嘘をついて笑う
阿子は少し恋愛に臆病な二十歳の女の子。今まで数人とお付き合いしたことがあるが、臆病になりすぎて振られてしまうのが常だった。
──ランチタイム。
「阿子、また恋の悩み?」
大学の友人である美嘉が、可愛らしいお弁当を箸で突きながら言った。
「うん、そんなとこ」
阿子にはもうすぐ付き合って1年になろうとしている彼氏がいた。名前は真信。同じ大学で同い年だった。
「阿子さ、恋愛してると見てて辛そうなんだよねー。真信君と付き合ってて楽しい?」
「そりゃあまぁ……楽しいよ」
──恋愛していると見ていて辛そう。
この言葉は、高校時代にも親友に言われたことがある。阿子自身は楽しんでいるつもりなのに、周りから見ると辛そうに見えるらしい。
「私達、合わないのかなー」
「いやいや、1年付き合っといてそれはないっしょ。また阿子が臆病になりすぎてんじゃないのー?」
美嘉の言うことは正しかったけれど、阿子に自覚がなかったため、自分のことを『恋に臆病』と言う人が理解できなかった。
「で、どんな悩みなの?」
美嘉は面倒くさいと思いつつも世話焼きタイプなので、いつも阿子のどうしようもない恋の悩みを聞いていた。
「なんかさー、真信君が他の女子と楽しそうに話してる姿を見てられないんだよね。これって私が真信君を信用してないってことじゃない?」
「はっ……そんなことー?」
「本当は話さないでほしいのにそんなこと言えないから、見なかったことにしてさ、デートの時には笑ってさ。それって心から笑えてるのかなーって思うことあるんだ」
美嘉は内臓まで出てきそうなくらい深い深いため息をつく。
「ちょっと阿子、それ本気で悩んでんの? からかってるなら相談なんか乗らないよ?」
「本気だってば……! 自分でもどうしたらいいかわかんないんだもん……」
阿子から見る美嘉はとてもハッキリした性格で、自分もこんなにサバサバできたら悩みも減るだろうな、と思っている。自分にないものを持っている美嘉のことが、阿子は大好きだった。