僕とカノジョの《にゃんだふる》な10分。
加筆、修正してあります。
僕の名前は、如月優太。18才の大学1年生である。
とある田舎町から単身でこの街に来たのは3ヶ月前の3月の中頃。
ちょっと古めかしい、1DKのアパートが、僕の生活する城である。
築30年と言う物件の古い外観は、ちょっとありえないくらいおどろおどろしさをかもしだしてはいるが、中はちゃんとリフォームがしてあり、うん、中々悪くないと言ったところだ。
今まで、一人暮らしをした事がない僕は、独り身の寂しさ故か、いやいや単なる《猫好き》か…
まあ、そんな事はどうでもいいとして。
拾っちゃったんですよ♪
実はね。
超、らぶりぃな《カノジョ》を。
:::::
時刻は、午前6時30分を過ぎた辺り。
『にゃあぁん……♪』
カノジョは、甘えた声で僕の頬っぺたに顔を擦り寄せる。少し高めのちいさな声が耳元を揺らすが、
「う〜ん……もうちょっとぉ……、」
低血圧で寝起きの悪い僕は、半分起きないぼけた頭でカノジョをふにゃりと撫でる。
そんな僕の手を、ざらざらっとした舌でカノジョは舐める。
『早く起きなきゃ♪』
そう言いたげに。
「う〜ん…もうちょ−−」
それでも起きなきゃ、カノジョは、僕の上にトスンッ−と乗っかり、僕の体の上を歩き回る。
ひたすら、軽い体で
ふに ふに ふに
ふに ふに ふに
…と言う具合で僕の体の上を、行ったり来たりとひたすら歩き回るのだ。
「わかった、‥わかったよぉ〜…。」
僕は、苦笑いを浮かべつつバンザイのポーズでカノジョに声をかける。
降参して僕が起きたのを確認するかのように、じっと僕を見つめて、スタン‥と体から降りると、再度僕の頬を舐める。
僕は、むくりと起きあがり、
「おはよう、ちくわ♪」
愛しいカノジョの名前を呼ぶ。
『にゃあぁ〜♪♪』
とカノジョはまるで、僕の言葉がわかるかのようにひと鳴きして肩によじ登る。
ここで皆さま、お気付きだろうと思いますが、僕の愛しい『カノジョ』とは、可愛いらしい茶とらの《猫ちゃん》♀ なのです。
名前を《ちくわ》と言います。
ん?何故ちくわって?
それは、勿論僕が世界で1番愛している食べ物だからと言う、単純明快な理由。
僕は冷蔵庫にちくわがないと、不安で生きてゆけない程ちくわが大好きでなのである。
猫ちゃんである《ちくわ》もまたそれと同じ。
僕は、カノジョがいないと生きてゆけないくらいに、カノジョが大好きなのだ♪
カノジョは、喉を鳴らしながら、僕に身を擦り寄せる。
「はぁ〜、君は…なぁんて可愛いいコなんだぁ♪」
僕は、カノジョをそっと胸の中に包み、頭をすいぃ〜っと撫でる。
カノジョは、気持ちよさ気にうっとりと目を閉じる。
毎朝の儀式。
僕は、カノジョに「おはよう」のキスをする。
::::
翌日、日曜日。時刻は午前9時。
どうしたんだろう?今日はいつも、僕を起こすカノジョの気配がない。
(…どうしちゃったんだい?)
僕は、寝ぼけ眼で辺りを見回す。
「ん…?」
隣に気配が。
でも、何かが違う。
猫ちゃんじゃない−−。
ベッドの、僕の隣には
もうひとつの
「えっ? な、何??
ひ、人がいるっ…!?」
僕は、息をひそめて恐る恐る掛け布団をめくった…。
「−−−!!」
僕は、めくった掛け布団を慌てて元に戻し考える。
(なな、な、な何で?
何で何で何でぇえっ!)
何でぇえっ!?
僕の隣に《女の子》が寝てる!?
しかもっ!!!
ふ、ふ、ふ服を着てないっっ!!!
頭の中は真っ白でだけど、僕の顔はきっと真っ青で、いや…、きっととんでもなく真っ赤であるだろう。
軽く、いや‥そうとうパニクっている僕の隣で
《女の子》はゆっくりと目を覚まして、むくりと起きる…。
(うわぁあっ!!なんかヤバイっ!どおしよおぉっ!!)
僕は、勢いよくベッドから飛び出し、
「だだだだだれ‥?」
超焦って、超どもって……。
そんな僕に、《女の子》は、
『にゃぁああ〜ん♪』
と、甘えたょうな高くかわいらしい声を放った
にゃぁああん?
にゃぁああん……、
にゃ、にゃぁあんって、
ま、ま、まさか。
僕は、《女の子》を
凝視した。
まさかとは思いつつも、恐る恐る名前を呼んでみる。
「ち、ちく‥わ?」
僕の声に
『にゃぁああ〜♪♪』
《女の子》は、布団からもぞもぞと這い出し、僕に向かい四つんばいで駆け寄り、飛び付き!
僕の頬っぺたをペロっと舐めた…!
はい。。。
意識が遠退きかけました…。
あっ、ありえないでしょ!?
真っ裸の《女の子》に抱きつかれて、ほ、頬っぺた舐められるなんて!
とととりあえず服っ! 裸はいかんっ!!
僕は、慌てて箪笥からTシャツを引っ張りだしカノジョにズボッとかぶせ、着せた。
『に゛ゃっ!!!』
カノジョは、いきなり服を着せられ驚きの声をあげた。
「お願いだよ!ちくわぁっ!我慢して、服を着てくれっ!」
僕は、不甲斐なくも真っ赤になり、焦り、カノジョに手を合わせて頭を下げる。
カノジョはそんな僕の事を気にもとめずに、膝元に体を擦り寄せる。
「の゛わぁあっっ!」
僕はびっくりし過ぎて、ど赤面してわけのわからない奇声を発してしまった。
カノジョにしたらいつもどうり。当たり前のように、僕の膝の上に乗ろうとするが、
「ちょ……っ!ちょい待った!タイムっ!!」
僕は、カノジョの肩を押さえて、至近距離になるのを制止する。
カノジョは、にこやかに笑い、手をシャッ、シャッと揺らし、僕の手にじゃれてくる。
「ちっ、ちくわぁっ!!
やぁめぇえろぉおっ!」
僕は、カノジョが揺れ動く度に同じく揺れ動くTシャツの胸元に、情けなくもちらちらと意識が向かい…。
めまいすらして爆死寸前…非常に危険な状態に陥っている。
中身はにゃんこ。しかし外見は女の子。
…心臓が物凄い勢いで、意識が飛びそうだ。
そんな僕の態度を知ってか知らずか、カノジョは華奢で小さく、しなやかな体で、ピョーンと
僕に飛び付き−−−−
『にゃぁぁあん♪♪』
と小さく鳴き声をあげ僕に、「ちゅっ♪」と唇を重ねてきた。
ボフンッ−−−!
僕の心の中で何かが破裂するような音が響いたような気がした。。。
そして、僕の回路は
完全に
ショートしてしまったのである………。
「う〜〜〜ん……。」
目を覚ますと傍らにいつも通り、ぐるぐると喉を鳴らし目を閉じる小さな茶とらのカノジョがいた…。
「ちくわぁぁ〜。」
僕はさらり艶やかなカノジョの頭を撫でて脱力感いっぱいの情けない声をあげてその小さな体を見つめた。
カノジョは、僕のTシャツにくるまり、気持ちよさ気にこちらをちらりとみた後、
『にゃあぁ♪♪』
と小さく鳴いた。
「あ、あれは、…夢?」
僕は、唇を指でなぞる。
「ゆ、夢にしちゃ、超リアルだったなぁ…。」
ははっとひとり、照れ笑いしカノジョを見つめる。
時刻は、9時10分。
たった10分の、
不思議な、不思議な出来事だった。




