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さかなっ!


 街なかのカフェで彼女と待ち合わせをしている最中、ある女性に目がいった。

「………。」

 俺はその女性を見て思ったんだ。

(…さかなだ…、うん、めっちゃさかな。ギョギョッって感じだ…)

 アイスコーヒーをちゅーっと飲み、何となーく気になり…ってゆうかさぁ、はっきり言って面白いから、ちらっちらっとその娘に視線を向けたんだよ。

 華奢な身体を強調するふかっとした南国チックなチュニックに、すらっと細く綺麗な太ももを、これでもかーって感じで強調するふわっふわのミニスカート。

 膝下から延びる、これまた細く綺麗なふくらはぎ、きゅっとしまった足首、素足の美しさを強調させる紐の細いミュールも…うん。パーフェクト!顔、さかなだけど…。スタイルは抜群にいい。うん、髪も栗色の縦巻きゆるふわウエーブで中々イイ感じ。

 でも、顔さかなっ!

(恐ろしい程の離れっぷりだなぁ…あの娘の視界は一体どうなってんだろう………)

 俺は時折俯き、アイスコーヒーのグラスを見つめて、笑いで震えそうな肩を堪えて考える。

 ちらっ……。

…鏡出したよ…、

 おいおい、こんな公衆の面前で化粧直すかぁ?

 女性は、ピンクのポーチからリキッドグロスタイプの口紅を出して、唇を直し始めた。


 プフッ……!!

いかん、心の中で吹き出しちまった……。

 口紅、塗りすぎじゃね?尋常じゃなくテカってるぞ!

しかもすっげーぽってりな口だなぁ…

 俺は俯き笑いを堪えて呼吸を整える…。

 もう一回見ちゃうか…


「……………」

「………」


 やっべー!目ぇ合っちまったよ!

慌てて視線を入口に向け、

「あいつ、おせーなぁ」

なんてごまかしてみた。



 ◇◆ ◇◆ ◇◆


(何…あの人、さっきから私の事ちらちらと見てない?)

私はカフェの右斜めちょっと前に座ってる一人の男をちらっと見た。


んー、顔は中の上って感じかな…。

髪型は今ドキ。水島ヒロもどきって感じ?

身体は、うん。細マッチョ?

服装は…ユニクロって感じ。身体のラインを魅せるシンプルなグレーのVネックTシャツに、深緑がかった黒に程近い濃紺のローライズのストレートジーンズ。スニーカーはアディダスかな。


あ、また私の事見たし…

…私って、ほーんと罪つくりな女…♪

やっぱりこのスレンダーなナイスバディと、この愛くるしい顔のせいかしら…♪


私はお気に入りのデコレーションミラーに微笑み前髪を少し直した。

うん♪可愛いいぞ♪私♪



 ◇◆ ◇◆ ◇◆



「……。」

さかなちゃん(勝手に命名)はぱっつんな前髪をちょいちょいと直し、

また鏡を見始めた。

 ちらっ…

「……」

「……」

 うおっ!また目があった!

 さかなちゃんが軽ーく微笑んだ………。

 オイ、何微笑んでんだ…。


 ◇◆ ◇◆ ◇◆


ちょっとぉ…何?

スッゴい見られてるしーっ♪

やっぱりあの人私の事気にしてるーっ♪


そりゃあね、中々いないと思うよ。私みたいに女子オーラガンガン出てる子ってさぁ。


ほら、何てゆーの?

今まで努力して来たものの違いってやつぅ?

わかる人には感じるのよねぇ…♪うん。


私はアイスティーを一口飲み、彼に向かい何度となく小さく頷いた。



 ◇◆ ◇◆ ◇◆


 俺はちょっと嫌な感じがしたから、携帯を開いて見ないふりをした。

 暇つぶしに携帯の釣りゲームを始める。

(おっ♪なまずゲットン♪)


 なまず・・・ブフッ…

 ちらっ……

「……」

「……」

 え゛っ…また目があった…。

 ん???なんかあの娘、そわそわしてないか?

 ちらっ…

「……」

「……」



 ◇◆ ◇◆ ◇◆


はぁ…、しっかり見られてるよ…。

間違いないね。

彼、私に気がある。


んー、でもなぁ…。

私ってこう見えて結構純粋なんだよねぇ…。

何て言うの?

そんなに軽い恋愛しない主義ってゆーか、ナンパとか嫌いだしぃ……。

って訳でごめんねぇー………。

ふふっ♪

私は、ごめんねスマイルを彼に贈った。


あっ!やだぁ!スカートにちっちゃいシミがついてるーーっ!

もーっ!このスカート超お気に入りだったのにぃーっ!!

私はスカートの裾のシミをちょいちょいと撫でた。



 ◇◆ ◇◆



 ぐわっ!まじかっ?

めっちゃ見てるーっ!

 さかなが俺を観賞してるーっ!

 オイ、何流し目クレてんだ コラ。

やべぇよ…俺、誤解されてねぇか?

 ちらっ……

 マジか?その目はなんだっ!

 …スカートの裾、気にするなって。別に見たくねーし、いや見てますけど…。だって、ねぇ…普通見るでしょ?

綺麗な足してたら・・・・。



 ◇◆ ◇◆


あー……、髪大分傷んできたなぁ…。

毛先ぽそぽそ……。

そろそろ美容院に行こうかなぁ。


次は益若ちゃんバリにギャルチックな明るい色にしようかなぁ♪

んー、そしたらリカ、ますます輝いちゃうね♪

んふっ♪まーしょうがないか。だってリカ、こんなに可愛いんだもん♪


てか、まだ見てるし…

結構しつこくない?



 ◇◆ ◇◆



 え?何? 何、その髪をくりくりと触る仕草…。誘ってんのか?アピールしてんのか?

いやいや、大丈夫。俺ちゃんと彼女いますからっ。


 早く来いよ!美咲っ!

やべーよ。俺絶対さかなに勘違いされてるよ!


 そわそわと入口を見つめていると、ようやく彼女の美咲が現れた。

「ごめーんっ!待ったぁ?」

「おせーよ!…なぁ、美咲、ちょっとあそこ見てみろ。」

 俺は声を潜めて、さかなちゃんのいる席を小さく指さした。

「えっ?何?」

美咲はちらっと横目で俺の指をたどる。

「別に何もないじゃん」

美咲は小首を傾げてため息笑いをこぼす。

「え?」

俺はちらっとさかなちゃんがいる方角を見る。

 あ、ほんとだ…いなくなった。

 すると、

「ああっ♪リカじゃーん♪来てたのぉ?」

 美咲は俺の後ろに視線を向け嬉しそうに笑う。


「え、何?友達?」

 振り返る俺・・・・。


 どわっ!!!

 さ、ささかなっ!!


「なあんだぁ♪ミサキの彼氏だったんだぁ♪」


 さかなは、にょべーんと笑った。


 くっ!ヤベー、近くで見るとますますさかなだっ!!ポ○ョじゃねー、リアルにさかなだ。

「さっきから、リカの事すっごくしつこくちらちらと見てくるから、正直困ってたんだよねぇー」


 何だとオイ!ふざけんな!

 さかなの分際で………

「美咲のカレ、リカの足ばっかりみてくるし。やらしーくらい超ガン見って感じ?」

 サカ…いや、リカの発言に俺は悔しいが反論できずにちょっとうつむいた。。。


「…まぁくん、最低…変態じゃん…。」

 美咲はぶうっと膨れる。

「…い、いやぁ…、あ、あのぉ、君の事どっかで見かけた気がしてさあ……。」


 …水族館でな。うん。


「…なんか捻りがない…みんな大体そう言って近づいてくるんだよねぇ」

 いや、口説いてねーよマジでさ。。。

「でも、残念だね♪まーくん。私は友情を大切にする人だからぁ、友達の彼氏はパスだしぃ♪」

 オイ!何ゆってんだ?

勘違いもイイトコだぞ…

「リカ、彼氏は?」

 み、美咲?それ聞くか……?

「いないよぉー。ほら、リカってさぁ、身体目当てとか、軽ーい男って昔から大嫌いじゃん?

なんかね、そんな奴ばっかりに声かけられるから、正直うんざりって感じ?リカ、そんなに軽い女じゃないし。」


 へぇ……そうなんだ。以外に考え方しっかりしてるんだなぁ………。

  …ってか、何勝手に人の横に座ってんだよ。

「だ・か・ら・ごめんねぇー♪まぁくぅん♪」

 は?ごめんねってどーゆー意味だ???

 なんだ?

俺がお前に惚れてるような言い方すんじゃねーよ!

 マジ勘弁してくれ…

俺は美咲を軽ーく睨んだ。

「何よ、まーくん。その顔は………。」

 美咲は俺の顔を見てちょっと不機嫌な顔を覗かせる。

「…あ、いや…、そろそろ出ないと、時間が…」

 プラス早くこの場から脱出したいんだよ。

「あ、そうだね。そろそろ行こうか。」

 美咲は店内の時計に目をやり、頷く。

「えーっ!もう行っちゃうのぉおっ!」

 膨れっ面の…リカ…

ちょ、ちょーちんあんこー…

くっ!面白れ〜っ!

 俺は顔をガッと背け、懸命に笑いを堪える。

「まぁくん、肩超震えてない?

そんなに私と離れるの寂しいのぉ?」

 上目使いで口元に人差し指を添えるのはヤメロっ!


「まーくん…?」

美咲は、心配そうに俺の様子を伺う。

「…あ、ああ。何でもないよ、うん。さて、行こう♪」

俺は何とか気力でもち直す。

「…で、どこ行くの?」


 さかな、いや…リカは尋ねる。

「水族館だよ〜♪」

 美咲は満面の笑顔で答えた。

「いいなぁ〜♪私もお魚さんと戯れたい〜っ♪」

  

 もーあかん・・・

 限界。。。


「鏡、見てごらん。そうしたらいつでーもお魚さんに会えるよ♪」

 俺はリカの肩をぽんっと叩いた。

「……やだぁ…♪まぁくん…私の事…マーメイドみたいって思ってるのぉ?ダメだよぉ、ミサキがヤキモチ妬くって♪」


 んーーっ、なんつーポジティブシンキング!

 もー無理。我慢の限界だ………。

「アホかーっ!!人魚じゃねーだろっ!あんた、魚人だよっ! ぎょ・じ・んっ!とっとと魚人島に帰れっ!」


 あーあ…言っちまったよ…………。


「…………。」

俯き黙りこんだリカ…。


(やべえ…言いすぎたか……)


 パシッッ… ……

「……ってぇー……」

 俺は突然襲った右頬の痛みに面食い、美咲を見つめた。


「最低だよ、まさひこ……。酷い!言い過ぎだよ!リカは私の友達なんだよ!!」

 美咲は切れ長の目をキッと吊り上げ俺を睨みつける。


「……。」

 リカは俯いたままで、小さく肩を震わせている。

「あ、あの…さ、そ、その…………」

 ヤバイ…マジヤバイ。


「……っ…」

「!!!」

「!!!」

 泣いた???

うそっ、どーしよー!!


「…っ…ふっ…ふふっ……くっ………………………あーっはははっ♪♪」


 えぇええええーーっ!

笑ってる!めちゃめちゃ笑ってるよーーっ!!


「まーくん、超ウケるよーっ!魚人って、

「ONE PIECE」じゃん♪リカも

「ワンピ」超読んでるしーっ♪あれマジ面白いよね〜っ♪ミサキ、あんたの彼氏洒落効いてて超面白い人じゃあん♪」

 リカは、手を叩いて大ウケしてる………。


「リカぁ……。」

 美咲はホッとした表情を浮かべ、俺の腕を肘で(謝れ!)と突く。

「あ、あのさ…」


その時である。



「しつけーんだよ!ブース!!」


カフェ内に怒声が響く。

俺達含めた客が皆一斉に声の方に視線をやる。


「…遊びだったの…?」

女の子が俯き泣いている正面で、

「オメーみたいなブスに少しでもいい夢見させてやった事に感謝して欲しいくらいだぜ!」


男はタバコの煙を女の子に吹きかけた。


「…ひどい…」

 美咲は拳を握り唇を噛み締める。

 確かに酷いな……。

でも、俺達には関係な…………い?


 ツカツカ…と、二人に歩み寄る……

「リ、リカちゃん?」

 嘘だろっ?ヤバイって!何するつもりだ!


 リカは、タバコを吹かす男の前に仁王立ちし、

「つうかぁー、あんたも人の事言えるような顔じゃないしーっ♪はっきりいって、ブサメン♪」

「はぁあ?何だ?お前、さかなみたいな顔して」 男は鼻を鳴らす。

リカはスルーして泣いている女の子を見つめる。


「うん。あんたも超ブス♪」

 リカはにっこりと笑った………。

「こーんなブサメンにブス呼ばわりされて悲観して泣くなんて、ブスと呼ばすに何て呼ぶの?って感じ。」

女の子は顔を上げて、リカを見つめた。

「何なんだ?テメー……さっきからよー…」

 男は椅子を蹴飛ばしてリカを威嚇する。

「黙れ、ブサメン、あんたに用はねーし。てか、喋りかけないで♪ブサイクがうつるから♪」

リカはにっこりと笑う。

「何だと…ブスがイキガッてんじゃねーよ!!」

 逆上した男はリカに殴りかかろうと拳をあげる。

「………。」

 瞬間………………。

リカの細く長い足が鞭のようにしなり、男の側頭部目掛けて放たれる。


 は、ハイキック…………………………。

 しかも、なんちゅう綺麗な決まりかた・・・・


 まさにア然・・・

リカは振り上げた足を綺麗に着地させ、軽ーくぴょんぴょんとリズムをとる。

 もちろん、男は一発KO・・・・・・・



「うーん、リカのハイキックはいつ見ても綺麗♪流石は元ムエタイのジュニアチャンピオン♪」

 美咲はうっとり。

「え゛……?マジ?」

 俺は背中がさーっと冷たくなった。



「女をなめんな、ってかーんじ?」

 リカはにっこり笑って、

「よし、逃げよーっ!」

 女の子を連れてダッシュでカフェから去った。


 美咲と俺も後を追う。



 ◇◆ ◇◆



「まーったく、あんな質の悪いブサメンに言いたい放題言われて、あんたプライドないわけぇ?」

「…………。」

 私は気押されしつつ、目の前でぷんと怒る栗色の巻き毛の女の子を見つめた。


「だって……私、ブスだから……。」

 目線を落としてつぶやく私……。


「うん、ほんっとブスだね。」

 彼女は声を大にして言い放つ。(ひ、ひどい…そんなにはっきり言わなくても………)


「努力すれば人間変わるのに、自分を悲観して変えよう、変わろうとしない、心ん中超ブサイクな奴って、見てると腹立つんだよねーっ。」


 私は、はっとして彼女を見つめた。

「つまんなくない?

人の顔色伺って生きるなんてさぁ。なんの為の自分なわけ?」

 彼女は私に人差し指を向ける。

「自分にプライドを持て♪みたいな♪人生一度きりなんだから、楽しくなくっちゃ♪ねっ♪」


 彼女はとびっきりな笑顔で私の肩をぽんっと叩いた。


「……うん、そうだね………ありがとう。」

 私は彼女に笑顔を向けた。

「うん♪今のスマイル、いいよぉ〜♪じゃね♪」

 もう一度彼女は笑顔を向けると、くるりと背中を向け、颯爽と歩いていった。


 努力すれば人は変わる………か。

 素敵な人だなぁ…。

 きっと、彼女も努力してきたんだろう。


 私には、彼女がとても輝いて見えた。


「…頑張ろう…うんっ」

私は両手を胸の前でぐっと握った。




 ◇◆ ◇◆



「なーんかさ……。」

 俺はリカと女の子のやり取りをみてつぶやいた。

「十分反省したみたいだね、まーくん。」

 隣で美咲は笑う。

「人の価値ってね、見てくれや環境じゃない。

あの子は私にそれを教えてくれたの。

『自分に正直に、心も身体も磨く事。それに向かい努力する事』それがね、強くて優しい人間に繋がるって事。」


「……ああ、そうだな……。」

 十分すぎるくらい納得できた。

 俺はあの時、逃げたけど、リカは逃げなかった。偏見の塊のような野郎をぶっ飛ばし、それどころか、俯いて泣いてた女の子の心まで救っちまったんだから……。


「ミサキー♪」

 リカが駆け寄る。

「リカーっ♪超カッコよかったよぉっ♪ハイキック♪」

美咲は笑う。

「もぉーっ!あんなに人がいっぱいいる中で超恥ずかしかったんですけどぉーっ!

…まーくんパンツ見たでしょ…。」

 リカは俺をじとーっと睨む。

 う゛……なんでバレてんだ・・・・・

「ばっ!な、頼まれたって見るかっ!」

 俺は焦ってどもる。

「まーくん…さいてー……………」

 美咲はジロッと睨むが、すぐに笑顔に変わる。


「そんな事より、早く行こうよぉ〜、水族館っ♪」

リカは美咲と俺の間に割って入り、3人で腕を組む。

 なんで…お前まで一緒……?なーんて、そんな事もう思わねーよ。

「ってかさ、腕を組むのはどうかと思うよ。」

 俺は一言もの申す。

「照れるなって♪嬉しいくせにぃ♪」

 リカは笑う。

美咲も、

「あんたの負けよ」と言いた気に笑う。


 ああ…確かに負けたわ。清々しい完敗ってやつだな。



 俺は空を仰いで小さく笑った。




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