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相性診断

 

 人との巡り会わせって、プラスもあれば、マイナスもあると私は思う。

 男女の付き合いなんて結構そうゆうのが激しいと私は思うんだ。


 好きだけじゃなく、互いに尊重しあい、一緒にプラス成長していくカップルもいれば、どこか足を引っ張りあって、結局堕ちていく、マイナスカップルもいるわけで……。


 それから、男女共にこんなケースもあると思うの。

 

 今まで何事もなく平穏無事に過ごしてきたのに、その人(異性)と付き合い出してから、立て続けに不幸に見舞われる。

 −−何かしら、目に見えない運気の流れが変わるって言うのかな…?


 −−−そういえばこの間、テレビで五月蝿くわめき立てる有名な占い師が言ってたっけ…。

『生まれもって守護する星同士の相性が悪いと、運気が下がり不幸になる−−−−』って。


 場合によっては、『命を落とす』危険性もあるって…………。


 何故そんな事を思うのか……?

 だって、今まさに、私がその状態だから………



   § §



 私と彼…進と付き合い出して約2ヶ月。

 きっかけは、コンビニのバイトのシフトが一緒だったって事。

 夜10時から、深夜1時までの3時間、店に二人きりで、仕事をこなしながら、色々なたわいもない話をしているうちに、何となくお互い惹かれるモノを感じて…


 告白してきたのは進のほうからだった。


 勿論私も進が好きだと思ってたから「うん」と即答した。

 

 進は私より2つ歳上の24歳で日中は会社員。

 就職して2年目になるけれど、この不景気の為収入が減ってしまい、社会人になった記念にと奮発して購入した、車のローン返済がキツくて、会社に内緒でここでバイトしている。

 私は大学在学中の必死な就職活動も虚しく、働く会社が見つからない、就職難民で。

 でも、両親は健在で働いているから、生活には困らない。両親からは、「携帯電話の料金と遊ぶお金くらいは自分で稼ぎなさい。」と言われる程度の、気楽な生活を送っていると言うわけ。

 

 


   § §



 進と付き合い出して2日後のバイトの日に、突如としてそれは起こった。


 時刻は午前0時30を回り、私達はいつものようにお弁当やおにぎり、デザート、パン等の期限切れを回収する作業に取り掛かった。

 

 その時、黒いフリースのフード付きパーカーのフードを深くかぶった、見た目痩せ型のちょっと怪しい男が来店したのだ。


「いらっしいませ…」

 進も男から放たれる、何かしら不穏な空気を感じ取り、私に小さく(バックヤード《倉庫》に入れ)と目配せした。

 私は、目だけで小さく頷き、男の視界に入らないように身を屈めながら、息を潜め、そっとバックヤードへ向かい歩いた。


 しかし、男は万引き防止のミラーで私の姿を捕らえ、早足でバックヤード手前まで迫って来たのだ!

「ユウナ!」

 進は私の名前を叫び走り出したけど、その瞬間−−−−男は私の目の前に立ちはだかり、果物ナイフを突き付け……

「金……出せ。」

 と鬼気迫る顔で詰め寄った。

 私は恐くて足がすくみ、その場から動けなくなってしまった。

 男はそんな私の後ろを取り、私の首に左腕を回して背中に果物ナイフを突き付け、レジカウンターへ歩けと促す。

 進は先にレジカウンターへ走り、両替ポタンを押してレジを開け、中に入っているお札を全て出して店で1番小さいビニール袋に詰めて男に差し出した。

「…………。」

 男は無言でそれを受け取ると、私を乱雑に離し、突き飛ばし−−−−− 猛ダッシュで走り去った。

 突き飛ばされた私は、レジの対面のガムの陳列棚の角に突っ込んだけど、怪我はなく無事だった。

 進はレジカウンターについている緊急用の防犯スイッチを押して、茫然自失の私に駆け寄り

「大丈夫か!」

 と私を包み、身体を抱き起こした。

「…………。」

 進の体温を感じて、緊張が解けると同時に目からぼろぼろと涙が零れて、

「こわ…かったぁ………………」

 進にしがみついてうわんうわん泣いてしまった。

「ごめんな…、俺がついてたのに、怖い思いさせた……。」

 不可抗力なのにも関わらず、そう私に謝る進。

 私は泣きじゃくり、声が出ずに(進は悪くない)と首を横に振るのが精一杯で………。

 

 それから、10分程経ち、次のシフトの二人とほぼ同時に、コンビニのオーナーとパトカーが到着し、私と進はオーナーを交えて警察に状況説明や犯人の特徴等を話して、念のためにとパトカーで自宅まで送り届けて貰った。


 

 私は翌日、バイトをやめた。

 当たり前。あんな恐い思いをして、続けられるはずなんてない。

 進は、強盗事件がきっかけでバイトをしていた事が会社にバレて、バイトを辞めざるをえなくなり、私達はバイト先で会うと言う幸せな時間を失ってしまった。



   § §



 それから、私は日中のバイトを探して、街の賑やかな通りにある、フランチャイズのオープンカフェのウエイトレスのバイトを始めた。

 賑やかなところならば、恐い思いと遭遇する確率もうんと減るだろうと思ったんだ。


 進は、平日私のカフェの近所のチェーン店の居酒屋の厨房内で同じ時期にまた、会社に内緒でバイトを始めた。

 休日はお互いが会う為に休みを合わせて、進のアパートでのんびりとDVDを観たり、ゲームをしたりして1日を過ごした。



 進との付き合いは何事もなく順調で、カフェのバイトにも慣れ始めて、ちょうど1ヶ月が過ぎた頃。

−−−またとんでもない災難が私の身に降り懸かった……。


 平日の午後。ランチタイムが終わり、静かになった表のカフェテラスを、私と同じ歳でバイト仲間のみちかちゃんと一緒に清掃していた。

 みちかちゃんは左側の奥のテーブルをダスタークロスで拭いていた。

 私は右側の手前のテーブルを道路を背に拭いていた。


 その時、


「キャーーッ!!」

 みちかちゃんの悲鳴。

ガシャーーーン!と鼓膜を引き裂くような凄まじい音。


「……え…?」

 振り向いた私の目に飛び込んできたのは、シルバーの車のボンネット。


 鈍い衝撃−−。それとほぼ同時に、一瞬で視界が暗くなった。




 目を開けると、白い部屋。

 頭がズキっと痛んだ。

「ユウナちゃん!」

 視界の左端には、泣き顔のみちかちゃん。

「……一体私…どうしちゃったの?」

記憶があやふや…。

「…カフェに、脇見運転の車がいきなり突っ込んできたんだよ…。ユウナちゃん…突っ込んだ車に巻き添えになって……」

「ああ…、だからか。シルバーの車のボンネット……。」

 私は小さく笑った。

「ユウナちゃん、咄嗟に身を屈めたからね、テーブルが盾になって車の直撃は免れたんだよ。怪我も打撲だけだって。CTも撮ったけどね、どこも異常なしだったって。」

 みちかちゃんは私の左手を摩りながら、

「よかった、本当によかった……。」

 ボロボロ泣いちゃって…。無理もないよね、だって、みちかちゃんもあの場所にいて、事故を目の当たりにしちゃったんだから……。

「…なんか運がいいんだか悪いんだか、訳わかんないよね。」

 私はみちかちゃんに笑いかけた。

 こんな短い期間に立て続けに災難に見舞われて……

「ねぇ…、ユウナちゃん、…ユウナちゃんの彼氏って、歳幾つだった?」

 みちかちゃんは突然私にそう尋ねてきた。

「今年、24になるけど?」

「……ねぇ、…もしかして、ユウナちゃん彼氏の厄災、かぶってるんじゃない…?」

 みちかちゃんは不安げな顔を私に向けた。

「え…?どういう事?」

「彼氏、24になるって事はさぁ…厄年の真っ最中なわけでしょ?

 ユウナちゃんさ、彼氏と付き合い出してから、立て続けに危険な目に遭ってるじゃん…。ほら、厄災って、本人が受ける事もあれば、周りがかぶる事もあるって……」

「……ま、まさかぁ…」

 私は小さく笑ったけど、心の中はみるみるうちに不安になっていった。

「厄除けのご祈祷とか、彼氏に行って貰ったほうがいいよ。」

「………そうだね…、……そうかもしれない。」



 私はみちかちゃんのアドバイスを受けて、進に厄除けのご祈祷をして来るようお願いする事にした。


 進も、流石に私の身に立て続けに起きた災難を心配して、素直にそれに応じてくれた。


 カフェのバイトはやっぱり辞めた。

 みちかちゃんとは、バイトを辞めてもいい友達として続いている。


 私は立て続けの災難にバイトする事に少し抵抗を感じていた。

 しばらくはのんびり心の傷を癒しなさいと母は、私に無理して働く事を奨めなかった。私もそれに甘えさせて貰う事にした。




 カフェでの事故から3週間が過ぎたある日。

 私は近所の本屋でファッション誌を手に取る。

 普段は別のファッション誌を購読しているんだけど、見出しの特集記事が気になり、読み出した。

 特集記事の内容は、

『運気を上げる相性、運気を下げる相性診断』

だった。

 パラパラと簡単にそこに目を通して、何となく購入して家へ戻った。



 部屋に入り、メモ用紙とボールペンをテーブルに置き、先刻の雑誌の記事を開く。

 雑誌には、生年月日を足して出た数字を早見表と照らし合わせて書いてある数字から自分と相手の守護神を導き出すという感じのものだった。


 進の守護神は『火を司る者』

 私の守護神は『木を司る者』

「……相性…最悪じゃん……。」

 ちなみに、火と相性がいいのは、火でしかなく、木と相性がいいのは、水である事がわかった。


 記事を読み進めると、不安になるばかりだった。

『火が男性の場合のカップルは、受難。浮気、金銭トラブル、避けて通れない困難に陥る事もあります』


 猛烈にへこんだ……。

 でも、占いみたいなものだもん……。きっとアドバイスもあるだろう。

 そう思い、更に読み進めると、


『難しい組み合わせです。過去芸能人でこの組み合わせで破局したカップルは−−−−−−』


「え…、嘘…、この人達も?…この人もそうだったんだ………………」


 私は雑誌を閉じて俯いた。

「……全然アドバイスとかない。それくらい組み合わせが悪いって事なんだ………………。」


 完全に猜疑心の塊となってしまった。

 進の事は大好き。

 でも、でも、……

やっぱり恐い思いをするのは嫌だ。

 今はまだ軽傷で済んでるけど、この先、更に災難がエスカレートしたら………。


 私はテーブルに突っ伏して、悩みに悩んでみちかちゃんに相談メールを飛ばした。


 その日の夜、みちかちゃんと電話で色々と話した末、私は進と別れる事を決意した。

 好きよりも恐いと言う気持ちのほうが強くなってしまったんだ。そんな状態で進と楽しくいられる訳がないし………。



 次の日、私はメールで一方的に進にさよならを告げた。

 進の携番も、メアドも全て消去したら、何だかちょっと胸がすっきりした感じがした。


 これで、もう恐い思いをしなくて済むんだ。

 そう思ったら、何故だか急に外に出たくなった。


 私は久しぶりに大学の時の友人の加奈子に連絡して、夕飯をする事にした。

 駅近くのカジュアルでリーズナブルなイタリアンレストランで二人話す内容は、あの雑誌の相性占いの事だった。

 加奈子は占いとかオカルトチックな事が大好きで、かなり詳しい。

「ねえ、携帯サイトでさ、ものすごくよく当たる占いがあるんだよ。」

 加奈子は携帯を開き、サイトに接続して、

「サイトのアドレス、飛ばしてあげる♪新しい恋を探すのに役立つからさ♪」

 そう笑った。

「新しい恋か……。」

 進の顔が頭を過ぎる。


「…そうだよね♪恋、しなきゃね♪」

 私は進を払拭するかのように明るい声で笑った。




 その日の帰り道。

時刻は9時前。

 私は、加奈子に飛ばして貰った携帯サイトの占いを閲覧しながら家路を歩いていた。


 自分から一方的に別れておきながら、占うのは進と私の相性……。

 未練がましい、馬鹿馬鹿しい事だとは解っているけど…。


 サイトに進の名前と生年月日と、私の名前と生年月日を入れて結果を待つ。


 数秒後、結果を見て私は歩く足を止めた。


『あなたと彼の相性は、ほぼ100%!運命の二人と言っても過言ではありません−−−−−』


「え………?」

 私は携帯の画面をスクロールさせる。


『あなたの運気は今、非常に下降気味です。立て続けに災難に見舞われる暗示が−−−−−

 しかし、彼の強い運気がそれを中和して、あなたを守ってくれるので、大事には到らないでしょう。』


 身体中の血がサーッと下へ引く感覚に陥り、膝が震えだす………。


『ただ、気をつけて欲しいのは、この時期に彼と別れると、今まで守られていた彼の運気が無くなり、場合によっては怪我や病気やトラブルの要因になりかねないかも。』


−−−その時、

「!!!」

 急に背中に走る激痛。

 詰まる息−−−。

振り返ると、黒いフードをかぶった…あの時のコンビニ強盗の男が、下卑た笑いで私を見ていた………。

 再度背中に走る痛み。

何かが引き抜かれたような痛み………。


 足元から崩れ落ち、俯せて霞む目で男を見つめると、手には鮮血が滴るナイフが−−−−。


 男は私のバッグを手にして走り去る。


「……なんで…か…なぁ…?」

 携帯のディスプレイを見つめて小さく笑った。






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