表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/121

事務局の対応

 そんなことを考えていると、こちらで『魔法通信装置』を起動したときと同じ、『ブォン』という音が鳴った。誰か出てくれたんだ。


 現在、夜11時27分。


 あわわ、もう時間がない。

 この黒い水晶の向こうにいるのが誰だかわからないけど、とにかく用件だけは伝えておこう。私は、つい先程そうしたように、一度だけ息を吸って、一呼吸でフェリスについて説明し、『今晩はフェリスの家に泊めてもらう』とまくし立てた。


 現在、夜11時28分。


 そこで、『プツッ』と音がして、通信は切れた。


 早い早い早い!

 魔法通信事務局のお姉さん! まだ2分残ってるよ!


 現在、夜11時29分。


 もう、魔力を流しても、どれだけ問いかけても、『魔法通信装置』は何の反応も示さなかった。う、うーん……一応、どこの誰のところに泊まるかは伝えることができたし、大丈夫よね、たぶん。


『魔法通信装置』相手に奮闘していた私に、フェリスが話しかけてくる。


「11時半になる前に、切れちゃったわね。もしかして故障かしら?」


 私は『魔法通信装置』を元あった場所に戻すと、ちょっぴり大げさに肩をすくめ、言う。


「違う違う。ギリギリで通信してると、こういうこと、よくあるのよ。魔法通信事務局の人によって、11時半ピッタリまで待っててくれる人と、そうでない人がいるの」


 さっきも色々説明したが、私は魔法通信事務局の対応にはかなり詳しい。いや、正確には、私の中にある『ミリアムの記憶』が詳しいというべきかな。ミリアムは夜遅くまで『魔法通信装置』を使って、しょっちゅう取り巻きたちを相手に長話をしていたからね。


「へえ……」と感心した声を漏らすフェリスに対し、私は自身の博識を誇るように、話を続ける。


「だいたいは、28分か29分で、通信を打ち切っちゃうわね。早い人の場合、25分で切られたこともあったわ。夜も遅いし、ちゃっちゃと仕事を終わらせて帰りたいんだろうけど、お給料もらってやってるんだから、規定時間まではちゃんとやってもらいたいものよねぇ」


「でも、時間ギリギリに通信をする方にも問題がないとは言えないわ。今度からは、時間に余裕を持って通信しましょう。私も気をつけるわ」


「はぁい」


 そんなこんなで、なんとか外泊することを家に伝えた私は、『こめつぶ荘』でお風呂を借りた。……浴室に向かう際、当然部屋を出て、廊下を通らなければならなかったが、フェリスに怒られたのが相当こたえたのか、幽霊たちは、一切ちょっかいを出してこなかった。


 それでも、すぐ近くに幽霊がいると思うと、とてもゆったりお風呂に入る気にはならない。私はフェリスと共に、手短に入浴を済ませると、部屋に戻り、二人してベッドに倒れ込んだ。


 高級品とおぼしき、ピンク色のふかふかベッドからは、とても良い香りがする。花のように、ほのかに甘く、そして優しい匂い。


 ……これは、フェリスの香りだ。


 瞳を閉じ、枕に顔を埋めて鼻を鳴らすと、肺いっぱいにフェリスの香りが入り込んでくるようで、頭がぽぉっとなる。


 ああ……とっても良い香り……

 この素晴らしいフレグランスを、もっと堪能したい……


 そこまで考えて、自分でも若干変態っぽいわねと思ったけど、本当に良い香りなんだもん。嫌なにおいに顔を背けるのが自然なように、良い匂いをもっと嗅ぎたいと願うのも、自然なことよね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ