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ウィリアム・ローゼン公爵

 フェリスの家に泊まることは、昨日『魔法通信装置』で報告したが、それでも、向こうから了承の返事がなかったので、もしかしたら無断外泊をしたことになっているかもしれない。


 私のお父様――『ウィリアム・ローゼン公爵』は、とにかく娘に激甘で、基本的には何をしても怒らないが、私が無断で外泊をすると、流石に心中穏やかではいられなくなるらしく、それまでの溺愛ぶりが反転するかのように大激怒し、お目付けが厳しくなるのだ。


 具体的にどう厳しくなるかと言いますと、しばらくの間、私の行動を見張るために、監視専門の使用人が数名、常にそばにつくことになるの。……そうなっちゃうと、これまでのように自由な活動ができなくなることは間違いないわね。


 この『監視専門の使用人』たちは、お父様直属の配下なので、他のメイドや使用人と違い、私がどれだけ喚いたりワガママを言っても、絶対にそばを離れたりしない。


 前に一度、無断外泊の罰として『監視専門の使用人』をつけられたときは、ほんと、大変だったわ。常に誰かに近くで見張られているってことが、どれだけしんどいかってことを、あの時ほど思い知ったことはない。


 ……ん?

『あの時』って、いつだろう?


 んんん……

 駄目だ、ハッキリとは思い出せない。


 それに、今、私、ちょっと変だったわよね。


 私の中にある『本来のミリアムの記憶』を通して、昔のことを思いだしたっていう感じじゃなくて、まさに、私自身の経験って感じで、『監視専門の使用人』のことが、頭に浮かんだり消えたりしたわ。


 うーん……なんだろう。

 この、頭がむずむずするような、変な感じ。


 ……いや、まあ、そんなに考え込むようなことでもないか。


 最近は、『私』と『本来のミリアム』を、分けて考えるのが普通になってたけど、私自身もミリアムであることには違いないんだもんね。ミリアムの経験が、私の経験として思い出されても、別に不思議じゃないわ。


 私は、自分の頭をツンツンと指でつついて、ポツリと呟く。


「だいたい、ここに詰まってる脳みそは、『私』と『本来のミリアム』、二人で共有してるんだしね」


 いやいや、『二人で共有』っていう表現はちょっとおかしいか。

 でも、他に良い表現も思いつかないなあ。

 まっ、別に深く考えるようなことでもないわね。


 さて、いつまでもあれこれ考えていないで、早くお屋敷に帰ろうっと。



 ローゼン邸に帰った私を待っていたのは、飛び切りの怒声だった。


「ミリアムッ! 朝帰りとはどういうことだ! 許さんっ! 許さんぞっ!」


 このお屋敷の中で、こんなふうに私を怒鳴りつけることができる人は、ヒルデガードを除けば、たった一人しかいない。もはや、説明するまでもないだろうが、それは、家中で最も偉いお人――つまり私のお父様、『ウィリアム・ローゼン公爵』だ。


 場所は、ローゼン邸の超豪華なエントランスホール。帰ってきた私は、そこでお父様と鉢合わせし、それはもう激しく叱られているのである。


 お父様は、私と同じ金色の髪を怒りで逆立たせ、激昂した。


「ワシは、お前が欲しいものはすべて買い与えてやる! したいことがあるなら、なんでもさせてやる! だがな! 無断でどこかに泊まるのだけは許さん! 言え! いったい、どこのどいつのところに泊まってきた!? まさか、男の部屋ではあるまいな!?」

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