クダラナイ思い出
飼育委員ってさ、ほんとやな仕事だよ。
うさぎは可愛いさ。
ああ、ほんとに可愛いい。
ただし、数匹ならね。
でもさ、この飼育小屋みたいに、囲い一面雪まみれのようにまっ白くて、うじゃうじゃと寿司詰め状態のうさぎを見つめてると。
ため息しか出てこないよ…、ほんとにさ…。
まぁ…、ね…、こうなったのも、オスとメスを分けずにごちゃまぜで飼育してた俺らが悪いんだろうけどさ…。
しかもね、こいつらさっきの委員会でさぁ…。
飼育の先生から『死の宣告』されちゃったしね…。
信じられるかい?
学校の先生が『死の宣告』だよ?
俺:
「先生、ラビットフードがもう無くなりそうです、買って下さい」
先生:
「餌を買う予算がない」
俺:
「は…?」
先生:
「だからさぁ、学校から予算がでないの!」
俺:
「ぇ…でも…」
先生:
「今ある分の餌と、それからみんなぁ、当番の日は、家から要らないって捨てる、キャベツの葉っぱとか人参の切れ端とか持ってきて」
みんな:
「え~~っ!」
先生:
「面倒臭いなら、極力餌減らしてうさぎの数減らしてくしかないよね」
先生の言葉に耳を疑ったよ。
俺:
「…先生、何で学校ってうさぎ飼ってるの?」
俺は、飼育委員になってから、ずっと疑問に思ってたコトを先生に質問した。
先生は、
「そんなコト、先生が知る訳ないじゃん」
けろっと言い放った。
偽善的でもいいからさあ、もうちょっとマシな解答をくれるよ思っていた俺が馬鹿だったとつくづく思うよ…。
先生は続けざまにこう言った。
「まぁ…、この世は所詮、弱肉強食だよ。あのうさぎ達にも、教えてやるいい機会だと言うコトで、ね」
……
先生ってさ、飼育小屋のうさぎ達に《バトルロワイヤル》的なことをさせるつもりだ。
餌を減らして争わせて、最終的に生き残ったやつらを俺らが飼育するというわけだ。
なんかさぁ…。
気持ちがすごく冷めた。
数日後、飼育小屋に行くと、痩せて傷だらけのうさぎが3匹死んでた。
飼育当番の女子が、
「酷いよぉ…、可哀相だよ…。」
鼻をすすって泣いた。
俺はそいつにこう言ってやった。
「可哀相だと思うなら、早くここから出して埋めに行くぞ」
女子は、
「やだぁあ!!気持ち悪いもん!触れないよ!」
まるで汚物を見るように顔をしかめて叫んだ。
馬鹿馬鹿しいよな…。
全くもって馬鹿馬鹿しい。
『可哀相』なんて言葉は、自分がいい人だって思われたいが為の偽りの仮面だ。
俺は、毛が毟れ、ところどころ赤く染まったうさぎの亡きがらを両手ですくいあげて、
《うさぎ霊安室》と呼ばれている校舎裏の木の下に埋めに行くために歩きだした。
木を少し掘り返すと、土で汚れた白い足がひょこりと顔を出す。
「ああ…、ここも満室かぁ…」
少し離れた別の場所を掘る。
「…骨、出てきたし…。まぁ、しょうがないよな。ここにしとこう…」
俺は、ため息をひとつついて冷たく固まったボロ雑巾のようなうさぎを埋めた。
(ほんと…、何で学校ってうさぎ飼ってんだろうなぁ……)
俺は、掘り返されて湿った土の山を見つめて、心の中でぼやいた。




