着ぐるみっ!2
(9月だというのにさ、何なのさ!この暑さは!)
私はコンクリートだらけの街なかで、本日リニューアルオープンしたアミューズメントパークの前の路上で、猫の着ぐるみに身を包み、道行く人にポケットティッシュを配りながら、心の中で怒り叫ぶ。
「あづぃぃ……死ぬぅぅ
(*_*)」
隣のパンダの着ぐるみの中身(堀田クン)が悲壮感漂わした声を漏らすので、
「もーダメ!ちょっと休憩しよっ!」
仕事を中断して、アミューズメントパークの中にある休憩室に逃げこんだ。
着ぐるみの頭をすぽんっと取り、
「ぷふわぁぁあっ!!!マジ暑すぎるっしょ!」
休憩室の小さな冷蔵庫に入っているミネラルウォーターをゴクゴクと喉に流し込み、着ぐるみの体もいそいそと脱ぎ捨てた。クーラーの前に立ち、冷たい風を浴びながら体の熱を冷ます……。
堀田クンは、スチール製のパイプ椅子に腰を下ろして、かぶりものの頭も外さずに、ぐったりとしている。
「堀田クン、大丈夫!?」
私はちょっと心配になって、堀田クンのパンダの頭をすぽんと取り、顔を覗き込んだ。
「うぇっへへぇ〜・・・
彡(~▽ ~;)彡」
うわっ!!マズイっ!
堀田クンが壊れかけてるっ!!
目が虚ろで焦点が合ってない!てか、笑顔が超怖い!
私は慌ててロッカーからタオルを出して手洗い場で濡らして、それを搾り、堀田クンの首の後ろにあてた。
「堀田クン、しっかり!」
声をかけると、
「うぇっへへぇ〜…♪
(*´-`)ノ」
だから、その笑いかたキモいって!とか思ったけど、熱中症とかなんか恐いからとりあえず
「しっかりして!堀田クン!」
と、タオルで顔の汗を拭いて、呼びかけた。
すると、
「前田さぁん、ティーシャツガ、スケテルヨ……ムヒッ♪(*´-`*)-♪」
「はぁ???」
なんかカタコトで聞き取り辛いよ…、声が。
「水色ぉ♪うぇへっ♪
(°∀^*)〜♪」
「水色??」
水色?水色?みずいろ……ん?…み、水色…?
私は恐る恐る自分の胸元に視線を落とした。
「・・・・・・」
白いティーシャツが汗で… す、透けてるっ!!
「ほ、ほ、ほぉったぁぁあっ!!まさかさっきからのあんたのあの、不気味な笑いって……」
「ゴチになりやしたぁ♪
(#^.^#)ノ☆」
「死ねっっ!!!」
ばきっっ ………。
「ぐ、ぐっじょぶ・・・
がはっ…(Д)°°」
ガクッ。。。
顔面ワンパンチで、幸せそうに鼻血垂らして床にねんねする、堀田(もう呼び捨てじゃ!アホっ!)に、私は吐き捨てる。
「……ふんっっ!真面目に心配して損したっ!
もう、熱中症になろうがなんだろうが!二度と心配してあげないからっ!」
私は着ぐるみの、体を装着して、パイプ椅子の前の木目調のテーブルにドカッと腰掛け、ミネラルウォーターの残りをゴクゴクと飲み干した。
「ああ…、残念だ。
(_ _;)|||」
堀田は床に頬をつけ、小さくつぶやいた。
「黙れエロ仙人。よしっ!休憩終わりっ!さっ!行くよ!」
私はテーブルからぴょんと降りて、堀田にクイっと手招きをした。
「待って!俺まだ水分補給してないし!(>_<;)」
堀田は慌てて冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出し、ゴクゴクと喉を潤す。
「…ねぇ、あんたさぁ、着ぐるみのバイトっ初めて?」
ふと尋ねてみたくなった。
「ううん。俺ね、今のバイトの前は、遊園地でヒーローショーの、レッドの中身やってた。
(⊃°−°)⊃)三☆
その前は、デパートの中でうさぎになって風船配ってたし。(*^.^*)」
「…にしては体力ないわねぇ…。でもなんで着ぐるみのバイトばっかりしてんの?」
私は更に尋ねる。
「ほら、着ぐるみってさぁ、中身どんなでもアクションが可愛いけりゃ、人にいじって貰えるじゃん?(^^)\(゜-゜*)
俺ぇ…、実はめちゃめちゃ人間ってのが好きなんだけどさぁ…、面と向かってコミュニケーションとるの、あまり得意じゃないんだよ、実は・・・
(´Д`)=3」
少し声を沈ませて、堀田はため息をこぼした。
「…にしては、結構べらべら喋ってんじゃん。」
「前田さんは、なんか話しやすいから(´-`)=♪」
パンダの中でくすっと笑う堀田。
「あっそ。一応ありがとう。」
返答はそっけないものだけど、ちょっと嬉しさを感じて、私は猫の中で小さく笑った。
「ねえ、前田さんはどーしてこのバイトを選んだの? (゜o゜)?」
堀田の問い掛けに私は迷わず、
「ギャラが破格だから。今時日給10000円は中々ないっしょ?」
と即答した。
「へぇ…、何か目標とかあるの?(゜0゜)/-?」
「あるよ、でも秘密。」
ふふんと鼻を鳴らす私に堀田は、
「秘密って…、なんかちょっと興奮を誘う響きだねぇ…♪
ムフフッ(*^人^*)ノ」
「…キモい事言うな。もうワンパンチ食らわすわよ……。」
私は猫の着ぐるみに身を包んでいる為、大袈裟に指をパキッと鳴らすゼスチャーをしながら、変態パンダマン堀田を威嚇する。
「あ〜んっ!ダメダメっ!暴力反た〜いっ!
三三(ノ`O`)ノ」
わははっと逃げるパンダ……、いや堀田。
私はため息笑いをこぼして、
「全くぅ…、何あいつ……、ほんっとおかしな奴ぅ……♪」
着ぐるみらしくコミカルに歩く。
外はまだまだ地獄のような暑さ…。
でも、ほんの些細な休憩で息を吹き返した私は、大いに愛想を振り撒き、
道ゆく人々にポケットティッシュを配る。
無言で歩きながら受け取る人、目もくれずシカトして通り過ぎる人…。
お腹を撫でてくるちびっ子や、中身(顔)を覗き込もうとする人…(営業妨害だぞっ!こらぁっ!)
沢山のいろんな人が私と堀田の前を流れて行った…。
名前も何も知らない沢山の人……。この沢山の人、一人一人にその人だけの人生があるんだ。
…私はふと思った。
この沢山の人の中で誰か、私の人生に関わる人間がひょっとしていたりして……と。
有り得ない話でもあり、有り得る話でもあるかも……。
まあ、ほぼないってわかってんだけどね。
だって実際、ティッシュ配った人間の顔なんて、ほとんど覚えてないし、ティッシュを受け取った人からして見れば、私からではなく、猫の着ぐるみにティッシュを貰ったわけだし……。
パンダ姿の堀田をちらっと見た。
休憩前とは違い、とても元気いっぱいだ。
両手にポケットティッシュを持ってフニャフニャと腕を波打たせてくるくる回ってる……。
ってか…なんだよ、その変な踊りは・・・
道行く人々が堀田パンダを見てくすくす笑いながら通り過ぎていく。
(ほんと…変な奴ぅ…)
私は着ぐるみの中で小さく口角をあげた。
堀田は人とコミュニケーションを取るのが苦手と言う。
でも、人が好きだと笑う……。
「…………。」
なんだろ…。
堀田と言う人間が、めっちゃ気になる…………。
恋じゃない。そこは全力で否定する。
そういう感情じゃなくて、なんか気になるって言うか、あいつにずっと聞きたい事がある……。
バイトが終わり、駅へと歩く堀田に、私は思い切って聞いてみた。
「ねえ、堀田…。」
「…ん?何(゜▽゜)?」
「あんた、何で会話の最後に絵文字ついてんの……?」
私はずーっと気になっていた。堀田の謎の絵文字が……。
「……あははっ♪(^O^)」
「???」
「あはははっ(^O^;)♪」
「…ォイ。」
質問に答えずに笑う堀田は…
「あははははははははははははははははは〜っ
三三三(ノ><)ノ」
笑いながらダッシュで走り出した。。。
「ォオイっっ!!
何故逃げるっ!!!」
「じゃあね〜っ♪(^O^)/前田さん、また明日ぁ〜
(^_-)-☆」
手をぶんぶん振りながら、堀田は走り去って行った……。
「待てえっ!質問の答えになってないっ!!」
私は笑いながら堀田を追い掛けた。




