中にはこういった洞窟もある、と掲示板で見た記憶がうっすらとある。


 今いる場所は、前方にのみ通路が伸び、左右と後ろは行き止まりになっている。いわゆる袋小路だ。例えるならアリの巣の小部屋といったところか。


「もしかして本当にアリの巣だったり……?」


 アリアは見たことないが、アリ型のモンスターがいるという話も目にしたことがある。まあそれもあの通路を進めば分かることだ。

 ただ、その前にステータスを確認しておくとしよう。


 思考操作でメニュー画面を開き、ステータスを表示させる。現れたウィンドウに書かれていたのは『アリア』という名前と種族名、レベル、そしていくつかのスキルだった。


「種族名は『スケルトン』ですか。そのままですね」


 自分の体を見おろし呟く。誰がどう見ても白骨体である。ボロ切れ一つまとっていないが、特に羞恥心も覚えない。しょせんホネだ。そもそもレーティング規制が入っていない以上、大変なことにはならないだろうが。


 それはともかくステータスの続き、スキルの確認だ。


 表示されているスキルは全部で五個。『骨の体』、『暗視』、『闇耐性』、『光弱点』、そして『日光弱点』。なんということだろう、弱点が二つもある。あと『骨の体』って何だ。


「ええっと、『あなたの体は骨で構成されている。刺突攻撃に強く、打撃攻撃に弱い。また食事や睡眠を不要とする』。なるほど、よくある設定用のスキルってことですね」


 火に弱いという記述はないが、よくよく考えれば大抵の生物は火に弱い。ただしスケルトンが生物かは考えないものとする。


 他は名前の通りだった――強いて言えば『暗視』のおかげで暗い洞窟内でも周囲が見えているらしい――のでスキル確認も終わりにする。SP(スキルポイント)があれば新しくスキルを取得できるのだが、残念ながら今の所持SPは0である。


 ひと通りステータスも確認できたし、その間に減っていたHPもしっかり自然回復している。そろそろ動くとしよう。


 カタカタとホネを鳴らしながら先へ伸びる通路を進む。この洞窟はどうやら自然にできたもののようで、道幅が狭まったり広まったりしている。地面にも段差や石が多く、『暗視』があるとはいえとても歩きにくい。ちょっとした段差で何度転びそうになったことか。まだ体に慣れていないためか、動きがぎこちないことも拍車をかけている。


 しばらく悪戦苦闘しつつも進んでいくと、やがて分かれ道に到着した。


「どっちに行きましょうかね? ……どちらでも同じか。道分からないですし」


 なんとなく左手法――迷路の攻略法として有名なあれのことだ――を思い出したので左へ曲がってみる。果たしてその選択が正しかったのか。少し歩いたところで前方から聞き覚えのあるカタカタという音が聞こえてきた。


 ――野生のスケルトンの登場である。


「マーカーは赤。ということはアクティブですか」


 SotMには『人』という種族は存在しない。全てのキャラクターはプレイヤー、NPC関係なくもれなくモンスターであり、ゆえにそれらを見分ける手段が用意されている。それがキャラクターの頭上に光るマーカーである。


 プレイヤーは青色、ノンアクティブな(襲いかかってこない)NPCはオレンジ色、そしてアクティブな(襲いかかってくる)NPCは敵対を示す赤色のマーカーとなる。


 積極的らしい野生のスケルトンはその瞳なき視線をアリアへ向け、ふらつきながらも真っ直ぐに近寄ってきた。彼か彼女か分からないが、白骨体に好かれても微塵も嬉しくない。


 冗談はさておき、襲いかかってくるなら戦うまで。スケルトンになって初の戦闘である。通常の敵、しかも相手も同じスケルトンなら、プレイヤーであるアリアが負ける道理はない。


 野生のスケルトンが大きく腕を振り上げる。遅い――いや、腕の振りに体が追いついていないようだ。かなり仰け反っている。隙だらけの懐へ体当たりをお見舞いすると、野生のスケルトンは背中から派手に倒れ込んだ。


「おや、チャンス」


 馬乗りになって押さえつけ、殴る、殴る、殴る。我ながら脳筋な戦い方だと思うが、武器がないので仕方がない。というか殴るたびにアリアのHPもわずかに削れているのだけれど……。


「もしかして『骨の体』の打撃攻撃に弱いって、攻撃側にも判定があるんですかね……。あ、死んだ」


 何回か殴ったところでHPが尽きたらしい。野生のスケルトンがポリゴンとなって砕けていった。残されたのは長さ40センチほどの一振りのホネ。どこのホネなんだろう、あと何に使えと?


 拾い上げ、振り回してみる。


「んー……素手よりはマシ、でしょうか?」


 絶対に使い方間違っている気がするが、アリアは深く考えないことにした。

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