ガキンチョ狂騒曲(前編)
「ちきしょー…、どうしてこんなことになっちまったんだろう…」
俺は五年三組の教室の中、北側の一番後ろの席に座って机の下に突っ込んだ両手を、これでもかっ!!!てくらいギューッと握りしめて小さくつぶやいた。
(ちきしょー…ちきしょー…)
悔しさで噛みしめる奥歯に力をこめつつも、今自分が置かれてる状況を必死で考える。
「ドンマイユウジ、そんなにしょげるなって」
前の席から俊太が苦笑いしらながら俺に励ましの言葉をかけてくれるが、しかし、
「よお、エロ魔神。また三宅のスカート狙う計画たててんのか?」
クラスメイトの岩木が楽しそうにニタニタとした顔で俺の肩に手を置いた。
そんな岩木の手を払いのけ、キッと睨み付けてやりながら、
「わざとじゃねーって言ってんだろ!!!ホンっトお前は、しつけーなあ!!!!」
俺はいい加減頭にきて机を叩き、怒鳴り声をあげた。ちなみに、今は四時間目の前の五分休憩。
事件が起きたのは二時間目の体育の前だ。
そして、これをコイツに言われたのは、この短時間でもう五回めだ。本当岩木はしつこくてうぜーし。いくら温厚な俺でもさすがにキレるぞ。
「あっ!!!三宅が来たぞーっ!!!」
岩木の仲間の鈴川の声に、思わず怒りを忘れて体が緊張で跳ね上がりそうになる俺。くそぉ…情けなねえな…俺。
教室の北側の前方の引き戸を開けて、同じクラスの女子二人の間に挟まれて、体操服にフードが着いたトレーナーを着て、大層不機嫌な顔の三宅まりのが教室に入ってきた。
「三宅ーっ!エロ魔神がまたお前のパンツ見たいってよーっ!」
岩木と鈴川は手を叩き笑いながらクラス中に響き渡るくらいの大きな声で三宅をあおる。
「パンツなんて見てねーしっ!!!三宅は黒い《ももひき》みたいなの履いてたし!!!」
俺の言葉に、三宅は体をぷるぷると震わせて、
「もっ、もっ、もひきじゃねーしっ!!レギンスも知らねーのかよ!ダッサッッ!!てか、ふざけんなよ!!死ねっ!クソエロ森山っ!!!」
烈火の如く怒り狂った三宅は、ランドセルを俺に思い切り放り投げてきやがった。
「いってぇええな!!!
レギンスなんて知らねーしっ!!!寒くて履いてるもんだから、ももひきとそんなに変わんねーだろ!!!」
俺は兄弟に女はいないし母ちゃんはスカートなんて滅多に履かないから、《レギンス》なんて洒落た名前はもちろん知らない。
三宅のそれを見たとき、頭に浮かんだのは、父ちゃんが背広のズボンの下に履いてる黒いももひき(ウオームインナーとかいうらしいけど、父ちゃんはももひきってだっていってるぞ!)
「ひ、ひ、人のお気に入りのワンピース破っときながら!!何逆ギレしてんだよ!!
死ねーーーーーーっ!!こぉのエロガッパァアア!!!」
「うるせーーっ!!!わざとじゃねーって言ってんだろうが!!!
大体お前みたいなクソサルのパンツになんて、興味ねーし、見たら逆に目が腐るし!」
「はぁあああ!?
私がサルならあんたはゴリラだわ!!!変態ゴリラ!!!
エロザビエルっ!!!」
「ざっ!!ザビエルっていうなぁあああっ!!!俺ハゲてねーしっ!!!」
小学生(高学年)には何故か知らないけど屈辱的な呼び名『ザビエル』と叫ばれてしまえば、もう罵り合いに歯止めは効かない。
男子はエキサイトする俺と三宅を見ながら、やんややんやと笑いながら盛り上がり、女子は三宅の肩を持ち、「最悪!」やら「変態!」やら「あやまれ!」とか、ギャーギャーと吠えやがる。
「クルァアアーーッ!!!!
授業始まるのに、何をギャーギャーやってんだよ!!」
「「!!!!!」」
担任の川島先生の怒鳴り声で、クラスは数秒しーーーんと静まった後、あわててみんな自分の席に着いたのだが、
「だって森山が私のことクソサルって言ってきたんだもん!私のお気に入りのワンピース破いたくせに!!」
「お!お前だってエロガッパとかゴリラとかエロザビエルとか散々言ってきただろーがっ!!!」
先生は、俺の言葉を聞いてうぷぷっ、と吹き出しつつも、
「ザ、ザビエルは馬鹿にしちゃいかんぞ。くくっ。ザビエルは歴史的には偉い人なんだからな」
じゃあ、先生、なんで明らかにザビエルに反応して笑ってんだよ……。
先生を見て、クラスのみんなもクスクスと笑ってんじゃんよー。
その時、四時間目を告げるチャイムが鳴って、
「とにかく、授業が始まったから。ほれ、日直、号令かけろ」
川島先生は、誤魔化すような咳払いをして教卓に教材を置いた。
俺は煮え切らない思いで両拳を握りしめて、教卓の真ん前の三宅を睨んでやった。
俺の気配に気付いた三宅は、ギロリと俺を睨んで、口をパクパクと動かす。
『ザ ビ エ ル』って言いやがった。間違いねー。
そんな三宅の頭に、先生用の教科書がパカンっ、と降ってきた。
「三宅ぇ~、授業始まっただろ?」
にこやか~に笑う先生の目は笑ってなくて、ちょっと怒ってるように見えた。(ザマアミロだぜ)
頭をさすりきっと不服そうな顔をしてるだろう三宅を想像したら、思わず、うけけっ♪て笑ってしまいたくなった。
◇
俺が三宅のスカートを破ってしまたのは、絶対にわざとじゃないんだ。
体育の時間の前に体操服をロッカーに取りに行く時に、椅子に足を引っ掛けて転びそうになって、危険回避の為に咄嗟に掴んじゃったのがたまたま三宅のスカートだったんだ。
そして後ろ向きだった三宅の薄い布のフリフリしたワンピースのスカートの腰のところのつなぎ目がビリっと破れて、ももひき――じゃないや、レギンス?の尻の部分が丸出しになっちまって、 クラスが騒然となり、女子からは怒りの悲鳴が、そして男子からはげらげらと笑い声があがっちまった。
三宅は恥ずかしさと悔しさで、半泣きしながら俺を怒鳴り散らし、体操服が入ってる袋で散々殴りやがった。
もちろを言い訳、弁解、謝罪はしたよ。でもあっちはそれを全く聞きやしなかったわけで…。
でも冷静になって考えたら、その後、ワンピースが破れた三宅は学校が終わって帰るまでずっと体操服でいなきゃいけないんだよな。
しかも、それはお気に入りだったとも言っていたし……。
そりゃあ、スゲームカつくだろうなぁ…。
(うーーん…、悪気はないけど、結局悪いのは俺なんだよなぁ…)
でもでもでも、俺だって、ムカついてんだよ!!
クソ岩木に、わざとじゃねーのにエロ魔神だと何度もからかわれて笑われるし、女子からは変態扱いされるし、三宅本人だって俺をエロザビエルとかエロザビエルとかボロクソ言いやがってよーっ!!!
(クソォオ・・・思い出したらまたムカついてきた)
悶々と考えながら、消しゴムを鉛筆でプスプスと刺してると、
「はい、森山ぁ、次読め」 いきなり先生に名前を呼ばれて、
「へっ???」
授業なんて全っ然聞いてなくて、焦ってあわてて教科書をめくる。つーか、どこ読むのかわかんねーし。 焦って適当に教科書をぺらぺらめくる俺に、
「二十八ページの③だよ」 前の席の俊太がこそっと教えてくれた。(サンキュー、しゅんた)俺は小さく礼を言って立ち上がり、国語の教科書を読み上げた。
◇
四時間目が終わり、給食の時間。
腹が立っても腹は減る。今日は俺の大好物のカレーと冷凍みかんの日だ♪
給食当番が教室にワゴンを運び入れると、カレーの匂いが広がって、嫌でも心がウキウキしてくる。
配膳係がカレー、麦ご飯、海藻サラダ、そして冷凍みかんを配るがしかし、
「は…?」
俺は配られたカレーの器をみて愕然とした。
「めちゃくちゃ少ねーじゃん!」
文句言って見上げたら、白衣の三宅がニヤニヤ笑ってた。
「!!!!」
ちきしょーっ!!そういえばこいつ給食当番だったんだっ!
「ひっ、卑怯だぞっ!給食減らすなんて!」
俺はムカついて三宅に抗議した。
「別に減らしてないし♪それに、足りなきゃおかわりすればいいだろ」
ふふん♪と楽しそうに鼻を鳴らして前に戻る白衣姿の三宅を見て、ますますもってムカついてきた。
「ほんっといい性格してるよな、あの平安美人」
三宅を指さして給食の時間は隣に席を並べるしゅんたにそう言うと、
「森山最低…」
「本当だよ、自分が悪いのに、まりのちゃんの悪口言うなんてさ!」
向かい合わせに席をつけた普段は俺の隣の席の長谷川と、俺から見て右斜めの土屋が睨んで文句を言ってきた。
「は?俺、別に悪口なんて言ってねーし。性格のいい平安美人て褒めてやったじゃん」
へんっ!と鼻を鳴らす俺を見て、隣でしゅんたは笑いをこらえてうつむいた。長谷川と土屋は悔しそうな顔をしたけど、それ以上は何も言ってこなかった。
つーか、机を離して完全にシカト状態。ま、別にいいけどな。こいつらにシカトされても、俺は全然困らないし。それよりも、
「さっき、国語の時間はありがとな、しゅんた」
俺はしゅんたにさっき助けてもらった礼を言って笑った。
「いいよ、別にたいしたことじゃない」
ちょっと照れくさそうに笑い返すしゅんたを見て、こいつ、いい奴だよなぁ…としみじみと思ってしまった。特に今日みたいにギスギスした日は、人の小さな優しさがしみるもんだなぁって改めて気づいた。
「いただきます」の号令がかかり、お待ちかねの給食が始まった。
(盛りは少ないけど)大好きなカレーをほおばりながら、
「うんめえ~っ♪♪
給食のカレーって、なんでこんなにうまいんだろうなぁ~♪」
麦ごはんをカレーの器に半分突っ込み、あっという間に平らげて、俺はダッシュでお代わりへと向かう…がしかし…。
教卓の真横から、すくっと立ち上がった平安美人、いや、今は爆食人間と呼びたい三宅のうぜー姿が!!! 俺より先にカレーの寸胴に駆けていき、へっへ~ん♪と鼻を鳴らして、自分の器にたっぷりとカレーをついだ。
「あっ!お前!ずりーぞっ!!そんなに盛りやがって!」
カレーの残りが気になって、寸胴を覗きこんだら、「げっ!!!残り少なねーしっ!!」
「うけけっ♪給食は早い者勝ちなんだよ♪みんな~、カレー残り少ないから、早くお代わりしたほうがいいよ~♪」
三宅の掛け声に、男子の食べるスピードがあがる。ちきしょーっ!!俺、三杯目も狙ってたのに!余計なこと言いやがってあのクソ女!
勝ち誇ったように笑い席に戻っていく三宅を憎々しくにらみ、俺はカレーをよそい席に戻る。
二杯目を食べてる間にカレーの寸胴はお代わり男子軍団なあっさりと空っぽになってしまった。
がっかりして、あんまり好きじゃない海藻サラダを渋々平らげて、本日のメインイベントと言っても過言ではない、冷凍みかんに手を伸ばす。
薄い氷が皮に張りつき、ぴかぴかひかる冷凍みかんをうっとり眺めて、
「この、溶けかけでほどよくシャリシャリしたのがうまいんだよなぁ~♪」
感嘆して、冷凍みかんの皮をゆっくり堪能しながら剥いていく。
「ユウジ、冷凍みかん本当に好きだよね」
しゅんたは隣でのんびりとカレーを食べながら、俺を見てふふっと笑った。
「俺、給食に毎日冷凍みかんでもいいと思ってる」
「家でみかんを冷凍庫にいれとけばいいじゃん」
「ちっちっち。それはちょっと違うんだよ。給食の、この溶けかけた冷凍みかんだからうまいんだよ」
俺はみかんを一房口に放り込み、くぅう~、冷たくてうんめぇえ~♪とボリュームをしぼりつつも叫ぶ。「ふーん、そういうもんなんだ」
再度ふふっと笑ってカレーをほおばった。
「おーい、今日は山崎が休みだから、冷凍みかん一個余ってるぞー」
八代先生の声に俺はガバッと立ち上がったら、前の席でもちろんといわんばかりに三宅も立ち上がる。
それから、岩木に原田に吉川も!!!
ちきしょー、本当にこいつらデザート争奪戦に毎回エントリーしてきやがる!
「よし、いつも通りにジャンケンな」
川島先生の掛け声に配膳台の横では、冷凍みかんをかけて激しい火花を散らす俺達。
「つーか、女子は遠慮しろよな。デブになるぞ」
岩木がけっ、と憎々しく三宅を睨んだが、
「うるせー、メタボリックゴンザレス(三宅が即興で今つけたあだ名)お前のほうこそデブなんだから遠慮しろ」
三宅は岩木にビシッと指をさして、へんっ!と鼻を鳴らした。
(メ、メタボリックゴンザレス!!!)
教室内は三宅の叫びにゲラゲラ笑いだす。
俺もその意味のわかんねーあだ名に手を叩いて笑ってしまった。
「何笑ってんだよ、エロザビエル」
岩木が舌打ちして俺を睨んできた。
「うるせー、黙れ、ゴンザレス!!」
俺と岩木が小競り合いしようとしたらいきなり川島先生が、
「最初はグー、じゃんけん―――」
いきなりジャンケンの号令をかけた!
条件反射でみんなが手を出すと………
三宅以外はみんなチョキ。
「「「「げっ!!!」」」」
「ぃよっしゃぁああっ!!」 歓喜の雄叫びを上げてガッツポーズの三宅。
「イェーイ♪これで三個めだぁあっ♪」
冷凍みかんを手にいれて、喜び勇んで席に戻ろうとするが、
「はぁあああ?
ちょい待った!三個ってどうゆうことだよ!」
勿論噛み付いたのは俺だ。だっておかしいじゃん。「なんで冷凍みかん三個も持ってんだよ!」
納得いかずに叫ぶ。
「むふふっ♪心優しい女子が私にくれたんだよ♪」
三宅は自分の席に並んだ二個の冷凍みかんを見せびらかしてにんまりと笑みを浮かべた。
「ずりーじゃねーか!持ってんならジャンケンなんかに参加すんなよ!」
「うるせーなあ!そんなルールはないのに文句つけるなよ!ザビエル!悔しかったらジャンケンに勝つか、女子にもっと優しくするんだね。ま、お前みたいな変態エロ男子は女子はお断りだけどさ!」
んもぉおお、すっっげー
ム カ つ い た!!!
もう我慢の限界だぜ!
「ザビエルじゃねーよ!!!この爆食ブスゴリラ!!!」
俺はありったけの怒りを込めて三宅に叫んだ。
「ばっ、爆食ブっ!!!!」
三宅は真っ赤になって憤怒して、
「もーマジムカついたぞ!死ねぇえっ!!!!変態クソザビエルっ!!!!」
三宅は左足を素早く上に振り上げて、いきなり俺のちんこを蹴飛ばすという残虐な反則行為をかましてきた。
「ぐっ・・・・・!!!!」
あ、あり得ねえ。
あり得ねえだろ…?
普通いるか?小五にもなって、男子のちんこをなんのためらいもなく蹴飛ばしてくる女子って・・・・
(先生、これっていじめじゃね?)
俺は股間を押さえ悶絶しながら先生に助けを求める……がしかし、
(わ、笑ってやがる、あのクソジジイ…)
ミスター川島は、目頭を押さえて、別の意味で悶絶してるよ。
つまり、爆笑してるってこと!!
同じ男なら、この気持ち(痛み)がわかるんじゃねーのかよ! つーか、明らかに卑劣な暴力行為だろ?これ。
「女子に失礼なこと言ったら絶対にゆるさんっ!!!!」 ふんっ!と鼻息を荒げて俺を指さす三宅に、教室の中の女子から拍手と「まりちゃんカッコいい~♪」と黄色い声援が飛び出す。
ちっきしょーーーっ!!!
悔しい、悔しいっ!悔しいーーーっ!!!
その時、
「女子の横暴を許すな!」 男子が怒り混じりに叫ぶ。その波は徐々に広がり、「女子はでしゃばるな!」 「ひっこめ!三宅!」
「そーだそーだ!!!」
「ブス軍団ははひっこめ」
(な、なんだぁ、この空気は・・・・)
俺はちょっと引いた目で教室を見回した。
「なによー!あんたらキモいし!!!」
「つーか汚いからしゃべんな男子!!!!」
「ブサイクが文句言うんじゃないわよ!!!」
「そーよそーよ!!!」
女子もエキサイトしてる。俺と三宅はちょっと唖然としてその異様な光景を眺めた。
「な、なんかヤバくね?」
俺はつぶやいて、三宅と一緒に再度川島先生を見た。さすがに先生もヤバイ空気を察したみたいで、
「はいはいはい!もうヤメロ!!!しーずーかーにーしろっ!給食の時間がもうじき終わるぞーーっ!!!」
机をバーーンと叩いて立ち上がった。
しーーんと教室の中は静まった。でも、不穏な空気は全っ然消えてない。
「マズい。こりゃ、戦争が起きるな…」
三宅は真面目な顔してぽつりとつぶやいた。
「なんか、本当にマジでヤバイかもな…」
喧嘩した張本人である俺達だけど、いきなり勃発したクラス内の「男子VS女子の戦争」に驚き気圧されしつしまった。
◇
それから一週間が過ぎて、戦況は圧倒的に男子が不利な体勢になっていた。
学級委員長の坂本信男と中村ミサはこの戦争には関わらない「永世中立国」みたいなもんで、もちろん始めは「戦争反対」を掲げてたけど、何度となくそれを掲げても聞く耳持たずなクラスのみんなに愛想をつかしたのか、「勝手にしたらいいじゃん」と戦争には絶対に関わらない態度を示した。
何故女子が有利かって?
それは、もちろん俺を含めたクラスの男子の日頃の生活態度がぶっちゃけ悪いからなのだ。
まず、男子は極めて忘れ物が多い。
中でも教科書の忘れ物は男子軍にはそれはキツいものだった。
だって、教科書忘れたら普段なら隣の席の女子に見せてもらうけど、今この戦中にそんなお人好しはいるわけがない。
だから、教科書を忘れたらはっきり言って普段意味不明な授業がますます意味不明になるのだ。
特に最悪なのは国語と社会と音楽。
先生は「基本は忘れ物した奴が悪いぞ」と言うけどさ………。
そりゃ忘れ物しなきゃいいだけの話なんだけどさ…。
まあ、男子ってのはさ、放課後にわぁああ~って遊んじゃったらそんなことは忘れてしまうんだよ。
学校に教科書を置いていくってウラ技は見張りの女子が先生に密告するから無理だし。
あと、掃除の時間も結構大変だ。
今までは何だかんだ遊べてた掃除の時間。
ホウキと雑巾で廊下でホッケーしたり、特別教室で鬼ごっこしたりできなくなっちまった。
普段なら女子が文句いいながらもやってくれてた掃除も今は自分達の分しか掃除しなくて、男子の分は残すから嫌でもやらなきゃいけない。
あと給食な……。
普段、あんまり食べない女子からおすそわけが貰えない。給食大好きな俺にはこれはかなり厳しい仕打ちだ…。
こうやって戦争してみると意外と女子ってさ、悪いとこばっかじゃないんだよなって気づくこと、たくさんあるんだよなぁ…。
(何とか元のさやに戻る方法はないだろうか…?)
大きなため息が出た。
「あのさぁ、ユウジ…」
帰りの会が終わってランドセルを背負うと、しゅんたが苦々しい顔で俺にこんなことわ耳打ちしてきた。
「岩木と鈴川と八嶋が――――」
「―――はぁっ!?しゅんた…マジか…、それ…」
俺は、しゅんたの両肩を握って凝視する。
「うん…。間違いなく聞いた。六時間目の前の五分休みの時、トイレでしゃべってた…。ユウジ、どうしよう…、川島先生に―――」「まだやってもいないのに先生に言っても無駄だ。だって、岩木みたいなズル賢い奴は絶対知らばっくれるぞ」
「じゃあ…どうすんだよ、このままだと……」
「しゅんた、現場を押さえるぞ」
「えっ!!!!」
「俺達で岩木達の悪巧みを潰すんだよ」
俺は、にんまりと笑ってしゅんたを見つめた。




